毛玉スライム飼ったらこうなる

ぺぱーみんと

第1話

 脱衣場の隅に置かれた体重計。

 久しぶりに測ってみるかと乗ってみたら、残酷な現実が待っていた。

 いやいや、うん、風呂から上がったばかりで水もまだついてるし、よくバスタオルで拭いて、と。

 いざ、再挑戦。


 「HAHAHA、おいおい体重計、なんだその数字は?

 笑えない冗談はよせよ、HAHAHA」


 通販番組の司会のような口調で言いつつ、一旦体重計から降りる。

 深呼吸して、また乗る。

 現実が突きつけられた。


 「シャレにならん!!」


 ダイエットしなければ!!

 翌日から、あたしは筋トレやランニングなどを始めたわけだが。

 HAHAHA!

 続かないよねぇ。

 うん、知ってた!!

 自分のことだからね!

 知ってたよ!!

 しかし、これは由々しき事態だ。

 これはもう、ジムか、ジム通いしかないのか?!

 という叫びを、さっそく学校にて級友であり、オーガ族であるために格闘家のようにガタイのいい、自分と同じ女子高生にぶつけたところ。


 「犬飼えば?

 ウチも飼ってるけど、定期的に散歩行かないとだからいい運動になるよ。

 ちなみに私はそれで五キロ落ちた」


 と返ってきた。

 なん、だと?

 五キロ?

 マジか!!


 「なるほど。でも、ペットショップの犬とかって、高いよ?」


 あたしは平静を装い、そんな金は無いと口にした。


 「いや、別に無理やりお店で買わなくても、保健所とかで保護されてるのもらってくればいいんだよ。

 保健所じゃなくても、そうだなぁ国道沿いのホームセンターとか、役所の隣にある冒険者ギルドとかの掲示板なんかには、保護団体なんかが里親募集の張り紙してあるしね。

 そういやアンタの家、猫飼ってるんだし。猫にリードつけて散歩させたら?」


 「それは難しいなぁ。なにせ猫だし。気ままな猫だし。

 でもそっか、里親って手もあるんだ。

 ウチの猫たちは野良が産んだ子達だし、その発想は無かった」


 「なんなら、今日の帰り寄ってみる?

 ホームセンターもそうだけど、スーパーの休憩コーナーなんかにも張り紙あるしさ」


 級友のその提案に、あたしは頷いた。


 そして、放課後。

 さっそく、国道沿いのスーパーに寄ってみた。

 級友に案内されるまま、掲示板に貼り付けられいた里親募集の紙をチェックしてみた。

 おー、あるある。

 犬に猫、はぁ、ドラゴン!

 すげぇ、ドラゴンの里親募集なんてあるんだ!

 あ、こっちは犬型のモンスターだ。


 「すげぇ、こんなにいるんだ。

 保護動物と、あとモンスターって」

 

 「最近はモンスターをペットにする人も多いみたいだしねぇ。

 ただ数が多くなるにつれて無責任に捨てる人もいるから。

 ドラゴンなんて飼いにくいランキングで常にトップらしいし」


 「へぇ。

 猫は散歩行かないけど、モンスターはどうなの?

 やっぱり散歩行かせなきゃなの?」


 「日曜にやってる、セレブのお宅訪問の番組なんかだと、犬とドラゴン両方飼ってる人が散歩させてたなぁ。

 でも、ドラゴンって飼い主選ぶから。ご主人様って認められないと大変らしいよ」


 「ふーん」


 「他だと、あ、飼いやすいって意味ならスライムらしいけど」


 「スライム?」


 「そ、ペット用に品種改良が進んでてさ。

 比較的大人しくて人懐っこいんだって」


 「散歩は?

 しないと??」


 一番重要なのはそこである。

 定期的な運動として、散歩が出来るか否かだ。


 「検索すれば?」


 級友からの返事は素っ気なかった。

 しかし、たしかにその通りだ。

 文明の利器を使って、【スライム 飼い方】で検索をかけてみる。

 すると、出てくる出てくる。


 「放し飼いでいいんだ。でも敢えて散歩させてる人もいる感じかな。

 お、あ、マジ!!?」


 あたしの目に、とても有益な情報が飛び込んできた。

 なんと、スライムのエサはその辺に生えている雑草でいいそうだ。

 ただし、毒があったり除草剤の撒いてあるものはダメだが。

 エサの金の心配がいらない。

 これはとてもいい情報だ。


 「スライム、いいね!」


 「え、あんたスライム飼う気?

 マジ?」


 「餌代節約出来るってのは、親を説得するのに有利だから!

 なにせ、ウチ、猫が二匹いるからさー」


 と、なれば、どの子をお迎えするか考えねばならない。

 さすがに何びきもお迎えはできないからだ。

 あと、ほかに飼うために必要なものも調べなければ。

 猫や犬みたいに獣医さんに定期的にみてもらわないとなのか。

 あとあと、予防接種や避妊手術とかは必要なのか。

 場合によっては、短期のバイトを探してお金を貯めてからお迎えすることになるだろう。

 そうだ、念の為にフリーペーパーの求人誌貰っていこう。

 

 「楽しくなってきた!」


 「さいで」


 フリーペーパーの求人誌を片手に、この際なのでスーパーとギルドもハシゴすることにする。

 級友にハシゴすることを伝える。

 てっきり先に帰るかと思えば、暇だから一緒に回ってくれることになった。

 というより、元よりそのつもりだったらしい。

 そのまま、ホームセンターと同じ敷地内のスーパーの休憩スペースにも寄ってみる。

 そこには犬と猫の里親募集しか無かった。

 ホームセンターのもそうだが、なかなかカメラ写りがいい。かわいい。

 もふもふは癒しだ。そして正義だ。

 だがしかし、世界一可愛いのはウチの猫だがな。

 この子達を引き取って世界一可愛く愛でることが出来ないのが残念だ。

 残念この上ない。

 でも仕方ない。

 こればっかりは仕方ない。

 この張り紙の子達、犬や猫、モンスターのペット達を全て引き取るには、あたしはお金も能力も、そして責任すら、まるで足りないのだから。

 

 スーパーでは、本来の意味で休憩スペースを使って一息つく。

 それから、冒険者ギルドこと現代の派遣会社がある場所に向かう。

 夕陽が田んぼの向こうにある山へ落ちていく。

 そう言えば、冒険者ギルドって入ったことないんだよなぁ。

 今更だけど、あぁいうところって、あたしらみたいな高校生が自由に出入りしていいんだろうか?

 ま、行けばわかるか。

 

 「そういえば、なっちゃんさー」


 あたしはオーガの友人に訊ねた。


 「冒険者ギルド、よく行くの?」


 「うん?」


 「いや、普通女子高生が行くとこじゃないでしょ」


 「あー、うん。日雇いバイトしてる。

 ギルドで手続きしてアプリ入れとくと、依頼が色々来るんだよ。

 で、出来そうなの選んで小遣い稼いでる」


 「ほほぅ」


 小遣い稼ぎ、か。

 なるほど、そっちで稼ぐことも出来るんだ。

 いいなあ。

 なっちゃんみたいに、あたしもガタイが良かったらなぁ。

 それこそ、たまに山で異常発生してるモンスターを、こうドラマとかで主人公が退治するみたいに、あんな感じで大活躍の荒稼ぎとかしてみたい。

 ま、無理なものは無理だからいいや。


 「あ、あの建物だっけ?」


 あたしが見えてきた建物を指し示した。

 

 「ん?」


 あたしは、薄暗くなりつつある光景の中にそれを見つけた。

 なにかが、ギルドの建物、その入口前でぴょんぴょんと跳ねていたのだ。

 太陽はまだ沈んでいる途中だ。

 その光を受けて、そのぴょんぴょん跳ねている何かが煌めいた。

 

 「デカい、蚤??」


 いやいや、よく見ればそれは毛玉だった。

 真っ黒い、もふもふの、毛玉。

 蚤みたいな虫っぽくはない。

 それが、冒険者ギルドの入口の前でぴょんぴょんぴょんぴょん跳ねている。

 

 さらによく見れば、大きな目玉が一つだけあり。

 なんか泣いてるし、そして鳴いていた。


 「テュケるる! テュケるる!」


 かなり変わった鳴き声だ。

 見た目からして、モンスターだろう。

 ギルドの中に向かって、必死になにかを訴えているようだ。


 「どうしたんだろ?」


 「飼い主、いや場所が場所だしテイマーでも待ってるのかも」


 「え、モンスター中に入れないの?」


 「うーん、そういえばほかのテイマーさん達は入れてたけど、それに外に待たせておくならリードくらい付けてても良さそうなのに」


 あたしの疑問に、なっちゃんも首を傾げる。

 そうしていたら、中からなんというか見た目は普通だけれど、感じの悪い男女のグループが出てきた。

 そして、そのグループに向かって勢いよく毛玉が向かっていく。

 しかし、


 「うわ、うっざ。まだいたよ」


 その中の一人が、そう吐き捨てて近づいた毛玉を、まるでスポーツで使うボールのように蹴飛ばしてしまう。

 そんなことをされて、呆然とした反応をする毛玉をみてケラケラ笑い始める。

 感じ悪いな。


 「なにしてるんですか!!」


 思わず叫んだあたしに、そのグループのメンバー達は小馬鹿にした笑いを向ける。


 「うわ、なにこのガキ、うけるー。

 もしかして、そのゴミ欲しいの?

 もの好きのブスだなぁ。いや、むしろお似合いだな」


 そんなことを口にしてケラケラ笑う。

 なんっだ、こいつ!


 「ゴミ?」


 あたしは静かに問い返した。


 「そ、レアモンスターだと思ったのに、ただの混血スライムなんだぜ、そいつ。

 雑種だよ雑種。見たところあんたも雑種だな。

 ちょうどいいや、雑種のお嬢ちゃん。それ、あんたにやるよ。同じ雑種同士仲良くすれば?」


 くそムカつく。

 と、あたしがさらに言い返そうとした時だった。

 あたしの横からスっとなっちゃんが出てきたかと思うと、拳をふるいグループの足元へ叩きつけ、かなりドスの効いた声で、こんなことを口にした。


 「お兄さん達。私らより大人なのにそんなこと言うって恥ずかしくないっすか?

 それと、私の親友をもう一度雑種呼ばわりしたら」


 言いつつ、なっちゃんが持ち前の体格で圧を掛けながら続ける。


 「この地面と同じことが、アンタらの顔に起こりますよ?」


 か、カッケェェエエエ!!

 惚れるわ!

 なっちゃんの行動に、さすがに怯んだようでその男女は捨てセリフを吐いて足早に去っていってしまった。


 「ありがと、なっちゃん」


 「気にしなくていいよ。たまに居るんだよああいう勘違い連中が」


 詳しくは言わず、なっちゃんはそれより、と毛玉スライムを見た。

 跳ねるのはやめて、その子はあたしの横でシクシク泣いていた。

 一つ目からは、ボタボタと大粒の涙が零れていた。

 あたしは慎重に毛玉スライムに手を伸ばす。

 ゆっくり撫でてみた。


 「テュケ?」


 「大丈夫? 怪我してない?」


 ウチの猫がたまに他所の猫と喧嘩して、怪我して帰ってきたときのように声をかけてみる。

 すると、あたしを見ながらボタボタと涙をこぼす。


 「あー、痛かったよね。うんうん。もう大丈夫だからね」


 毛玉スライムを持ち上げてみる。

 握りこぶし一個分くらいの大きさだ。


 「決めた。この子にしよう」


 あのムカつくやつの言葉通りになるのはちょっと嫌だけど。

 このモフモフは至高のモフモフだ。

 モフモフしてる存在に悪いモノはいないのだ。

 この至高のモフモフをゴミ扱いするとは、さっきの奴らは見る目がない。

 節穴にもほどがある。


 「マジか」


 なっちゃんが、楽しそうに言う。


 「マジマジ」


 あたしは毛玉スライムを撫でながら、返した。

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