第7話 盗撮魔③
証拠を手にされたという事実に打ちひしがれ、床に手をつく俺。
そんな俺に背を向け、亀田は歩き出す。
証拠は手にされた。これで、俺は社会的地位を亀田の手に握られたと言える。
俺が亀田を邪魔すれば、俺の居場所は学園に無くなるだろう。
果たして、そうなるとしても涼風さんを守る価値はあるのだろうか。
なんだかんだ言っても、涼風さんは強い人だ。
亀田に脅迫されても、きっと彼女なら――。
そんな甘い考えがよぎった瞬間、俺は自分の頬を思いっきり殴った。
バカか。
強いかどうかなんて関係ないだろ。涼風さんを傷つけたくない。
その願いを叶えたいなら、やることなんて一つだけだ。
「亀田!」
亀田は怪訝な表情で俺の方に振り返る。
その表情には困惑の色が色濃く写っていた。
「その程度で俺は止まらない。涼風さんの為に、俺は意地でもお前を止める」
ヒリヒリと痛むこの頬に、今ここで誓う。
そして、亀田へと一歩ずつ歩み寄る。
そんな俺を見る亀田の顔色が変わった。
「……ムカつくんだよ。偽善者ぶりやがって……。そうやっていいやつぶってお前も涼風さんに近寄るつもりなんだろ? ハッキリ言ってやる! お前や僕みたいなブサイクで、何のとりえもない人間は誰からも愛されない! 必要とされない! お前が涼風さんに好かれる未来なんてあり得ないんだ!!」
鬼気迫る表情で亀田が叫ぶ。
きっと、それは亀田の本心なのだろう。
「だからって、脅迫して涼風さんを自分のモノすることに何の価値がある」
「あるさっ! どうせ、これから先も何も僕らは手に入れられない。なら、たった一度のこのチャンスを利用したっていいじゃないか! 人生の内で、ちょっとくらいいい思いをしたっていいだろ!」
亀田の考えはどこまでも短絡的で、自己中心的で、自分の欲望に忠実だった。
その気持ちが全く理解できないとは言わない。誰だって、皆同じような思考に陥ることはあるだろうから。
ただ、それはどこまでも亀田の事情だ。
亀田のその考えの中に、涼風さんの幸せはない。
亀田の目の前まで来て、俺は足を止める。
俺も亀田と何ら変わりはしない。前世の記憶を取り戻すまで、俺だって涼風さんのことなんてまるで考えやしなかった。
どこまでも自分本位、自分が可哀そうで、自分が大切。
それでもいい。だけど、何かが欲しいって心の底から願うなら、その何かを手にする正しい努力を俺たちはしなきゃならない。
亀田はその事実から必死に目を逸らしてる。かつての俺の様に。
大きくのけぞり、亀田の額に頭突きする。
「がっ!?」
俺の頭突きを受けた亀田がよろめく。
その亀田に向けて、俺は息を深く吸い込んだ。
「誰かに愛されたいって言うなら、愛される人間になろうとしろよ!!」
額を押さえながら亀田は大きく目を見開いた。
呆然としている亀田の身体を掴んで、そのまま床に押さえつける。
「ぐッ! は、放せ! ぼ、僕の邪魔をするなら涼風さんの動画を全世界にばら撒いてやる! お前のせいで涼風さんは苦しむことになるぞ! それでもいいのか!?」
「安心しろよ。お前がそれを出来ることはもう無いからよ」
「なっ!?」
動揺する亀田をより強い力で抑え込む。
「ぐっ……こ、これは暴力だ……」
「それを言うなら、お前だって涼風さんを盗撮してるだろ。涼風さんがお前を訴えれば十中八九涼風さんの勝ちだ。そうなれば、お前はデータを消さざるを得ない」
「な、何言ってるんだ……。僕は彼女の秘密を握ってる! 彼女は僕に手を出せない!」
「ああ。だから、お前がその秘密を悪用出来ないように、全てが終わるまで俺がお前を拘束しとくってことだよ!」
そのまま、亀田の全身に力を入れ締め上げる。
スマホを起動されても厄介だ。
悪いが、このまま一旦意識を失ってもらうぞ!
「あ……ぐ、苦しい……」
うめき声をあげ、亀田が宙に手を伸ばす。
このまま、亀田を押さえつける。
そう思い、俺がより一層腕に力を込めようとした時だった。
「止めなさい! 冴無君!!」
よく聞きなれた少女の声が響き、俺は思わず腕の力を緩める。その拍子で亀田は俺の腕の中から何とか逃れていた。
「亀田君、大丈夫?」
「……す、涼風さん?」
そう、俺たちの前に姿を現した少女は涼風星羅。この一件における最重要人物だった。
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