小籠包と広い世界

 

 MJの大阪観光から一週間後に、彰は紗椰とランチを食べる約束をした。


「パスタでも食べましょうか」


 彰は自分からそう言ったのだが、パスタはそれほど好きではなかった。紗椰との距離を縮めるために、何となくオシャレな雰囲気を出したいという、ただそれだけの理由だった。

 会えればいい。紗椰ともっと、話してみたい。あの日の帰り道、紗椰と交わした言葉達がまた羽ばたくことを彰は期待した。


紗椰は彰の誘いをすんなりと受け入れてくれた。彰達は、MJと食べたいとお好み焼き店のすぐ近くに位置するパスタ専門店でランチを食べることになった。きのこの和風パスタを器用にフォークで巻き取りながら、紗椰は海外旅行の魅力を語った。


「あの語学学習アプリは、台湾の友達に教えてもらったんです。二年くらい前だったかな。それから、色んな人とメッセージのやり取りをするようになりました。実際に会ったのはMJが初めてですけどね」


「台湾ですか。いい国ですね。俺も好きですよ」


「…⋯台湾の、何がいいと思いますか?」


「…⋯しょ、小籠包…⋯?」


「アハハ。彰さん、台湾のこと全然知らんのでしょう?」


 彰は紗椰の趣味に合わそうと背伸びをしていることを一瞬で見抜かれた。それが紗椰のツボになったようだった。


「知ってますよ! 小籠包が美味しい国でしょう。それは間違ってないはず」


「そうですね、ふふ。あ、それと、敬語使わなくていいですよ。私、彰さんの一つ年下ですから」


「そう? でもちょっと恥ずかしいな…⋯」


「じゃあ、私もタメ口でいいですか? お互い楽に!」


「うん、そうしようか」


「OK、じゃあ、台湾の魅力を小籠包以外で教えてよ」


「その話はもうやめてください」


「さっきタメ口でって言ったのに! アハハ!」


 早くも年下であるはずの紗椰に遊ばれる彰であったが、やはり居心地がよかった。ずっと前から友達だったような安心感があった。


「それで私、今度はシンガポールに行こうと思ってるねん。一人旅やねんけど、彰さんも一緒やったら楽しめそうやのになぁ」


 紗椰は海外や異文化交流が好きであることが、この日の会話でよく分かった。彰は自分みたいに、英語を勉強するモチベーションも低く海外にも特別に興味がない人間がMJのような人と交流する方が珍しいのだと思った。


「紗椰さんは、なんで海外が好きなん?」


うーん、と少し考えてから、紗椰は言った。


「広い世界が好きだから、かなぁ? 窮屈が苦手というか。制限されるのが苦手というか。とにかく広い世界を動き回りたい! みたいな」


 どちらかと言えばインドア派の彰とは違う価値観だが、紗椰の言う「広い世界」が、何故か彰には言葉通りの意味には聞こえなかった。

 それを深堀して聞けるほど親密になるには、やはりもう少しお近づきになりたいなと、下心をゆらゆらと揺らす彰であった。


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