四、人身売買オークション③
中に入ったゼールとフォイはその異様な空気に目を見開いた。
昼間の
「レディース、アンド、ジェントルマン! お待たせしましたぁ! 本日のオークション、開催です!」
「おぉ――――っ!」
ステージの中央にタキシード姿のこれも仮面を付けた男が現れ、高々にオークション開催を告げた。その瞬間、サーカステントの客席にいた人々から歓声が上がる。
「フォイ」
「かしこまりました」
この異様な状況にゼールはすぐにフォイを呼んだ。呼ばれたフォイはゼールの意思を即座に
一人になったゼールは厳しい視線をステージに向けていた。
「本日、最初の商品はこちらです!」
タキシード姿の男がそう言って体を少しずらすと、奥から巨大な鳥かごのような鉄格子に入れられた女性が現れた。美しい彼女の表情は自分の置かれた状況に今にも泣きそうである。彼女は背中に半透明の妖精の羽を持っていた。
「今回の最初の商品は、絶滅が危惧されている妖精の女性! 十万からスタートです!」
「十二っ!」
「十五っ!」
「二十っ!」
男性の言葉の後に次々と数字が叫ばれる。人身売買オークションの開始だ。ゼールはこの様子をじっと冷たい視線で見つめていた。
そうしてある男が五十万で彼女を落札した。ゼールはその男の顔を、仮面越しではあったがしっかりと記憶する。
「さて、次は本日の目玉! 久しぶりの人間の登場だぁっ!」
「うおぉ――――っ!」
(人間……? まさか……?)
目玉商品と言われた人間をコールする男の声に、ゼールは再びステージを見る。先程のように男が身体を少しずらすと、先程の女性と同じように鳥かごの鉄格子に入った女性が現れる。その女性はゼールの予想通り、
(シェル……)
ゼールはその姿に
(良くさらわれるヤツだな)
ゼールはそう思うと、シェルを競り落とすためにオークションへと参加するのだった。
テント内でピエロに手招きされたシェルが連れてこられたのは、サーカスの控え室だった。控え室に入ったピエロはシェルを振り向くとにんまりと笑った。その直後、シェルは後ろから口元を押さえられ、薬剤を嗅がされる。そうしてシェルは意識を失ったのだった。
気がついたときシェルは鉄格子の中にいた。鉄格子には布がかぶせられているようで、周囲の様子は全く分からない。
(何が、どうなっているの……?)
まだボーッとする意識の中、シェルは状況を把握しようと身体を起こした。と、その瞬間、布がかぶせられた鉄格子ごと動き出す。シェルはバランスを崩し、鉄格子の中で再び上体を倒すことになった。
しばらくして鉄格子が止まったときだった。
「さて、次は本日の目玉! 久しぶりの人間の登場だぁっ!」
マイクを通した大声と共に、鉄格子にかぶせられていた布が外された。シェルは一瞬にして明るくなった視界に目をつぶる。それから少しずつ目が慣れたとき、
(何、これ……?)
目元に仮面を付けたたくさんの観衆たちが四方八方からシェルを注目していた。その異様な視線にシェルは目をしばたたかせる。
「さぁ! 今回の人間も二十万からスタートです!」
「二十五っ!」
「三十っ!」
「三十五っ!」
数字がつり上がっていくのを聞きながら、シェルは今、自分がオークションの商品になっていることを自覚していく。
(ど、どうしよう……)
シェルは鉄格子の中で不安になるものの、ここで騒いでも何もならないだろうと思う。落ち着いて状況を好転させる隙を探そうとしていると、
「今回も、ヴェルナント様が落札されるのだろうな」
「だろうな。人間には目のない方だ」
そんな会話が聞こえてきた。
(ヴェルナント……?)
シェルは聞いたことのないその名前を覚える。もしかしたら獣人国に送った
他にも情報が得られないか、シェルが裏での会話に聞き耳を立てているときだった。
「一千万」
静かな低い声が、オークション会場に響いた。しかしその桁外れの数字は会場にいた全員を驚かせたようで、
「いっ、一千万っ! 一千万です! 他はいませんかっ!」
慌てたのは会場の司会進行をしていたタキシード姿の男だった。シェルは一千万と言った声に聞き覚えがあった。声のした方に目を向けるとそこに居たのは、
(ゼール様……!)
ゼールはシェルを落札するため、二百万から一気に値段をつり上げたのだった。さすがにこれには会場にいた誰もが驚きを隠せず、しかしこれ以上の値段を言うことも出来なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます