カミングアウト


 紗椰との関係は変わりなく、休日の夜は以前と同じように、紗椰は彰の部屋で寝泊まりをした。同棲の話はしなかったが、それなりに楽しい毎日を送っていた。

 そんな日々が二ヶ月ほど続いた後、彰の部屋で突然紗椰が言った。


「大事な話がある」


 来たか、と彰は身構えた。紗椰が言っていた、一緒に暮らす前に話しておきたいこと。あの日以来色々と考えてみたが、彰には皆目見当もつかなかった。とにかく、今は聞く姿勢を…。

 彰が不自然に正座するのを確認して、紗椰は口を開いた。


「私、病気やねん」


「病気? どんな…⋯?」


「彰はたぶん知らんと思うけど」


 そう言うと紗椰は、バッグの中から黒いポーチを取り出した。そのポーチを開けると、中にはペンのような形状のものが三本と、液晶画面が付いた小型の機械が入っていた。


「これ、見たことある?」


「ないと思う。何それ?」


「これは、インスリン注射器。それとこっちが採血するやつ。血をちょこっと出したら、こっちの測定器に差し込む。それで血糖値が測れるんよ」


 血糖値の測定といえば、彰にも思い当たる病名があった。


「…⋯なんやっけ、その…⋯糖尿病?」


「そう。私の場合は、一型糖尿病」


一型糖尿病。彰はその病名を初めて聞いた。


「一型…⋯?」


 紗椰は彰の目を真っ直ぐに見据えて、自身の持病について話し始めた。








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