第8話 悩みの種と恋の種?

 エピカの学校も休みで、ストノスの仕事も一段落つき、休憩に入った時間のこと。

 エピカはストノスの部屋に来ていた。


……といっても、ストノスが休む時は大抵エピカが部屋に入ってくるのだが。

 ストノスは、そんな彼女に呆れつつも、どこか嬉しく思っていた。


(……全く、いつも人の部屋に入り浸りやがって……。)

 そう思いながらも、ストノスは彼女を無下に扱うことはできなかった。なぜなら、彼女は大切な相棒だからだ。


(まぁ、それだけ俺のことを信頼してくれてるという証でもあるのかもしれないがな……。)

 そう考えると悪い気がしないのだった。

(……でも、今日はなんかおとなしいな。)


「なぁ、今日は何の用だ?」

「………。」

 ストノスはエピカに尋ねてみた。だが、彼女は体育座りしたまま何も言わない。


(……まさか、また何かあったのか?)

 そう思いながら、心配そうに彼女を見つめていると、ようやく彼女が口を開いた。


「……ねぇ、ストノス。私たちが怪盗だってバレたら、どうしましょう……。」

「……は?」

 いつも強気なエピカの予想外の発言に、ストノスは困惑する。

「急にどうしたんだよ……。お前らしくもない……。」

「……学校でね、サファイアの探偵さんの、助手さんに会ったのよ。」

 エピカは、先日の出来事を話し始めた。


「サファイアの探偵さん?」

「そう。確か名前はアクシオさんだったかしら……。」

「あぁ……。」

(俺は、この前会ったな……。)

 ストノスが心の中で呟いていると、エピカは話を続ける。


「その助手さんの名前は、『レイア』っていうのだけど……。」

 エピカは言いにくそうにしている。

「その助手がどうかしたか?」

「……私、その子と同じクラスだったのよ!まさか、こんなに近くにいる人が探偵助手だったなんて……。」

「なっ、なんだって……!?」

 ストノスは驚いて声を上げる。

(……つーか、助手の嬢ちゃん、エピカと同い年だったのかよ!!)


 すると、エピカはこう言った。

「カラコンを付けていれば、バレることはないでしょうけど……。うー……落ち着かないわ……。」

 エピカは自分の膝に頭をうずめる。


「まあ、俺もフォローしてやるから、あんまり気に病むな。」

「……ありがとう。」

「……で?その『アクシオの助手』とやらは、どんな奴なんだ?」

「えっと……。」

 エピカはレイアのことを話し始めた。


 彼女の話によると、助手・レイアは生真面目な性格で、アクシオのことをとても尊敬しているそうだ。学校では瓶底メガネをしていたため、エピカは気づかなかったという。


「へぇ……。」

「彼女はクラスの委員長で、いつも名前で呼んでいなかったから……。名前を聞いて、そこで初めてわかったのよ……。」

 なんだってまあ……。そんな偶然もあるもんだな……。世間は広いようで狭い……。


「……その助手の子は、お前とよく喋るのか?」

「いいえ、あまり話すことはないわね。」

「なら、大丈夫じゃないか?」

「でも……。」

「まあまあ。」

 俺は彼女の肩をポンッと叩く。


「そんなに不安がるなよ。前にお前も言ってたじゃねぇか。『正体がバレることはない』ってな。」

 俺が笑いかけると、彼女は少しだけ笑顔を見せた。

「……そうよね。うん、そうよ!きっと大丈夫だわ!」

 どうやらいつものエピカに戻ったようだ。俺はホッとする。

「ああ。」


(……そういえば、一つ聞きたいことがあったな。)

「なぁ、エピカ。お前は、あの探偵……アクシオのことをどう思ってんだ?」

……アクシオは、ガーネットのことが好きなようだった。なら、ガーネット─エピカはどう思っているのか?俺は、それが気になったのだ。


「……急にどうしたの?」

「いや、少し気になってな。」

 すると、エピカは少し考え込むような素振りを見せて、口を開いた。


「そうね……。探偵さんの瞳は綺麗だから好きよ。」

「……それだけか?性格とかは……。」

「うーん……。悪い人ではないと思うわ。」

 ふぅん……。嫌いじゃないってことなのか? 案外、脈はあったりしてな……。

 まぁ……アイツは探偵で、エピカは怪盗だから、くっつくことはないだろうが。


「なぁ、もしその探偵に告白されたとしたら、お前はどうすんだ……?付き合うのか……?」

 俺は思わず聞いてしまった。すると、エピカは驚いたような顔をした後、顔を真っ赤にした。


「そ、そんなわけないでしょ!私は怪盗よ?!恋愛なんかに興味はないわ!……今は、ストノスがいればいいから……。」

 最後の方は声が小さくなっていった。


「そっか……。」

 俺は安堵していた。そして、思ったのはただ一つ。


(……アクシオ、ドンマイ。)


 そんな俺を見て、エピカは怪しんでいるようだった。

「な、何よ……。」

「なんでもねぇよ……。」

 俺は誤魔化すように笑う。

「……変なの。」

 エピカはそう言うと、ベッドに寝転んだ。俺は時計を見る。


「おっと、もう休憩終わりの時間だ。」

「あら?そうなの?それじゃ、また夕方頃にね!」

 エピカに別れを告げて部屋を出る時、俺はあることを思い出した。

「あっ、ちょっと待て!」

「なに?まだ何か用があるの……?!」


 ……そんな嫌な顔すんじゃねぇ!

「なんだ、その……。悩みとかあったら、いつでも言ってくれて良いんだぞ……?俺はお前の相棒なんだから……。」

 俺はなんだか照れ臭くなって、目を逸らす。


「……!……ありがと。ストノス。」

 エピカは微笑んだ。

「……おう。じゃあな!」


 俺は急いで部屋を出た。……ったく、柄にもないこと言いやがって……。恥ずかしいだろ……。


でもまぁ、アイツにはいつも世話になっているしな……。たまにくらい、こういうのも良いかもしれねぇな……。


 俺はそう思いながら、仕事に戻っていった。

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