第4話 女性専用車両殺人事件

 妻を殺すことを考えだしたのは何時頃からだろうか? 私たちの関係は既に冷え切っていたというのに、私の浮気を知った途端一方的に被害者面をしたときか?

 妻には私は体のいい金づるにしか見えていないのだろう。ならば、こちらもそれ相応の扱いをするまでだ。


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 妻が家を出た後、私は鏡の前で急いでメイクをする。この日の為にYouTubeで何度もメイク動画を見ていたのだ。

 完全に女の姿になった私はタクシーで駅まで移動し、妻を先回りする。そして妻と同じ電車の同じ車両に乗り込んだ。

 妻が必ず女性専用車両に乗ることは調査済みだった。だが、その自意識と警戒心の強さが仇となるのだ。

 電車が停まり、扉が開いて群衆が流れ出るその瞬間、私は妻の心臓にナイフを突き立てた。妻は叫ぶ間もなく絶命したようだが、人波に揉まれて倒れることすら出来ない。

 私は急いでその場から逃げ出した。遠くで女の悲鳴がした。


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 その後、私はトイレで変装を解き、遅れないように会社へ出社した。普段通りの行動を取らなければ、周囲から余計な疑いを持たれかねない。

 もうすぐ昼休みという頃になって、会社に刑事がやって来た。私は冷静だった。死んだ女の夫の所に警察が来ることは普通のことだ。

「そんな、妻が殺されただなんて!」

 しかし、異様だったのは中年の草臥れたオッサン刑事といるのが金髪ショートのギャルだということだ。刑事というより、パパ活カップルだ。

「この度はご愁傷さまです」

 ギャルが外見に似つかわしくない挨拶をした。

「ところで、ご主人は奥さんが殺された理由に心当たりはありませんか?」

 ギャルが射すくめるように私を見ている。

 背筋を冷たいものが伝った。

「いえ、特には……」

 落ち着け。動揺するな。妻の死は女性専用車両の中で起きた事件だ。男である私は容疑者の圏外に逃れている。バレる筈がない。大丈夫。

「口紅付いていますよ」

「え?」

 私は思わず右手で唇に触れる。


「犯人、わかったんだけど」


 ギャルが勝ち誇ったように微笑んだ。

「……一体、何を?」

「普通、男性に口紅が付いてると言ったら襟や胸元を見るんだよ。満員電車に乗ると、服に女性の口紅が付くことがあるからね。でも、あんたは自分の唇を触った。落とした筈の口紅がまだ残っているのではないか、気にしてしまった」

「あ」

「じゃあどうして口紅なんてしてたのか? 納得いく説明をお願いしますよ、沢尻さわじりさん」


 こうして事件は一件落着。今回は真面目過ぎたか?

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