巻き添えで召喚された直後に死亡したので幽霊として生きて(?)いきます

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【異世界召喚&麻薬事件編】

第1話 猫を助けて死ぬとかベタではなく稀有な体験だよね

 その瞬間、まばゆい光に包まれた。


 まあそれは大型トラックのヘッドライトだったわけだけど、このまま天国に召されるんだと悟ったのは走馬灯を初体験したから。


 古びたフィルム映画みたいに脈絡なく継ぎはぎされた記憶がフラッシュバック。


 いつも橋の近くの信号の傍で母親の迎えを待っていた男の子の幽霊とか、中三の墓参りの時に初めて会った戦死した曽祖父とか、うっかり実体のある人間だと思って話しかけてしまった駐在所のお巡りさんとか――ああ、もう、あたしの人生には家族や友人とか、生身の人間との楽しい思い出もあったはずなのに。


 あたしを包んでいた〝聖なる〟っていう表現がピッタリの明るい光が消えかかると、ふと、腕の中にふわふわしたあったかいものが蠢いているのに気づいた。


 なんだっけ、このモフモフ。


 あ! 猫を助けてトラックに轢かれるっていう、なかなかベタなことをやらかしたんだった。


 大学への通学路で何度か見かけた子猫。毛は真っ白で目はくりっとしていて赤色だった。読んでいた小説に登場する召喚獣にそっくりで、あたしは小説の中の名前のままに「ジゼル」とその猫に名前をつけ、たまに会えるのを楽しみにしていた。


 ジゼルは小説の設定では悪魔。通学路にいるジゼルも愛くるしい見た目とは裏腹に、トンボを叩き落とす姿とか、巣から落ちた雛鳥を咥えている姿とか、なかなかインパクトある瞬間に遭遇することが多くて、しかもドヤ顔であたしを一瞥して去っていくのだ。


 まさかあたしがその猫のためにトラックの前に飛び出すなんて、もしかして夢だったりしない?


 ゲホッと、咳き込むと口の中に血の味が広がった。


 どこが痛いのかもわからないくらいあちこちに激痛が走り、体が強ばって震えがくるのは血を流しすぎたせいかもしれない。夢ならさっさと覚めてほしいところだけど、覚めるどころかこのまま永遠の眠りに落ちそうな気配。まだこうやって思考を巡らせてるあたし、けっこうしぶとい。


 トラックの運転手なにしてんだよ、救急車の音もしないし、人通りの多い道なのに人の気配もない――いや、カツンとヒールを鳴らしたような音がした。


 薄暗いのは夜だから? 

 あたしが轢かれたの何時頃だっけ?

 あたし死ぬの? 

 まだ生きてるんだけど、このまま誰にも助け起こされないまま野垂れ死ぬの?


 ゲホッ、と吐いた血で頬が濡れた感触があった。


「ニャア」


 腕の中から這い出したらしいジゼルがあたしの頬を舐める。あったかいような惨めなような、そんな気分のまま意識が遠のいていく。


「この有様は何?!」


 ヒステリックな少女の声が、辛うじてあたしの意識を現世に引き留めた。正直なところ、すでに現世でもないんじゃないかという気がする。もう痛みも感じていないから。


「も、申し訳ありません、ナリッサ様!」


 いかにも小物っぽい卑屈な男の声。


「少々術式にミスがあったようです」


 今度はいくぶん落ち着いた雰囲気の若い男の声がした。推し声優の声に似てるせいか生存欲求がむくむくと湧いてくるけど、御尊顔を拝し奉りたくても瞼が持ち上がらない。死ぬ前にせめて一目。


「ミス!? わたしのせいだっていうの?」


「いえ、気にする必要もない些細なミスです」


「どこが些細なのよ! 悪魔の召喚に人間の死体がくっついてくるなんて、聞いたこともないわ!」


 オエッ、と少女はえずいたようだった。


 もしかして、あたしってばかなりグロい姿になっているのだろうか。〝召喚〟とか〝悪魔〟とか気になるワード満載だけど、大学二年にもなって「永遠の中二病」とか言われてるあたしの走馬灯なんだから妙に納得。


 とりあえずあたしの生存確認してくれないかな。まだ死んでないかもしれないじゃん。ほら、思考能力はあるわけだし。


「召喚した悪魔は無事のようですし、あれは狩った餌か、向こうの世界で贄として捧げられた供物でしょう。死体処理はわたしどもでさせていただきます」


「あたりまえでしょ! さっさと片付けて!」 


 この少女、ナリッサと言ったっけ。


 そういえば、小説の中でジゼルを召喚した悪女がナリッサとかいう名前だった。悪魔と契約して皇太子の兄をことごとく罠に嵌め、さらに皇太子妃を次々と皇宮から排除していくが、禁止されている悪魔との契約がバレて処刑される、悪女ナリッサ。


 ……えーっと。これはまだ走馬灯上映中ってことでいいのかな。うん。


「ナリッサ様」


 男が推し声優ボイスで少女を窘めている。


「さらに高位の悪魔を召喚するならば、今回のような些細なミスでも命取りになりかねません。わたしどもはあくまで補佐。契約者であるナリッサ様が自らの力で召喚した者の上位に立たなければならないのです」


「そんなこと言われなくてもわかってる! でも、わたしはその男が教えた通りにしたの!」


「この者は解任いたします。ナリッサ様の魔術指導は別の者に」


「ノード、あなたが直接教えてくれるのが一番だと思うんだけど。魔塔主であるあなたが」


「これは、無理をおっしゃる」


 クスッと漏らした声が色っぽい魔塔の主、ノード。


 倒れたままで目も開けられないし、顔を確かめるのは無理だけれど黒髪に紺碧の瞳を持つイケメン魔術師のはず。まさか小説の中のあたしの推しが、推し声優の声を持っているなんてそんな奇跡ある?


 なんで走馬灯のくせに映像で見れないの? 

 見れたら大人しく成仏するのに!


 ニャア、という声とともに頬を舐めていたザラザラした舌が離れた。


「猫のフリなんてそろそろやめて本性をお見せください。あなたのことを教えていただけますか?」


 ノードの声に続いて「ジゼル」と、男の子の声がした。信号機のところで母親を待っていた、あの男の子の声に似ている。


「ジゼル殿。……ふむ、お名前をお持ちなのですね」


「名無しと思ったか?」


 挑発するような口調なのに声が男の子だからなんだか可愛らしい。


「ジゼル、あなたのあるじとなるナリッサよ。さっさと契約しましょう」


「主だと?」


 小説だとジゼルはすぐにはナリッサと契約しないはずだ。


「お前にその資格があるとは思えない」


 そういえばこんなセリフ、小説にあった。


「そんな!」


「まあ、様子見だな。しばらくお前の能力を観察させてもらう」


 ナリッサがホッと息を吐いたような気配があった。完全に拒否されたわけではないのを知って安心したのだろう。


 ナリッサはたしか緩やかなウェーブの長い赤髪に緑眼。皇族に遺伝するという銀色のオーラが発現せず、焦って黒魔術に手を出すことにした。出自がなかなか複雑で、もとは平民だから皇宮内では不遇な扱いを受けている。同情したくなるのは、このナリッサが実は小説の主人公だからだ。


 悪女ナリッサは処刑される直前、兄である皇太子とは血が繋がっていないという事実を知らされる。複雑な想いを抱えたまま回帰した過去がジゼルを召喚するこの日。


 彼女は召喚術を中断して大怪我を負い、生命の危機に晒されてオーラが発現した。そして発覚するのが、ナリッサのオーラが幻の亡国の王族だけが持つと言われている金色のオーラだということ。


 金色のオーラを隠しつつ処刑される未来を回避するために奮闘するなか、ナリッサが気づいたのは、回帰前に兄を憎んだ理由が彼の愛を求めていたからだということだった。


 ジゼルは野良の悪魔として皇宮内で奮闘するナリッサを観察していたが、契約ではなく、あくまで〝きまぐれ〟としてナリッサに手を貸すようになる。


 血の繋がらない兄と妹、ナリッサのツンデレアプローチにニヤニヤが止まらないラブコメディーで、本筋に血生臭い話はほとんどない。が、現時点でのナリッサは悪女路線まっしぐら、血生臭い未来が見えている。――いや、血生臭いのはあたしの体だった。


「とりあえずそれは燃やしてしまいましょう」


 ノードの声とともにボッと空気の爆ぜる音がした。


「骨は残して壺に入れて埋葬しろ」とジゼル。


「どうしてそのような面倒なことを?」


「この女は今回の召喚とは無関係の人間だ。巻き添えをくらって息絶えたおまぬけなヤツだが、せめてこの女のいた世界のやり方で埋葬してやりたい」


 ほう、とノードが感心とも呆れとも言えない声を漏らした。


「ジゼル殿は悪魔にしては少々変わってらっしゃる。わかりました。では骨は回収しておきますので埋める場所に希望があればおっしゃってください」


 壺を、とノードが誰かに命令した。


「ほとんど燃え尽きてしまったから、ジャム瓶でいいだろう」


「かしこまりました」と一人分の足音が去っていく。

 

 ……ん?

 

 あたし燃やされた?

 じゃあ、いま考え事してるあたしは何? 

 走馬灯は終わった? 

 瞼が開かないとか思ってたけど、もう瞼も灰になってるじゃん。


 そして、ハッと気づいた。


 ……あたし、もしかして幽霊になっちゃってる?


 その瞬間、碧眼と目が合った。


 魔塔主ノード。長い黒髪にシャープな顔立ちのイケメンは黒に近い濃紺のローブをはおっている。彼の目が見開かれ、何か信じがたいものを見た顔で二三度まばたきした。まあ、幽霊を初めて見たにしては反応が薄めな方かもしれない。魔塔主なら悪魔とか精霊とか亡霊とか色々見たことがあるはずだし。


「ノード?」


 ナリッサが訝し気にノードの顔をのぞきこみ、そのあと彼の眼差しが向かっている先、つまりあたしに目を向ける。けれどナリッサと目が合うことはなく、彼女はあたしの足元を見て顔をしかめた。


「燃やすなんて罪人みたい。かわいそうに」


 あたしの足元には灰と、ほとんど形の残っていない骨と、床の焼け焦げた跡、消えかかった魔法陣。


 あっ! 

 ダイヤのピアス、残ってるじゃん!

 あたしの耳たぶは灰になったけど……


「ナリッサ様、そろそろお戻りになった方がよろしいでしょう。夜も遅くなると怪しまれますから」


 ノードはうなずくだけで部屋の片隅に控えていたローブの男に扉を開かせた。


「そうね」


 ナリッサは素直に部屋を出て行こうとしたが、ジゼルが動こうとしないのに気づいて足を止める。


「ついて来ないの?」


「血生臭いままで城には行けんだろう。黒猫ならまだしも、毛が白いから血が目立つ」


「怪我は?」


「ついてるのは全部女の血だ」


「わたくしが後でお連れします」とノードがひきとり、ナリッサは男とともに部屋を出て行った。開けた扉の向こうに上へと続く階段が見えたから、ここは地下室なのかもしれない。


 入れ替わりに壺……じゃなくてジャム瓶を持った従者が現れ、ノードはそれを受け取ると「ジゼル殿と二人きりにしてくれ」と人払いした。


「まいりましたね」


 ノードは骨を集めることもせず、壁際にある机にヒョイと腰掛けると、立てた片膝の上で頬杖をついてあたしの方をじっと見る。


「見えるの?」と、とりあえずあたしは聞いてみた。


「喋れるのか」


 彼は感心したようにあたしの頭のてっぺんから足先までをジロジロと観察した。あたしは見世物じゃないし、気分が良くないから彼に近寄って仕返しがてらイケメンを堪能する。まつ毛長っ。ニヤけそうになるのは我慢、ガマン。


あるじ


 ジゼルの声がしてふと足下を見ると、赤毛かと思うほど血に染まったジゼルがあたしの足に顔を擦りつけている。白い毛のふわふわと、血濡れた部分のゴワゴワ。


「主ってあたし?」


「そうだ」


 ジゼルがうなずくと、「はあ~ああ~」とノードがわざとらしく大きなため息をついて肩をすくめる。


「だろうと思いました。一体どういうことなんですか。低級悪魔が、しかも召喚される前から主がいるって。名前のある低級召喚獣なんて初めてです」


「低級とか言うな。召喚待機世界で勝手に名前をつけてくる輩は腐るほどいるんだ」


「でも、向こうでは悪魔との血の契約なんてないでしょう」


「血? 血は見ての通り必要以上に浴びた。女が巻き添えでこっちに召喚された時点ではまだ息はあったからな、契約が成立したんだ」


「でも、契約者が死んだら血の契約は終了するはずですが? 今回準備していた術式は血の契約で、魂の契約ではありません」


 ノードとジゼルが勝手に話を進めているあいだ、あたしはキョロキョロと部屋の中を見回してみた。


 壁際にロウソク立てがぐるりと設置され、家具といえばノードが座っている机と、椅子が一脚。机のところの壁にはセピア色の写真が貼られていた。写真があるのは驚きだけど、たしか念写みたいな魔術があった気がする。


 写真に写っているのは精悍な顔つきの青年だった。『ユーリック』と書かれた文字が読めるのは、やっぱり夢だから? 


 衝撃的なのは、そのユーリックの心臓あたりに五寸釘がぶっ刺してあること。呪いの藁人形的なものだろうか。


 床の数か所には水晶の原石みたいなものが埋め込まれていた。小説の設定通りならマナ石というやつだ。魔力を増幅する鉱物。


「あなたは誰ですか?」


 ノードが困惑気味の表情であたしを見ていた。目の前にある推しの顔に思わず手を伸ばしてしまったのは、今あたしが見ているのは死ぬ前の走馬灯か、もしくは夢だから!


「あ、触れるんですね」


 ノードは驚いてわずかに身を引き、拒絶された感じがしてあたしはショックを受ける。そりゃそうだ。幽霊に触られるヒヤッとした感触は背中にゾゾゾとくる。


「魔力の強い者には主のことが見えるし、触れるし、話せるはずだ。どの程度の魔力が必要なのかはよくわからんが、オーラを発現した皇族にも見える可能性はある」


「ユーリックにも見えるんですか?」


 長く跡継ぎのできなかった現皇帝のカインは、たしかナリッサがジゼルを召喚したこの時点でオーラが弱まっているという設定だったはずだ。運動能力と同じでオーラは年とともに老化するらしい。だから、あたしの覚えている中で強いオーラを持つ登場人物と言えば皇太子のユーリック。


 ふと、二人の視線があたしに集まっているのに気づいた。


「なぜ、あなたが皇太子の名を?」


 ジゼルは楽しそうにニヤニヤ笑っているけれど、ノードの視線が痛い。


「あなたは本当に召喚待機世界の人間だったのですか? もしかして皇太子側がこのことを知って召喚を妨害した……? でもバレたのなら直接この現場を抑えにくるはず……」


「あっ、あの。あそこに貼ってある紙にユーリックって……」


 あたしが写真を指さすと、ノードは「ああ」と心底安心したような顔をした。話題をそらすため、あたしはまくし立てるように自己紹介する。


「あたしの名前はサラ。日本人の大学二年生で二十一歳。百貨店でアルバイトしてて、実家で父と母の三人暮らし。妹が一人いたんだけど一昨年亡くなっちゃったの。ペットの飼えないマンションなので、たまに見かけるジゼルと仲良くなりたいな~とか思ってて、ちゅ~るとかポケットに忍ばせてたんだけど、ジゼルは食料は自分で確保するみたいだからあげる機会がなくて、……あっ! そうだ。今日も鞄の中にちゅ~る……」


 ……は、もちろん燃えてしまった。


 あらためて自分の格好を確認して、ワンピースにカーディガンという、あのとき着ていたままの姿だと気づいた。ポケットに入れていたスマホはなくなって、耳たぶにあるはずのピアスは質量のある物質として床に転がっている。


 あたしは部屋の中央に散乱する自分の灰に目を凝らした。左右のダイヤのピアスはすぐに見つかったけれど指でつまむことができず、ピアスだけでなく、骨にも床にすら触れることができない。


「どうしました?」


 ノードがすぐそばに立っていた。「主、これか?」とジゼルが前足でピアスをつつく。


「これ、大事なものなの。あたしの双子の妹」


「宝石が妹?」と、ノードは思い切り眉間に皺を寄せる。


「死んだ人の遺骨からダイヤモンドを作るっていう技術があたしの世界にあるの! だからこれはあたしの妹」


 ほう、と興味深そうにノードがふたつのピアスを手のひらに乗せて眺め、「なるほど」と何かしら納得したようにうなずいた。


「悪魔と血の契約を結ぶには肉体が存続している必要がありますが、この宝石が肉体の役割を果たしているのかもしれません。ジゼル殿が骨を残せとおっしゃったのも同じ意図で?」


「まあ、そんなとこだ。正直ナリッサとの契約は気が進まないし、自分のおかれている状況が少々興味深い」


「それはどういう?」


「すべてを明かすほどの仲でもないだろう? とりあえず、サラの幽体が維持できている状態であれば血の契約は破棄されない。その上契約主は実体がないに等しいから、普通の人間と契約するよりよっぽど気楽というものだ。骨に何か原因があって幽体が消えずにいるのかと思ったが、どうやら小さな妹のおかげらしい」


 あのう、とあたしは二人の会話に恐るおそる割って入る。


「あたしはどうなるんですか、ね?」


「主の好きなようにすればいい。おそらくその妹から遠く離れることはできないだろうけれど、運び屋くらいしてやる。ピアスなら耳につければいいしな」


「それなら、ジゼル殿とわたしと、片方ずつ着けるというのはどうでしょう? そうすればサラさんの動ける範囲も広くなりますし」


 おぬし、とジゼルがノードを睨んだ。


「悪用する気はありませんよ。召喚待機世界の幽体に興味があるんです。これでも魔塔主であり魔術の研究者ですから。危害を加えることはしません」


「だが、おぬしはナリッサを契約者にしたいと考えているのだろう? だとしたら、主の幽体を消さないことにはそれは叶わないはずだ。ピアスを破壊すればおそらく主は消える」


「ジゼル」


 あたしはあたしの血で汚れたジゼルを抱き上げる。通学路で見かけて何度も触れようとしたのに、ジゼルはからかうように近寄っては去っていき、こうして直接触れるのは今日が初めてだ。


「あたしは消えてもいいんだけど」


「主は良くても、ぼくが嫌だ」


 ぼく、という一人称が男の子の声にぴったりで、思わずギュっと力を入れて抱きしめてしまう。


「では、誓約書を書きましょう」と提案したのはノードだった。


「ナリッサ様には段階を追っていくつかの悪魔と契約していただくつもりでおりました。なので、ジゼル殿と必ず契約しなければならないというわけではないのです」


 ナリッサは悪魔と契約しなくても金色オーラが発現するよ、むしろ、悪魔と契約したらオーラは発現しなくなっちゃうみたいだよ。と教えてあげたいけど怪しまれそうで口にできない。


「だそうだが、どうする、主」


 異世界幽霊ライフというものがどんな感じになるのか想像はつかないけれど、活動範囲が広がるうえに、推しキャラ推しボイス、黒髪碧眼の魔塔主ノードの近くにいつでもいられるのだ。


「じゃあ、ジゼルとノードにひとつずつ着けてもらっていいですか?」


 ノードは中空に光で文字を書いて誓約書を作成する。ジゼルが内容を確認してうなずくと、光の文字はノードの胸のあたりにするすると吸収されていった。二人はそれぞれ自分の魔力だか何かの力でピアスの汚れを落とし、ピアッサーを使うこともなくあたしの妹からできたピアスを耳につける。推しがあたしのピアスつけてるの、ヤバい。


「では、とりあえず我が家で体の汚れでも落としましょうか」


 ノードは一瞬であたしの骨をジャム瓶に詰め、床の焼け焦げも魔法陣の痕跡も消し去り、手をかざしてゲートを開く。


 こうしてあたしの異世界幽霊ライフは幕を開けたのだった。

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