第26話 大事件なので入浴シーンは想像におまかせします

「アンリ兄ちゃん!!」


 街の公衆浴場でススだらけの体を洗い流し病院へ戻った俺を待っていたのは予想外の人物だった。


「パレア?」


 病院の扉を開いた途端だった。

 スラム街で待っているはずのパレアが暗い病院の待合から俺に向かって飛びついてきたのである。


 もしかしてテリーヌが心配で待っていられなかったのか。

 最初はそう思ったのだが、俺の胸に抱き着いたパレアが顔を上げた時、それは間違いだと悟った。


 なぜなら彼女の顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだったからだ。


「何かあったのか? もしかして誰か倒れたんじゃないだろうな!」


 俺がスラム街からテリーヌを連れ出した後、もしかしたら誰か幼熱病を発病したのかもしれない。

 だけど大丈夫だ。

 たぶんもう特効薬は出来た上がっているはずだから。


「スラム街に街の兵士がいっぱい来てみんな連れてかれちゃったんだよっ」

「は?」

「あたしも捕まりそうになったんだけど、ロンゴが庇ってくれて……兄ちゃん、みんなを助けてっ!」


 俺はしばらくの間パレアが口にした話を理解出来ないでいた。


 街の兵士がスラム街に?

 しかもスラム街の住人を連れ去っていっただって?


「それはいつ頃の話ですか?」

「ついさっきだよっ」


 マーシュの質問にパレアは叫ぶ様に答える。

 そうすると俺が風呂に入っている間だろう。


 別にそれを狙われた訳では無く偶然なのはわかっているが。

 子供たちがそんな目に遭っている間、のんびりと湯船で数を数えていたことに罪悪感を覚えた。


「帰ったか」

「はい、今戻りました」


 病院の奥から騒ぎを聞きつけたのだろう、医者が顔を出す。


「君たちの知り合いだそうだな。少し怪我をしていたから回復魔法で治しておいた」

「ご迷惑をおかけしたようで」

「気にするな。それが私の仕事だ……それと」


 医者は言葉を一度句切ってから話を続ける。


「幼熱病の薬が出来上がったから飲ませておいた」


 どうやら俺が思っていたよりも早く薬は完成したようだ。


「明日には元気になっているだろう」

「良かった……パレア、これでテリーヌは助かるぞ」


 俺はパレアと同じ目線まで腰を下げる。

 漏れた灯りの中で涙と鼻水でぐちゃぐちゃだった彼女の顔に少しだけ明るさが戻った気がした。


「後は任せて良いですか?」


 パレアから目を離さずに俺は後ろに立つ一番信用出来る人にそう尋ねた。

 今、この街で頼れる人が居るとすればマーシュ以外にいない。


「行くのですね」

「もちろん。でもまたマーシュさんに迷惑かけちゃうかも……」

「そんなこと気にしないで下さい」


 俺は優しくパレアの頭を撫でてから立ち上がる。

 そして奥でこちらを見ている医者に「子供たちをよろしくおねがいします」と頭を下げた。


「患者を守るのも私の仕事だからね」


 医者はそう応えると少し笑ってこう付け加えた。


「やれやれ。もしかすると夜中に患者がいっぱいやってくるかもしれんな」

「そうですね。その時はわたくしも手伝いますよ」

「それは助かる。なんせ兵士たちも死の茸デスマッシュルームを手に入れられるほどの人を相手にするんだ。怪我で済めば御の字だろう」


 どうやら俺が兵士と戦うと思っているらしい。

 たしかにそうなる可能性は否定しないけれど。


「出来れば話し合いでなんとか治めるつもりなんですけどね」


 俺は苦笑いしつつ最後にパレアの肩を軽く叩いてから病院を出た。


 すっかり夜の町並みを、所々に設置された街灯と側の建物から漏れる灯りだけが照らしていて。

 俺はその中を全速力で走り出した。


「きっと俺のせいだ……」


 目指すは先日訪れたルブレド子爵の館。

 なぜなら今回の事件はたぶん俺が彼に告げた願いが原因じゃないかと気がついたからだ。


「俺が願ったのはこういうことじゃ無いってのにっ!」


 走りながら叫ぶ俺を、街行く人々が奇異なモノを見る様に振りかえる。

 だけどそんなことは気にならない。


 今は俺のせいで連れ去られたスラム街の人たちを。

 子供たちを助けることしか頭にない。


「自分の尻は自分で拭いてやるさっ」


 穏やかないつも通りの夜を謳歌する人々は知らない。

 今、何か叫びながら走り去っていく俺がこれから何をするのかを。


 それがこの街に大きな変化をもたらすと言うことすらも。

 何も知らない。


「出来れば穏便に済ましたいけどねっ!!」




◆◆すぐに消すかもしれないあとがき◆◆


アンリが向かった時間の公衆浴場は仕事帰りや狩りの帰りの冒険者が多く『ドキッ! 筋肉だらけの入浴大会!』な状況でした。


そんな描写をつらつらと書いていたのですが「このシーンいらなくね? むさい

男どもの入浴シーンなんて誰得なの?」と我に返ったので全削除しました。


お楽しみにしてくれていた紳士淑女の皆様には申し訳ございますん。


というわけで遂に子爵が動き出しました。

筋肉式解決法じゃなく話し合いをしたいと考えているアンリくん。


「だが断る!」


言い切った所でいつものやつです。


毎日数多くの★とブクマをいただきましてまことにありがとうございます。


★とブクマと一言レビューと感想は作者のやる気をぐんぐん上げる筋肉の元プロテイン

筋肉と読者さまは裏切らない!


それでは次回『お前の様なド○○○がいるか!』を乞うご期待。


※注意※

ネタが古いの(ry

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