第18話 虫の王国イノセント王国

ーー 虫の王国インセクト王国


今回の旅にも従者やエストレーナ以外にも従魔として

・精霊種の馬

・鳥系の神獣雷鳥

・アンデット3王

を準備しているが名前をつけていないため最近僕に冷たい気がする、

「そろそろ名付けをしようかな」

と呟いているとエストレーナが

「私に名前をいただけるのですか?」

とトンチンカンな事を言い出したので

「貴方にはエストレーナという立派な名があるでしょう」

と言い切ると小声で

「貴方から名を貰きたいのは従魔だけじゃないんです」

と呟いていた。


そこで僕は話を変えるため

「次の国は虫の王国と聞いたけど誰か詳しく知っている者はいますか?」

と皆に尋ねたが誰も知らないようでエストレーナが

「ほとんど人族と交易や交流がないと聞いていますので誰も知らないと思います」

と答えてくれた。


ーー 第一村人(虫?)発見


イノセント王国に越境したあたりから良い香りが風に乗って香ってきた、

「花の匂いかな?甘くて爽やかないい匂いだね香水にしたい香りだ」

と呟くとエストレーナが

「香水とは何でしょうか?」

と聞いてきた。そういえばこの世界に香水を見たことがなかったな、あるのは匂い袋のようなものだけだったと記憶している。


馬車が進み丘を越えたところで見渡す限りお花畑のような景観が目に飛び込んできた。

「素晴らしい景観だ」

と僕が言うと皆頷いていた、するとどこからか歌声が聞こえてきた。

「誰か歌を歌っているね」

という僕の呟きにエストレーナだけが反応し「近づいてみましょうか」と言ってくれた。


花園の中にいたのは人の上半身とミツバチのような下半身を持つ人(虫?)の女の子で花の蜜を集めていたようだ。怖がらせないように僕は優しい声で

「そこのお嬢さん、お話をしても大丈夫ですか?」

と声をかけると振り向いた少女はとても可愛い顔で頭に触覚のようなものが二本出ていた。

「え、貴方たちは・・・人・・ですか?」

彼女の最初の言葉はそんな言葉だった。

「はい僕らはここから北西方向に馬車で30日ほどのところにあるセンターターク王国というとこから旅をして来た者です。よかったら村か町に行く道を教えてもらえませんか?」

と言うと、少女は

「ん?村・・・集落のことかな?それならすぐそこよあっちの方向に飛べば1時間ぐらいよ」

と教えてくれたが飛ぶ速さが想像できないな、取り敢えず向かうかと思い従者に馬車を進めるように命じた。


ーー 初めての集落は巣ですか?


馬車で4時間ほど進むと遠くに大きな樹木群が見えてきたするとその木の太い枝に何か大きな丸いものが下がっているのが見えた、

「あれは何だ?」

と思いつつ遠見の魔法で拡大してみると

「見つけたあれが少女が言った集落かまるで蜂の巣だな」

という呟きを聞きつけたエストレーナが

「蜂の巣ですか・・・本当に虫の王国ですね」

と賛同してくれた。


さらに1時間ほど進むとその大きな蜂の巣の元に辿り着いた。すると周囲を警戒していた兵隊と思える半分蜂の男が3人ほど飛んできて

「その馬車そこで止まれ、我が集落に何ようだ」

と質問されたので

「我らはここより北東の位置にあるセンターターク王国という人族の国から旅をして来ました。危害を加えるつもりはありませんし僕が持っている物で交易ができればお願いしたいと考えています。」

と言うと

「それならしばらく待て担当者がここに来るのを」

と言うと巣(集落?)に飛んでいった。


しばらく待つと違う一段が飛んできて僕の前に降りてきた。そして

「人族がここに訪れるのは久しぶりだ、交易をしたいと聞いたが何を持って来たのじゃ?」

と高齢者のような話ぶりから年配だろうと思いながら

「色々と持って来ていますがどんな物が宜しいのでしょうか?」

と質問すると

「ここでは穀物という物を育てていない為パンという物がない、もしパンを持っておれば交易したいがどうじゃ」

と言うと男の言葉に僕は

「パンでしたら持って来ておりますが、それ以上にその原料である麦を持って来ているので焼きたてのパンを作りお渡ししましょうか?」

と言うと

「焼き立てと言うか。是非王女にも食べさせたいすぐに用意できるか」

と急かせるので

「2時間ほどお待ちください」

と言うと

「分かった」

と言うとまた飛んで帰った。残された僕らはしょうがないのでその場でパンを焼くことにした。


ーー パンは蜂蜜によく合う


僕が持っている大量の食材から小麦を取り出しパンを焼くための準備に入った。イースト菌を僕は大量に保存しているので、白パンを作ることができるが意外とこの世界は食文化が遅れているので黒パンが主流の様だ。

捏ねて寝かせて発酵したパン生地を伸ばしたり重ねたりして、焼く前段階の準備を終えた僕は馬車の外にパン窯を作ることにした。

土魔法で土台から作り始め収納していたレンガを積み重ね形ができたら火を入れて焼き入れをして窯の完成だ。

次々に焼くパンを釜に入れながら火力の調整をする僕のそばで、調理人のガルフが唸っている。すると匂いに釣られたか一人また一人と蜂人間(仮)が寄ってきた。

いくつか焼き上がりだしたのでテーブルにクロスを敷いて出来立てのパンをさらに盛り付けていくと先ほどの爺さん蜂が体の大きな女性を恭しく連れてきた。

「女王蜂?王女様ですかね」

と思いつつ席を勧めその前にミルクとパンを差し出すと毒味役と思われる女性がパンを一口食べるとよろけた。

その様子に男たちが殺気立ったがそのお女性が感激した口調で

「女王様、こんな美味しい食べ物を食べたことがありません是非お一つどうぞ」

と自分が毒見したパンの残りを差し出すと女王はそのパンを手に取り柔らかさに感心しながら一口口に入れこう言った

「蜂蜜を持て!」

と。

すぐさま蜂蜜を持ってきた家臣からそれを受け取ると女王様は新しいパンに蜂蜜を塗り一口

「この食べ物は何と言うのだ」

との問いに僕はあえて

「白パンという物です」

と黒パンではないことを強調すると

「何?パンはパンでも白パンというのか初めて食したが人族ではこれが主食か?」

と言う質問に

「いいえこの白パンは人族でもほとんど食べられていません」

と答えると嬉しそうに

「そうか人族でもあまり食べた者がいないのか、それは良いものを持って来た。交易を許そう暫くこのパンを作れるように調理人に指導してもらえるか」

と言うので

「かしこまりました。」

と答えて友好の始まりとなった、その後は小豆を甘く煮込み餡子にしあんパンを作ったりショッパンをトーストし蜂蜜をかけたりバターシュガーパンにしたりして振る舞った。


ーー インセクトお王国 蜂の女王シルク side


人族との交易を担当するハッチジジイが妾の執務室の飛び込んできて

「女王様、集落の元に人族の商人と思える者が来ております。パンを持って来ていると言うので交易をと言うとその場で焼き立てを交易すると言うものですからお知らせにあがりました。」

と言うので数年前に食した黒いパンなるものを思い出した

「あのパンなら・・焼き立て!焼き立てと言うたか?それならさぞ柔らかろう食してみたいすぐに用意させや」

と言いつけると

「既に命じております2時間ほどで焼きあがると申しております」

と答えた、あと2時間かと思いつつ窓から下を見ると馬車が1台精霊種が引いているようだ。


そして2時間ほどすると何とも言えぬ美味しそうな匂いが漂ってきて辛抱がたまらなくなり、ハッチジジイを呼びつけ

「妾もあそこに向かう」

と言いながら部屋を飛び出したのじゃ、するとそこにはテーブルが置かれ焼き立てのパンが所狭しと並べられていたすると妾に気づいた人族の少年が

「どうぞこちらに」

と席を勧め座ると妾の前に幾つかのパンを差し出した。

思わず手に取りそうになったところで毒見役のマリンが手に取り一口口にすると腰砕けになるほど美味しいと言う。

辛抱たまらない妾は残りを手に取り口にしてみると何とも柔らかく甘く香ばしいそのパンは以前見た黒く固いパンとは全く違う物だった。

妾は家臣に蜂蜜を持って来させそのパンに塗って食べると蜂蜜のためにあるような食べ物と思わずにはいられなかった。

その後人族に交易の許可を与えその場はお祭り騒ぎになっていた。


交流会のあと僕は調理人らにパン作りの講習を行い始めた。

その中にガルフが混じっていたのがおかしかったが、小麦はかなりの量持って来ていたので数年は大丈夫なのではと思えるほど交易の品としたが、貯蔵が難しいとのことで高床式の丈夫な食糧庫を作り小麦を収納しイースト菌は個別に差し上げた。

調理人だけに数回教えるだけでかなり美味しいパンを作れるようになったことから僕の滞在は10日ほどで終わり次の集落へ出発したのだった。

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