レッツゴー
第13話
勇樹が目を覚ましたのは、三日後の事だった。
とてつもない喉の乾きを感じながら目を覚ますと、知らない白い天井が視界に入り、
(あ、見知らぬ天井だ)
などと気の抜けた感想を抱いた。
三年ほど帰っていなかった実家から、母親が勇樹が眠ってる間に見舞いに来てくれていた事に、感謝と申し訳なさを感じる。
フリーターを続ける勇樹のことに落胆し、疎遠になりつつある父親も一緒に来てくれていたらしい。
看護師の対応に医者の説明、頭がぼんやりとしたまま受ける病院の施しから解放された後、見舞いに来た太輝が全てを説明してくれた。
見舞いに来た両親のこと、三日間眠っていた勇樹自身のこと、勇樹を刺した少年のこと、風美のこと。
勇樹の両親は勇樹が怪人のいる場所――戦隊ヒーローとして戦う風美の側にいることを
知っていたらしい。
風美を追いかけるテレビ番組のカメラに映り込んでいたようで、それを数度と見つけた際には勇樹がやろうとしてることを嫌でも理解してしまったと勇樹の母親は漏らしていた。
「嫌でも
「ヒーローを助けたがるお前の無謀さだろ」
太輝の説明に愚痴る勇樹。
それを苦笑しながら、指差し指摘する太輝。
「何だよ、それ?」
「自覚が無いから厄介なんだよ、お前って奴は」
問う勇樹に、呆れて肩を竦める太輝。
説明してやろうにも今はそれは後回しでいいかとも思う。
まずは色々と起きた物事の整理。
まだ目覚めて数時間の友人をこれ以上混乱させるのは、引け目を感じる。
腹部を刺され気を失った勇樹は、駆けつけていた救急車に真っ先に乗せてもらい病院に運ばれた。
近くの病院ではなく、国が用意した戦隊ヒーロー用の医療施設となる専属病院に運ばれ治療を受けた。
そういう処置になったのは、勇樹が少年に刺されたこと、その少年を風美が殴りつけたことを怪人の事件の一旦として扱うためであった。
そういった特別な処置となった勇樹の面会は基本的に家族なれど禁止されていた。
実際勇樹の両親も未だに勇樹自身には会えていなかった。
太輝が見舞いとして勇樹の前に居れるのは、少年係として事件の担当に名乗りを上げたからだった。
友人知人が関係する事件など取り扱わしてもらうのは難しいところなのだが、風美の立場が繊細なところなので、そこを上手く飲み込める可能性のある太輝の立候補は受け入れられた。
つまり、風美の少年へ行った過剰な暴力をヒーローとしてのメンツを保つ為に無いものにしろと、そういう意図を上司から、いや、その更に上から示されたのだ。
「あの少年、今ウチの署にいるよ。まだどう扱うのか決まってないんだよ」
風美に殴られたはずの少年は、病院に運ばれることなく警察署に連行された。
パワードスーツの一撃を受けて何故そんな処置になったのかというと、それは高性能パワードスーツで放った一撃だったからである。
「お前が必死に止めたっていうあの一撃な、機械的に制御されたんだよ。風美は国を守るヒーローでありながら、管理下にある存在とも言えるってことだな」
一般人への過剰な暴力など、相手が殺人犯であろうと許されるものではなかった。
コンプライアンスの授業だなんだと個人そのものを教育しようにも、考え方の統制やあるいは洗脳じみた刷り込みはヒーローとして売り出してるイメージにはそぐわない。
故に物理的に制御するという手段が、風美達のブレーキ代わりとして存在していた。
人は力を持つと自ずと助長する、というのはヒーロー達を束ねる管理組織の管理官の考え方らしい。
風美にパンチはすんでのところ、少年の鼻先に触れる直前で止められ、しかしその襲いかかった恐怖に少年は死を悟り素直に警察に従ったという。
結果として風美の暴力は未遂で終わったのだが、少年に与えた恐怖が大き過ぎて、ヒーローの行いとして万事解決とならなかった。
「……風美は、どうしてる?」
勇樹が抱いた思いは、止められなかったという後悔の念ばかりだ。
もっと自分が注意しておけば、刺されるなんてことにならなかったし、風美に辛い思いをさせることは無かった。
あんな拳、振るう必要は無かった。
「内密な謹慎処分中、だとさ」
風美は今、ヒーローとしての活動を禁止されて、その補填は他県のヒーローとか警察が補ってる。
公表的には、よくあるパワードスーツのメンテナンスによる調整休暇だ。
働き方改革って考え方はヒーローにも適応されているので、元から毎日働いていた訳でもないし、今のとこ世の中には怪しまれていない。
ヒーローが毎日活躍して誰が労働基準監督署に密告に行くのかはわからないが、そういうのを気にしないといけないのが民間と違うところだ。
契約の仕方が違うと説明したところで、わーわー騒がれるならば、ちゃんと休日を設ける方が楽なのだとか。
「《2 Bee》に入り浸っちゃいるが、滅入ってるわけでもないし、安心しろ」
自責の念を感じ顔を曇らせる勇樹に、太輝は言葉をかけるが、それが思い込みの激しい勇樹に対して大した慰めにならないことはよく分かっていた。
直接会って話すしかないよな、と太輝はそれ以上言葉をかけるのを止めた。
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