にゃんた RUN 乱 ラン♪

御剣ひかる

詩織のそばにいられるなら

 ぼくはにゃんた。詩織や彼女の家族が言うにはアメリカンショートヘアという種類らしい。まだ“小学生”だった詩織が猫を飼いたいというのに、おとうさんとおかあさんが選んだのがぼくだった。

 “アメショ”は最初に買う猫として薦められているんだってさ。

 黒とシルバーのマーブル模様で目が大きくてくりくりで愛らしいし、人懐っこい、それにしつけがしやすいから、なんだって。

 ぼくとしては、そんな人間の事情は知らない。ただ選んでくれてありがとうって感じだ。

 詩織はかわいいし優しい。

 彼女が“小学生”だったころはちょっと扱いが乱暴だなぁと思うこともあったけど、今は“高校生”で、すごく見た目もかわったし、行動もおとなしくなった。

 これが大人になっていくってことらしい。

 かくいうぼくも大きくなった。というか人間でいうともう“立派な中年”だ。おれと同じだなっておとうさんが笑ってる。

 まだまだ動くことも大好きだけど、やっぱり詩織の膝の上で丁寧に撫でてもらってリラックスしている時が一番だ。

 おいしいご飯と優しい家族。

 ぼくは何一つ不満もなく平和に過ごしていた。

 あの日までは。

 夏の暑い日だった。庭を散歩していたぼくの目の前を、何かが横切った。

 セミだ。

 ぼくはほぼ反射的にセミを追いかけた。逃げるセミを追いかけて庭木を登り、塀を飛び越えた。

「あっ、にゃんたっ」

 詩織の声がした気がしたけど、なおも逃げるセミを追いかけて行こうとした時。

 甲高い音がした。

 体に衝撃が加わる。

 痛い、と思う間もなかった。

 あぁ、ぼく、しんじゃうんだ。

 悲しくなった。

 詩織ともう会えないなんて。

『そなたを生き返らせてやろう』

 どこからか声がした。

『かわりに、陰陽師の英霊と魑魅魍魎を倒す役目を担うのだ』

 ……え? いまなんて言った? オンミョウジ? チミモウリョウ?

 なんでもいいや、生き返れるなら。詩織のそばにいられるなら。

 わかった! いうとおりにする!

 強く思った。

 ほわりと温かいなにかがぼくを包むのがわかった。

 それがぼくの中に入ってきて。

 ぼくは、目を開けた。

 道路にぽつんと立っていた。車はいない。セミもいない。

「にゃんた! 大丈夫?」

 慌てた詩織の声がする。

「よかったぁ。車のブレーキの音がしたからひかれちゃったと思ったよぉ」

 詩織はへなへなと地面にしゃがみこんで、ぼくをぎゅーっと抱きしめた。

 ぼくを完全な“部屋飼い”にしなかったから事故にあったなんてことになったら悔やんでも悔やみきれない、って涙を浮かべてる。

 ぼくがまだ小さい頃、詩織はぼくを外に連れ出したりしていた。だからぼくは外に出たがるようになったんだ。

 泣かないで詩織。ぼく大丈夫だからね。

 ぼくの思いは「にゃー」と小さな声になった。

「うん、にゃんたが無事でよかった」

 詩織がまたぼくをぎゅっとする。

 あったかい。

 さっきのあれは、もしかして夢なんじゃないかって思ったんだけど……。

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