bitter chocolate
1
「この学生は数学科じゃないですか。うちは生物の、しかもフィールドの研究室ですよ?」
渡された履歴書のコピーに、博士は思わず眉根をよせた。
それに、人事課長が相変わらずな仕事用の笑顔で応える。彼がこの顔をするとき、それはこの決定に意見の余地がないことを示している。
「申し訳ありません、先生。なにしろ学生不足なんです。このたびの紛争はおもいのほか長引いていて」
博士は思わず舌打ちした。
「この国の未来を担う若者たちだ」
いま助手公募をかけたのだって、ついこのあいだやってきたばかりの学生が徴兵されたからなのだ。
「まぁまぁ、先生。たまには畑違いのニンゲンに接してみるのも大切です」
有無をいわせぬ笑みで、痛いところをついてくる。これだから、
「少なくとも彼は、先生のその人間ぎらいを治すくらいは留まることができるでしょうから」
……これだから、経営科のニンゲンはきらいだ。
「なにしろ、兵役免除ですから」
「免除? なにかしでかしたのか?」
一抹の不安が過ぎる。
「いやぁ」
人事課長はにこやかに微笑んだ。
「未来を担う若者だから、でしょう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます