第344話 ええい! 許可なくこの城に入れると思うな!

「マスター、おはようズラ!」


 そんな暗い気分を吹き飛ばすほどの明るい声がこちらに近づいてくる。


 ポクは小さな足をてくてくと走らせ駆け寄ってくる。足下で自分を見上げる瞳はいつもと同じ。いや、むしろ輝いているくらいだ。


 こんな自分を、恐れないのか? 嫌いになったりしないのか?


 戸惑うが事実ポクは親愛な眼差しを向けている。


「昨日はすごかったズラね!」


 え? もし声が出せるなら出していた。


「あれだけの数を一人で倒しちゃうなんて、マスターはすごいマスターズラ」


 そっちか。駆は納得する。絶体絶命のあの局面を一発逆転で乗り越えたのだ、そこだけを切り取れば尊敬されるのも分かる。


「ああ、あれは圧巻だったな」


 ポクに続いてヲーも近寄ってくる。歩調はゆっくりでそこに躊躇いはない。


「オイラ感動したズラ。あの場面は絶対に忘れないズラ」

「ふふ、同感だな」


 ポクと同じように昨日のことを持ち上げてくれる。声は笑っており嫌悪感はない。彼も気にしていないようだ。


 そのことに重苦しい気持ちが温かいものにくるまれるようだ。


 ヲーはポクに向けていた目を駆に移す。


「マスター、これを口にするのははばかられるのだが」


 前置きを挟み言葉を続ける。


「私たちはあなたのことを変わらず尊敬している。いや、以前よりもだ。あなたは今や伝説だ。その魔王の下働けるのは大変な名誉だ」

「もしかしてオイラも伝説に残るズラ!?」

「そうかもな」

「おおお~!」


 足下のポクが興奮している。そんなポクを微笑ましく見つめヲーは駆に向き直る。


「なので、なにかを憂うことはありません」


 それは駆が懸念していたことだ。それをヲーは気にしなくていいと言ってくれた。


「我らは仲間ですから」


 真っ直ぐと、正面から言われる言葉にあれだけついてはなれなかった不安が洗い流されていく。


 駆はリトリィに目を向ける。彼女は頭に両手を置き足を交え、まるで昼寝でもしているように浮遊していた。けれど距離的に話は聞こえていたはずだ。


 それで駆の視線に気づいた彼女は片目を開け駆を見る。そしてふっと笑ってくれた。


「言ってるでしょ」


 片手を小さく持ち上げ指を広げる。


「シリアス禁止、ってね」


 彼女の笑みに駆も口元を持ち上げる。


 本当に、頼もしい仲間たちだ。感謝してもしたりない。彼女、彼らと出会えたことを心の底から嬉しく思う。


 仲間は、駆にとって本当に宝物だ。


 駆は温かい気持ちになるがそこへリザード兵が入室してきた。


「ご報告があります!」


 雰囲気は一変して緊張感に切り替わる。駆を含めみなが鋭い視線で彼を見る。


「この城に多くの難民が押し寄せています」

「難民だと?」


 ヲーが返す。不穏な響きに嫌な予感がする。


「はい。その多くがリンボから来たようで。どうやら不死王軍の襲撃を受けたようです」

「なに?」


 報告にヲーは顎に手を当て考え込む。


「不死王軍は未来王と交戦状態のはず。リンボにまで手を出す余力があるとは思えんが」

「そんなことよりもそのリンボってどこのことよ!?」


 入ってきたリザード兵にリトリィが駆け寄る。必死な表情だ。


「まさか、この城に来るってことズラは」


 彼女と同じくポクも心配している。


 二体ともリンボ出身だ。それもこの城から近いリンボとくれば。


 リトリィがさらに詰め寄る。


「その難民っていうのは今どこ!?」

「城の前です」

「マスター、ちょっと出るわよ!」

「オイラも行くズラ!」


 リトリィはすぐさに飛んでいきポクも走り出す。駆も一緒に門に向かった。


 中庭を向け門の前に出る。城から出た時点で外の騒がしい声が聞こえていた。


 門の前では城に入れてもらおうと詰め寄る多くの悪魔とそれを抑えるガイグンとリザード兵がいた。


「ええい! 許可なくこの城に入れると思うな!」

「かみ殺されたいか!」

「下がれ下がれ!」


 ガイグンが群がる悪魔たちに怒声を浴びせ牽制している。見れば難民悪魔はリンボ出身ということもありほとんどが下級悪魔であるピクシー種やコロポックル、他も全体的に小柄だ。


「入れてくれ! 他に場所がないのよ!」「このままじゃ殺される!」「助けてください!」


 数百にもなる悪魔が川のように押し寄せるのをリザードたちが槍を横に構え抑えている。


「下がって! 下がってください!」

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