第31話 冴えてる結界の破り方
「今、いったい何が……」
やっと子爵の口が動いて出た最初の言葉がそれだった。
「俺がドラゴンを一撃で倒した。それだけのことだけど?」
「う、嘘だ。ありえない」
「それがあり得るんだな」
俺はドラゴンを殴ったせいで粉々になってしまった『わからせ棒一号』の切れ端を大事に地面に置きながらそう答える。
俺自身は無敵でも、さすがにドラゴンへの攻撃に彼は耐えられなかった。
「一号。君のことは忘れない」
安らかに眠れ。
そう祈りつつ立ち上がる。
「貴様は一体なんなんだ!」
「何だと言われても……何なんだろう?」
はて。
俺自身は俺のことを人間だと思っている。
だけどよく考えるとこんな体の人間なんて存在しないんじゃなかろうか。
だとすると神?
いや、俺があんなアホな女神と同類とは思いたくない。
「バケモノめ!」
そっか。
俺はバケモノなのか。
まぁ、たしかにドラゴンを殴り倒すことが出来るのはそれを超えるバケモノしかいないよな。
なんだかしっくりいった。
「じゃあそれで」
不思議とバケモノ呼ばわりされたというのに気にならない。
これも無敵の心のせいだろうか。
それともとっくに俺自身がその答えに行き着いていたのかも知れない。
「くそっ。お前は私を馬鹿にしてるのか!」
何故だろう。
子爵の言うとおりだと肯定してあげたというのに喜ぶどころか怒りだしてしまった。
隣りに子供がいるのにみっともないったらありゃしない。
「別に馬鹿に何てしてないよ。だけど、そうだな」
俺はちょっとだけ考えるそぶりを見せつつ。
「そのバケモノよりも子爵――アンタの方が何倍もバケモノみたいなことをしようとしてるってことは確かだな」
俺の言葉にわかりやすく表情を歪ませるルブレド子爵には先ほどまで見せていた余裕は一切見られなかった。
虎の子のドラゴンを一撃で倒されて、紳士然とした仮面を保てなくなったのだろう。
「それじゃあ今度は俺の番だな。すぐにそこに行くから待ってろ」
「ここに? 何を馬鹿なことを言っている」
子爵が何か言ってるのを無視して俺は軽く肩を回す。
そしてドラゴンとの戦いの前に閉まった扉の前に立つ。
「開くかな?」
軽く扉を押そうと伸ばした手のひらが扉の手前で何かにぶつかった。
どうやらこれが魔結界らしい。
「いくらお前があのドラゴンより強かろうと魔結界を破れる訳がな――」
「ふんっ」
バキャッ。
拳を見えない壁に叩き付けた途端。
何かが砕け散る様な感覚と音がして。
「馬鹿な……ありえんっ。まさかあの商人に欠陥品を売りつけられたのかっ」
どうやら自慢の魔結界が破壊されたことが信じられないのだろう。
陰に成って見えないが、頭上から魔結界を売った商人に対する罵詈雑言が聞こえてくる。
ちなみにマーシュは運搬役であって、売った商人では無い。
なのに時折マーシュの名前が出てくるのは風評被害も甚だしい。
「まさか私が途中で積み荷を襲わせて支払いを拒否することを見越してっ。いや、その計画はランドが――」
さて、焦ってとんでもないことを暴露している子爵から詳しい話は後で聞くとしてだ。
俺がどうして魔結界を殴り壊せたのかを説明しよう。
「マーシュに相談しておいて良かった」
服を燃やされマーシュに説教された後のことだ。
俺は自分の身に起こったことを彼に説明したついでに「魔法を打ち消すにはどうしたら良いのか」について尋ねてみた。
なんせあの時は迫り来る
無敵とはいえ、俺の身につけているものは無敵では無い。
なので次に同じようなこと画会った時に対処出来る方法があればと考えたのである。
「レジスト魔法か相反する魔法で相殺するかですかね」
「俺は魔法は使えないんだ」
「だったら魔法レジストの効果のある魔道具を身につけるとか。でも相手が強力な魔法使いだとレジストしきれませんが」
「他には?」
「他に……ですか? そうですね。魔法は基本的にそれより強い魔法をぶつければ消せるので、強い魔力を秘めた魔石でもあればそれでうけとめることで防げるとは思います。でもそんな勿体ないことは普通しませんけどね。魔石があるなら普通にレジスト用の魔道具に加工したほうが安全ですし」
そう言って笑うマーシュの横で俺は大量の魔石が入った袋を手で触りながら思った。
次に同じ米子とがあったらこの魔石を握って殴れば良いのか――と。
「効果は抜群だったな」
なんせ今回握りしめていたのは魔瘴の森で俺が倒した中でも一番デカくて強そうだった『成獣になったレッドドラゴンの魔石』だったのだ。
いくら子供ドラゴンの攻撃も防げる魔結界だとしても耐えられる訳が無い。
「パパっ、逃げようよっ」
「そ、そうだな」
頭上から逃走しようとしている親子の声がする。
いまさら逃げられる訳が無いのに。
「そろそろ子供たちも心配だし。さっさと後片付けしてスラムの皆を助けに行かなきゃな」
俺はそう呟きながら目の前の扉を蹴り開けた。
「ギャッ」
悲鳴の主は俺を案内してくれた執事のマキエダである。
どうやら扉を閉めたのは彼の仕業だったようだ。
離れには近づけないというのは嘘だったのか。
そう思いながら意識を失っているらしい彼を放置してロビーに足を踏み入れる。
「ああっ。アイツがいるよっ」
「ん?」
その声の主は二階席から急いで下りてきたジグスだった。
後ろには子爵の姿も見える。
「秘密の脱出口とか作ってないのかよ」
「そんなものはこれから造るつもりだったのだよ」
意外にも落ち着いた声で子爵が答える。
その顔には全てを諦めた様な表情が張り付いていて、髪にも少し前まで無かった白髪が交じっている様に思えた。
「これだけは言っておくけど」
「なんだ?」
「俺は別にアンタを殺そうとかそういうことは考えてない」
命も狙われたしスラム街の人々にも酷いことをしようとした。
今まで彼に苦しめられてきた人も多いだろうことは理解している。
だけどここで彼を殺してしまえば色々と面倒なことになるだろう。
なんせ彼はこの国の貴族で、この街のトップである。
そんな男が殺されたとなれば、例えそれが子爵自身が招いた結果だとしても問題になるだろう。
最悪軍隊が送り込まれてこの街がぐちゃぐちゃになっても不思議では無い。
「だから話し合いをするために俺はここに来た」
俺は子爵たちに歩み寄りながら自分が来た目的を話す。
「でもまぁ、話し合いって言っても俺の言うとおりにしないなら、その時は――わかってるよね?」
子爵の真正面に立った俺は最後にそう付け加えると、満面の笑顔を作って見せたのだった。
***とりあえず急いで書いたあとがき***
ぎ、ぎりぎり間に合ったですわ。
前回のあとがきに書いた様に、お仕事の執筆に集中しててこっちが後れてしまいましたですわ。
とりあえず次回は『話し合い(脅迫)』ですわ。
スラム街の皆をたすけますですわよ。
魔石の使い方には色々あるのですわ。
最近「ですわ」が流行っていると聞いて連発してたら「ですわ」がゲシュタルト崩壊しそうですわ。
と言う訳で次回『アンリヴァルト死す! 希望の未来へレッツゴー!』をお楽しみに!
死なないけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます