カミムスビ・アタッチパル
現在では、子供の教育を行う施設を「教育院」と呼ぶ。
養育院を出た6歳ごろから18歳ごろの子供が通う施設だ。
イタルはあまり熱心な院生ではなく、習ったことのほとんどは思い出せなくなっていた。
今でもふと疑問に思うのは「カミムスビ」前後の学習についてだ。
世界統一戦終結から人類が直面し続けた問題の1つが人類の、つまり子供の育成だった。
教育院カリキュラムでは、現在の子供の育成システムが「あなたたちとAI」としてこのように説明されている
「人類の幸福な育成の最適化のため、管理統制AIによる大人と子供のランダムなマッチングが行われました。
大人の適性と、子供の性質や発達に基づき、双方に最適な育成環境を構築することが目的でした。
しかし、旧社会の理不尽で非効率な慣習により、被験者の間に著しい感情の軋轢が生まれ、実用化は長く阻まれました。」
この授業を受けた日、イタルはソガに尋ねた。
「旧社会の『理不尽で非効率な慣習』て、なに?」ソガは顎髭をしごきながら答えた。「そんなふうに習うんだったか?俺もよく覚えてないが、まぁ、カミムスビができるまではなにかと大変だったってことじゃないか?」ソガも教育院には関心が薄かった。
受精卵から2歳ごろまでの子の育成を代替する、人工子宮を超えたテクノロジー「カミムスビ」――
その実用化により、人類は生殖と人口減少、あるいは過多の脅威から解放された。
管理統制AIによる人類の幸福のための育成システムは、ここから始まる。
現在生まれてくる子供は、卵子と精子の段階から最適にマッチングされ、カミムスビによって2歳ごろまで養育される。
イタルもソガも、その上の上の、また上の世代もカミムスビの子供だった。
カミムスビの役割は、胚胎の培養、栄養・衛生管理、新生児期の接触の充足であり、言語獲得のための音声刺激なども行われる。
2歳を過ぎると、発達や性質の観察のために養育院に移され、集団で管理される。
養育院では適性の高い人間のナニーと、サポート用アンドロイドが子供の性格や発達に最適な関係を提供しながら、子供の性質を見極め、データを集積した。
イタルは大人しく、1人になりがちで、社会性の発達を促すアプローチがそれとなく取られるような子供だった。
3歳ごろから開始される「アタッチパルプログラム」は、特定の大人と愛着関係を築くためのシステムである。
心理面や関心などの適性がある大人と、性質や発達段階が適合する子供をマッチングして共同生活を送らせ、AIの支援も加えて最適な養育環境の形成を目指す。
「アタッチパルプログラム」は初期から試行錯誤を重ね、現在は安定した成果を挙げていた。
旧社会の『理不尽で非効率な』子供の育成は、跡形もなく消えたのだ。
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