一とニ


「私達の記念日には、一とニが入っとるんよ」


 彰と紗椰が交際を始めたのが一月十二日。婚約したのが翌年の十二月二十四日だった。


「へぇ」


「そやし、結婚記念日も、そういう日にしたい」


紗椰は記念日の“数字”に拘っていた。


「十二月はもう終わるぞ」


「一月は?」


「そんな急に」


「善は急げ!」


「その前に、俺の親と会ってないけどいいの?」


「!!」




 彰の父はシンガポールに半出向状態だったが、一月に一時帰国する予定だった。そのタイミングで、挨拶を済まそうと考えていた。


「親父が帰ってくるのが一月の下旬やから、やっぱり一月に入籍は厳しいんじゃない? まぁ、事後報告でもウチは許してくれると思うけど」


うーん、と紗椰は唸った。


「それなら、二月。二月十二日。これで、一とニが入るよ」


「どうしても一とニを入れたいんか」


「嫌?」


「まぁ、ええよ。二月にしようか」



 彰としては入籍はいつでもよかったが、記念日は大切にしようと思っていた。毎年、楽しみな日が増える。それだけで幸せなのだ。

 二月十二日の入籍を目指して、彰の両親と顔合わせすることになった。父の帰国に合わせ、京都で会食をする。紗椰は“お淑やか”を心がけることで頭がいっぱいだと言っているが、一番気がかりなのはやはり持病のことのようだった。

 結婚は、まず反対されないだろう。ただし、紗椰が一型糖尿病だと知ったら、どんな反応をするか。それは彰にも想像ができなかった。


 彰は、両親に対して紗椰を命懸けで守るという覚悟を示さなければならないと考えていた。それが今後の両親との関係を築いていく上でも大切であるし、そうすることで、紗椰が抱える一型糖尿病と正面から向き合える気がした。


 ピロン。


 彰のスマートフォンが鳴った。父からのメッセージが届いていた。


「一月の件、了解です。紗椰さんには、俺のことを非常にダンディーな父親だとお伝え下さい」


 父のおかげで、肩の力が少し抜けた。彰は父に感謝した。だがしかし、ダンディーの件は紗椰に伝えずにスマートフォンをそっと閉まった。





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