第4話 配属は罰ゲーム

 大食堂の片隅に集められた新人たちは、緊張の面持ちで机の上に立つシャスを見上げていた。


 もっとも、シャスを見上げる新人たちの顔には希望の部署への配属を願う前向きな明るさはない。

 先ほどのツアーで各部署の闇のみを紹介された影響で「なんとかよりましな部署を」という想いがこもった表情だった。

 唯一金融課は謎の賞賛を集めていたが、賞賛の内容が意味不明だった上に他の部署との差が酷いので逆に不気味がられていた。


「アーバイン・サントス。経理課!」

 フレイが来たときに既に来ていた青年がうなだれた。


「レイントン・ライラ。総合窓口!」

 フレイの隣に立っていた少女が青ざめていた。


 基本すべて外れ部署で、個人的にましな部署を引き当てるゲームと化していた部署発表は新人と同じ数の頭を抱える早めの五月病患者を作る結果となっていた。

 アンは総合窓口になった。ここまで金融課には誰も配属されていない。

 そして、新人も残すところフレイ一人となった。


「フレイ・フライロード。金融課!」

 シャスが高らかに読み上げた。 

 周囲から、唯一マイナス点がない金融課をうらやむ目線と、得たいのしれない部署に送り込まれる同情の目線が向けられる。

「では。みなさん。各部署の場所に行って立派な企業戦士になってくださいね」


 フレイ自身も金融課への配属に不安が無いわけではなかったが、悩んだところでどうしようもないと割り、金融課がある中庭に向かった。

 しかし、中庭の方へ出ようとしたとき、背後から抱きつかれてしまった。


「フレイちゃん!離ればなれなんてそんなん、あんまりだよ!」

 抱きついてきたのは、総合窓口に配属になったはずのアンだった。

「離ればなれって、というかさっき出会ったばっかじゃない」「離ればなれになっても、私たちは親友だからね!」

「え?私たちって親友だったの?」

 フレイが真顔で突っ込むとアンはショックを受けたように固まってしまった。

(少し言い過ぎたかな?でもさすがにこの短時間で親友って言うのはね)

「とにかく、絶対また会おうね!約束だよ!」

 そう言うと、アンは足早にギルドの建物に戻っていった。


 一体何だったんだろう。と考えつつ、中庭の中央にある金融課の建物の前に立った。


 建物の入り口には特別金融課であることを示すプレートなどはない。ツアーで案内されていなかったら金融課がここにあると知ることは無かっただろう。


 まさか、シャスの勘違いでただの倉庫なのでは無いかという疑念を抱きつつ。

 扉をノックした。


 反応はない。


 ドアノブをひねると、すんなり扉は開いた。鍵はかかっていない。


 フレイは、金融課に足を踏み入れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る