第13話 働き者の無人戦闘機さん
護衛任務がはじまれば、わたしたちは古都の上空を一周する。
平和な空を一周すれば、師匠が不機嫌そうに言った。
《退屈な任務ね。どうしてあたしたちと異世界人が護衛任務なんかしないといけないの?》
これに答えたのは、絶対に苦笑いを受かべているだろうフィユだ。
《まあまあぁ、英雄エヴァレットさんとぉ、龍騎士団の混沌ルミールさんが空を飛んでればぁ、地上の人たちは安心ですからぁ。それに航宙軍の人たちはぁ、もう少しこっちの世界に慣れてもらわないといけないですしぃ》
《地上なんて知ったこっちゃないし、異世界人はどこでも戦えると思うんだけど。というか、あたしたちと異世界人こそが魔泉に行って、陽動作戦をするべきじゃない?》
《陽動作戦はぁ、龍騎士団の本隊が頑張ってくれますからぁ》
《弱い連中がいくら頑張ったって無駄でしょ》
《ルミール、今のは失言、だ》
《はいはい》
エヴァレットさんに怒られて、師匠は少しだけ黙った。
黙っていたのは、本当に少しだけ。
すぐに師匠は気を取り直し、今度はわたしに話しかけてくる。
《ねえ、クーノはどう? 退屈じゃない?》
「え? 退屈なわけないよ! だって、空飛んでるんだよ! チトセと一緒に飛んでるんだよ! 楽しいよ!」
《アッハハ、さすがクーノね》
わたしは当たり前のことを答えただけなのに、師匠はなぜか大笑いした。
まあ、おかげで師匠の機嫌が少しだけ直ったからいいか。
任務は続き、さらにもう一周したところで、またも師匠が言い放った。
《敵は1匹も見当たらないんだし、もう本隊と合流しても良くない?》
《いい加減に、しろ。地上の避難民の護衛が、最優先》
《もう、ホントにエヴァレットはつまんないヤツね》
呆れた、と言わんばかりに師匠は黙り込む。
師匠の反応にお構いなしのエヴァレットさんは、わたしたちに指示を出した。
《航宙軍、君たちは訓練を兼ねて飛んで、ほしい。共に飛び、お互いのことを深く知って、ほしい》
「うん! 分かった!」
お互いのことを深く知る。
つまり、分からないことを聞く。
となれば、さてさて、まずはチトセに何を聞こうかな?
「チトセ! 質問!」
無線機に向かって叫ぶと、すぐにチトセは反応してくれる。
《なに?》
「戦闘機の周りを囲んで飛んでる無人戦闘機って、何をしてくれるの?」
《それって龍母艦で説明されたと思うけど》
「聞いてなかった!」
《そうだよね、クーノだもんね、聞いてないよね。ええと、指示に従って自動的に戦ってくれたり、守ってくれたり。ま、詳しい説明はリディアにお願いして》
なら、チトセの言う通りにしよう。
わたしはすぐにリディアお姉ちゃんに尋ねた。
「リディアお姉ちゃん、無人戦闘機について教えて~」
《任せないさい! フフ、お姉ちゃんって呼ばれて頼りにされるなんて、夢みたいだわ! チトセちゃんも私のこと、お姉ちゃんって呼んで頼りにしてくれていいのよ!》
《そんなことより、早く無人戦闘機についてクーノに教えてあげなよ、リディア》
《あああ! チトセちゃんの意地悪!》
リディアお姉ちゃんの悔しさが、無線機からいっぱいに漏れ出してくる。
ようやくリディアお姉ちゃんが冷静になったのは、それから十数秒後のこと。
さっきまで悔しさはどこへやら、おっとりとした口調の説明が無線機から聞こえてきた。
《で、無人戦闘機の説明ね。あの無人戦闘機の制式名称はMQ325レイヴン。主な機能は、敵機の補足、攻撃、母機の護衛といったところね》
それは人が乗ってなくても戦える戦闘機、ってことでいいのかな。
リディアお姉ちゃんは説明を続ける。
《特に重要な機能が敵機の補足よ。それぞれの機体がそれぞれのレーダーで敵機を捉え、その情報をデータリンクで統合し他の無人機や有人機と共有、集団戦闘を優位に進めるの》
「ほえ? でーたりんく? どうしてそれが重要な機能なの?」
《例えばチトセちゃんから見えない位置にクーノちゃんがいるとするわ》
「うんうん」
《一方で、無人戦闘機がクーノちゃんを捉えたとする。そうすると、無人戦闘機はその情報をチトセちゃんに送るの。そうすれば――》
「チトセもわたしの居場所が分かる!」
《そういうことよ》
たしかに重要な機能だ。
自分からは見えない場所にいる敵の位置を知っているだけで、戦いはだいぶ有利になる。
無人機のその機能、ちょっとうらやましいよ。
異世界の戦い方に感心していると、リディアお姉ちゃんはさらに話を続けた。
《ところで、MQ325はブロック3とブロック4でその性能に差があって、ブロック4からはレーダーがAN/DPG101に転換されたから、探知距離は従来の1・8倍まで拡張されていて――》
無線機からはずっとリディアお姉ちゃんの説明が聞こえてくるけど、全部無視だ。
無視されたリディアお姉ちゃんは、それでも説明を続けている。
リディアお姉ちゃんの難しい説明を背景に、今度はフィユがチトセに質問した。
《チトセもぉ、無人機を使ってるんだよねぇ?》
《当然。むしろ、航宙軍の主力戦闘機は無人機の方だから。私たちパイロットはおまけ》
ちょっとだけの自嘲が混ざったチトセの答え。
だけど、彼女はすぐに言葉を続けた。
《おまけって言っても、有人戦闘機には有人機だからこその強みもあるよ。ビッグデータ外の予測不能な動きとかね。それに何より、戦闘機を操縦するのは楽しいし》
「あ! 今、操縦が楽しいって言った!」
《うん、言った》
「やっぱり、チトセは戦闘機が大好きなんだね!」
《そう言うクーノは、お空大好きさんでしょ》
「うん! お空大好きさんだし、チトセ大好きさんだよ!」
《ちょ、ちょっと! い、いい、いきなり何を言い出すの!?》
分かりやすく焦り出すチトセ。
面白がったフィユとリディアお姉ちゃんはニヤニヤしながら言い放った。
《チトセはぁ、どうなのぉ? クーノ大好きさんなのぉ?》
《あるいは、リディアお姉ちゃん大好きさんだったりするのかしら?》
《もう! みんなで寄ってたかって!》
必死なチトセの叫びに、フィユとリディアお姉ちゃんは楽しそうに笑う。
わたしとしてはチトセの答えが知りたかったのだけど、チトセは黙り込んじゃった。
仕方なく、わたしはいつもの通り空を眺める。
空を眺めていると、ちっちゃなドラゴン――ユリィの眷属が視界に入り込んだ。
眷属を見つめて、わたしは手を叩く。
「あ! いいこと思いついた!」
《クーノ? 何を思いついたの?》
「わたしも航宙軍の真似してみる!」
とりあえず、思いついたことを実践してみよう。
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