第22話 私も『お姉ちゃん』呼びされたい!


「ゴメンね」


 レイがそう言って謝ると『オヤユビ』は開いていた足をぴったりと閉じて、毛布で身体を隠した。


 ロケットみたいな『おっぱい』なので、隠せていないのだけれど、細かい事は言わないでおこう。


(それよりも、じらう『オヤユビ』……)


 ――ちょっと新鮮かも♡


 彼女はその【魔力】を抜きにすれば、身体が他人よりも大きいだけの女の子だ。

 前々から――もう少し身嗜みだしなみには気をつかうべきだ――とは考えていた。


 ――いい機会きかいかも知れない。


 レイは見た目で人を判断するような性格タイプの人間ではない。

 『オヤユビ』が異性にれるのには、丁度いい相手だろう。


「パーパ、つよーいのよ♪」


 とアイラはレイに抱き付く。

 正直、私からすると『オヤユビ』の自滅なのだけれど、父親としての面子メンツもある。


 ――だまっていよう。


 当然、レイ本人もそう思っているのか――そ、そうかな?――と困った表情で笑った。


 さて、ここから近いのは『オヤユビ』の部屋だ。

 一度、そこに集まって、彼女に事情を話そう。


 『シンデレラ』から聞いている可能性もある。

 説明の必要はないかも知れない。


 また、いざとなったら、彼女と私で塔を破壊するのも一つの手だ。

 その場合、死傷者が出そうなので、あまり使いたくはない手でもある。


 私が――〈漆黒剣の輪舞ブラックフィールド〉――を解除すると、


「落ち着いたようですね」


 と冷たくも美しい女性の声が響いた。

 この塔の住人にとっては、最も信頼できて、皆から尊敬そんけいを集めている存在。


 私にとって、今は一番会いたくない相手だ。


「あらっ!」


 思わず、声に出してしまった。

 〈魔力吸収マジックドレイン〉――が終わってしまった事に対する苛立いらだちもあったのだろう。


 そこには杖の形をした【魔操具デバイス】に腰を掛け、長い髪を揺らす美少女が浮かんでいた。空中を浮遊する姿は如何いかにも【魔女】だ。


なんの用? 『マーメイド』……」


 私は――早く帰りなさい――という意味を込めて、視線と言葉を返したのだけれど、


ひどい言いようね……」


 と彼女は意に介した様子はなく、髪を払う。

 まあ『オヤユビ』の管轄かんかつとはいえ、塔の内部であれ程の騒ぎを起こしたのだ。


 塔の守護者ガーディアンたる彼女が黙っている訳はなかった。一方で、


「メイちゃんなのよ♪」


 とアイラは文字通り飛び上がると、嬉しそうな表情で彼女に抱き付いた。

 『オヤユビ』程ではないが、彼女の胸も大きい。


 アイラが抱き付いた反動で――ふよん♪――と上下に揺れる。

 なんという精神攻撃だろう。


「カグヤ様、落ち着いてください……」


 とウサミがコッソリと私の耳元でささやく。

 いけない! 人妻である私だって、魅力という意味では負けていないはずだ。


「意識している時点で負け――な、なんでもありません」


 ウサミは途中で口をつぐむと、後ろに下がった。

 レイの後ろに隠れるとは、この短期間で彼女も成長したようだ。


 後で覚えていなさい。一方で『マーメイド』は、


「あら、あーちゃんなの? 大きくなって♡」


 と急に優しい声を発する。

 男性不信な点を除けば、最も常識を持ち合わせている【七姫セブンス】でもある。


(もしかすると、なんとかなるかも?)


 つい、そんな淡い期待を抱いてしまった。

 『マーメイド』はアイラを抱いたまま、ゆっくりと着地する。


「『オヤユビ』――貴女あなたという人は……」


 そう言って『マーメイド』は溜息をいた。

 どうやら、一瞬で状況を把握したようだ。説明の手間がはぶけて助かる。


「ふよふよよ♪」


 とはアイラで『マーメイド』の『おっぱい』で遊ぶ。

 あんっ♡――『マーメイド』は色っぽい声を出した。


 ――本当に早く帰ってくれないだろうか?


「で、『オヤユビ』と戦っていたのは……」


 『マーメイド』はあごの辺りに人差し指を当て、私達を見回す。

 いちいち、仕草が色っぽい。ケンカを売られているのだろうか?


貴方あなたね――」


 と『マーメイド』。分かってはいたけれど、レイをにらみ付ける。

 【七姫セブンス】同士の戦いは被害が大きくなるので禁止されていた。


 また、アイラやウサミでは戦闘にすらならない。

 当然、消去法でレイになるだろう。


「あたしのパーパよ」


 とはアイラ。暢気のんきなモノだ。


「パパ?」


 『マーメイド』は首をかしげる。

 その一方で、レイは彼女を凝視していた。


 胸に興味があるとは思えない。

 むしろ、あごに手を当て、なにかを考えているようだった。


 この場を切り抜けるいい案でも考えているのだろうか?


「そうですか……」


 『マーメイド』はそうつぶやくと、髪を指ででた。

 彼女はアイラを私に預ける。


 笑顔だけれど、嫌な予感しかしない。


「そのくせ、思い出した!」


 とはレイで『マーメイド』を指差す。心做こころなしか彼は笑顔だ。

 それが余計に気にさわったのだろう。


 彼女は杖型の『魔操具デバイス』を彼に向けると、


「わたしとも、戦ってください」


 などと訳の分からない事を言い出す。


「どういう理由があろうと、女性を泣かすような男性を放っては置けません!」


 と謎の正義感を発揮した。

 彼女が相手だと、レイの【魔術】ではが悪い。


 ――めさせるべきだ。


「これは違うぞ」


 とは『オヤユビ』だが――裸の女の子が泣いている――という時点で人魚姫は冷静さを欠いているのだろう。


 『マーメイド』の【魔力】に呼応し、なにも無かった空間に水球が発生し、滝となって上から降り注いでくる。


 折角、落ち着いた所だったのに、生徒達が悲鳴を上げて逃げ出す。

 こうなった場合、階層フロアが水に沈むのは皆の常識となっていた。


 ――殺るしかないわね!


 私が身構えるのと同時に、レイが前に出ると私を制した。そして、


「やっぱり、その【魔術】――五月さつき姉さんだよね♪」


 嬉しそうに彼は口にする。

 私も『お姉ちゃん』呼びされたい!――違った。


「へ?」


 『マーメイド』にしては珍しく間抜けな声を出す。

 同時に大量の滝が複数の場所に出現した。


 彼はすでに予期していたのが、私達を浮遊させると上の観客席へと非難させる。

 一方で混乱している『マーメイド』と一緒に水の中へと沈んでいったのだった。


 ――いや、違う!


 床が抜けたのだ。彼は下の階層フロアに落ちた彼女を助けようとしたのだろう。

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