第4話
翌日から勇樹は首に赤いマフラーを巻いていた。
昨日慌てて帰ってタンスの中を捜索し、奥の方に大事にしまわれていたのを取り出した。
季節外れではあるが、朝晩の冷え込みはまだ厳しく、マフラーは正解だった。
しかしその赤いマフラーを何故タンスの奥にしまい存在を忘れていたのかというと、赤いマフラーは、風美が手編みでくれた贈り物だったからだ。
クリスマスに貰った大切な物で、だからこそ、風美と別れてからは着けられず、思い出ごとタンスの奥にしまい込んでいた。
あの有名特撮番組の主題歌もその風美がプレゼントと勇樹に渡す際に口ずさんでいたものだ。
正義の印、と風美に贈られたマフラー。
これこそが無いと言われたヒーローっぽさだ、と勇樹は考えていた。
その考えを太輝にメールすると、『いや違うだろ』と冷たく返され、勇樹は少し腹が立った。
勇樹自身も、半信半疑、ではあるのだが。
それでも、赤いマフラーに合わせて緑色のライダーズジャケットを着たりして、勇樹の気合いの入り方は十分だった。
仕事からの帰り道で勇樹は
まだ春には少し早く冬が過ぎきらないこの時期は、定時である十八時に仕事が終わったとしてもすっかりと辺りは暗い。
仕事場から赤いマフラーをなびかせながら自転車を漕いで帰路につく勇樹。
いつものバーに寄らないと決めた日は通勤に自転車を利用している。
一度夜中に酔っ払って自転車に乗り危うく大怪我しそうな転び方をした際に、見廻りで偶然遭遇した警官に飲酒運転でこっぴどく怒られて以来、酒を飲む時はバスか徒歩での帰宅と決めていた。
勇樹の住むアパートは、仕事場やバーから自転車で二十分と近く、大体飲んだ後は酔い醒ましと歩く事の方が多い。
息を吐けばまだ大気は白く濁る。
思いつきで着けたマフラーが暖かく、ありがたかった。
仕事場からの帰り道は、住宅街の裏をいく人気の無い道だ。
街灯が等間隔に並んで立っているのに、店が並ばないからか道自体は暗い。
車一台と人二人がすれ違えるほどの細道だが、昼間は通学路として使われている。
二十分、自転車を漕ぐ距離の間に小学校と高校とが建っている。
小学校と高校との間に小さな貯水池がある。
その貯水池の周りはランニングコースとして整備されていて、隣接して小さな広場と駐車スペースがある。
近隣の住民の憩いのスペースとして活用されているのだが、それも明るいうちだけである。
陽が落ちるのが早い季節には十八時以降はその貯水池や周辺の敷地には立ち入り禁止の看板が立てられ、管理人も帰ってしまう。
貯水池の敷地内の外灯設備は少なく辺りはあっという間に暗くなる。
そうして暗くなった頃合いをみて現れる集団がいる。
いつもは気にもならないその貯水池の敷地である駐車スペースに、勇樹は何やら気になる人影を見つけた。
それも複数。
気になって自転車を停めてゆっくりと近づいてみると、その人影達が何かを囲んでいる様子である事がわかった。
そこで勇樹は噂話をふいに思い出した。
噂話の
集団いじめの事を。
「オイ、何してんだお前ら!?」
距離にして、5メートル。
照明となるのは離れた距離に置いた自転車の自動点灯式ライト。
その僅かな光では、その僅かな距離の先の影達を明確に照らす事はできずにいた。
それでも勇樹が影たちに怒鳴ったのは、光の先にうつ伏せの少年の姿を見つけたからだ。
「ああ!? 何、アンタ?」
一つの影が振り向いて、他の影も続いて蠢くのがわかった。
暗闇に少しだけ慣れた勇樹の目には、先頭に立つ影の容姿が見えてきた。
崩して着ている白いカッターシャツに学生ズボン。
足下に散らかっているのは、多分鞄と上着だろう。
噂通りの高校生の集団だと勇樹は思った。
「何してんだ? って、聞いてるんだ」
「は? 何してようと勝手だろうが! オッサンこそ、何だって聞いてんだよ」
オッサンと呼ばれカッとなったのも束の間、先頭の高校生はすでに歩き出していた。
後ろから誰かが制止の声をかけていたが、彼の耳には届いていないようだった。
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