第7話

 なるほど、そういうことか。

 あたしは、たった今紹介されたこの講座の特別ゲストを見ながら、納得した。

 今日は特にそのゲストさんのために、応募者が殺到していたことも、その紹介で知った。

 ついでに今回の講座が人気すぎて抽選だったことも知った。

 どういうことだ、抽選だったなんて欠片も知らなかったぞ。

 そんなお知らせも無かったし。

 同封されてた申し込み用紙に必要事項を書いて応募したら、今日の講座に参加OKの返事がきただけだった。

 ちくしょう、どうせなら落としてくれたら良かったのに。

 そうしてくれていたら、さっきみたいな変な言いがかりおばさんに絡まれる事も無かったのに。

 付き合ってくれたなっちゃんにも、嫌な気分を味合わせる事も無かったのに。

 さてそんな講座の特別ゲストは、テイマー界隈ではわりと有名らしいイケメンセレブの青年だった。

 二十歳の大学生で、実家も超超超有名な大会社を経営してるらしい。

 良かったな、マリー。

 お前の好きな王子様は、現代にも居たぞ。

 美貌揃いのハイエルフや吸血鬼にも負けず劣らずの整った顔立ちの青年である。

 少し癖のある金髪、そして紫色の瞳。

 肌は、マリーやばあちゃんみたいにツルツルスベスベしているように見えた。

 お父さんの肌は、白いことは白いが半分吸血鬼なのでどちらかというと、死人に近い白さなので、比較にはならない。

 比較できるのは顔くらいだろうか。

 中身はお母さんの尻に物理的に敷かれて喜ぶ変態だが、顔だけはいい。


 それはともかく、特別ゲストさんはいろんな話をしてくれた。

 その話はとても面白かった。

 彼がテイムし、育ててきたモンスターのあれこれ。

 モンスターを飼った後の法律とかの縛りについて。

 エトセトラエトセトラ。

 それらを面白おかしく、そしてわかりやすく話してくれるのだ。

 そういえば、この人、今は名門大学に籍を置いてるとか自己紹介で話してたな。

 そうした話の後、今度は芸などの仕込み方についての実技の講座となった。

 しかし、時間的には昼休憩にちょうどいい時間帯だったので、そのまま休憩となった。

 この部屋では飲食が認められているので、参加者たちは自分達とそしてペットの食事を用意し、思い思いに食べ始めた。


 「おおぅ、ココロ、これ自分で作ったの?」


 あたしのお弁当を覗き込んでいたなっちゃんが、聞いてきた。


 「ばあちゃんが作ってくれた」


 「いいなぁ、美味しそう」


 ばあちゃんは、ハイエルフのため肉とかは食べられない。

 しかし、自分で食べるのでなければ料理することに躊躇いはないらしい。

 お弁当には、卵焼きにタコさんウィンナー等、まぁ小さい子なら大喜びしそうなオカズがギチギチに詰められていた。

 ちなみに、おにぎりの具は梅干しと昆布の佃煮だった。

 その横では、タマがもしゃもしゃと雑草を美味しそうに食べている。

 その姿はさながら、海産物の雲丹のようだ。

 名前、雲丹でも良かったかも、と思った。

 ちなみになっちゃんのお弁当は、コンビニで買った菓子パンだった。

 学校でも時折食べている菓子パンだ。

 彼女はこれが好きらしい。


 「見た目はね」


 そう、見た目は美味しそうだ。

 いや、味も美味しい。

 でも、味付けは好みが別れるところだ。

 とくに、卵焼きはそれが顕著だ。

 この卵焼きは、あたしには十分美味しい卵焼きだ。

 しかし、他人からしてみたらクソ不味いと評価されるだろう味付けなのだ。


 「見た目?」


 なっちゃんの問いかけに合わせて、タマもモサモサと、草を頬張りながらこちらを見てきた。


 「そ、あたし、砂糖たっぷりの甘い卵焼きが好きなんだ。

 ばあちゃんはそれを知ってるから、必ず甘い卵焼きを作ってくれる。

 でも、これはだし巻きとかが好きな人から言わせれば邪道で、許せない、クソ不味い味付けになってるの」


 「あー、そういう意味か」


 「面と向かって家族がせっかく作ってくれた料理、食べもしないやつに説明だけでクソ不味いって言われたらさ、普通は怒るよね」


 「あー、うん、わかるわかる」


 「でもさぁ、世の中って理不尽だよねぇ」


 「どれが?」


 「ほら怒るとさ、相手は途端に笑ってこっちの怒りをバカにしてくるからさ。

 自分は悪くありません。そう勘違いした貴方が悪いって。

 ねぇ、悪いのはどっちなんだろうね、ほんと」


 そんなちょっとした愚痴を漏らした後は、話題を変えた。

 思った以上に、あたしはストレスが溜まっていたようだ。

 しばらく、くだらないことで駄弁っていたら、特別ゲストの講師が声を掛けてきた。


 「楽しそうだね。

 君たちは初めて見る顔だ。それに、この子はどっちの家の子かな?」


 その頃には二人ともお弁当を食べ終えていたのもあって、おかしな話だけれど、あたしとなっちゃんは揃って首を傾げて特別ゲストを見返したのだった。


 タマを優しく丁寧に撫でながら、講師さんはあたし達を見てくる。

 その手つきで、なんとなくこの人は悪い人ではないんだろうなと思った。

 

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