50年後

電話 1

　暑い、とにかく暑い。運動は勿論、外に出ることさえ億劫になる。やはり地下の住居を買うべきだった。月に移住するやつもいるが、そこだって地球と大して変わらないだろう、不便という点においては。

　人類は、ありとあらゆる手段を用い、とうとう二酸化炭素の排出量を最盛期の5%まで削減することに成功した。だが、平均気温は一向に下がらず、つい最近、二酸化炭素とは別の原因が発見されたのだ。それは何故か極秘事項で、世界で知っている者は100人に満たないと言われている。そういうわけで、外に出るだけでとても疲れてしまうのだ。

　ここで簡単に自己紹介をしておこう。名前は渡辺耕太、年齢は46歳の、ごく普通とはいえない会社員である。どうしてごく普通"ではない"のかはのちほど説明しよう。趣味は絵を描くことだ。自分が描きたいものをかける程度には上手いつもりである。

　電話だ。中学校からの友人(この友人というのもまたワケありなのだ)のようである。この電話が46歳にして人生の最大の転機になろうとは思いもしなかった。