第22話 茸狩りの男

 はい、どうも皆さん『おはこんばんちわ』でございます。


 現在わたくし、懐かしのマイホームこと魔瘴の森に帰ってきております。

 鬱蒼と茂る木々の間から、懐かしい野獣どもの視線をビシビシ感じて心が躍りますね。


 しかしその視線が少々気恥ずかしく感じるのは既に文明の息吹を見に感じた後だからでしょうか。

 あの頃は余り感じなかった羞恥心が浮んできます。


 なぜなら――



「いやぁ、久々の全裸は開放感あるな!」


 そう。

 今の俺はこの世界に来た頃を思い出させる全裸だからだ。


「しかし全裸でナイフを持った男とか、街中だったら速攻逮捕されちゃうだろうな」


 だがここは魔瘴の森の奥。

 俺の裸を見とがめるような人間は居るはずも無く。


 熱視線を送ってくるのは、はすっかり俺のことを忘れ、ただの餌だと思っている魔物たちだけだった。


「熱烈なラブコールは嬉しいけど、今は忙しいんで邪魔しないでほしいな」


 俺が森の中で全裸になっているのには理由がある。


 もちろん別に露出狂の気があるわけではない。

 いや、久々の開放感はあるがそれとこれとは別の話だ。


 俺が今全裸なのは、例の死の茸デスマッシュルームを狩るためである。


 きのこ狩りに全裸?

 そんなふうに疑問に思った人は死の茸デスマッシュルームの特製を思い出して欲しい。


 そう、あの茸は衝撃を与えると爆発して毒を周囲にまき散らす性質を持つ。

 つまりもし服を着たままだと、間違って死の茸デスマッシュルームを爆発させてしまったとき、その全てを捨てて全裸で街に戻らなければならなくなる危険性がある。

 なので俺は少し離れた場所に服と装備一式をまとめて埋めて隠し、全裸で群生地までやって来たというわけだ。


「さてと、たしかこのあたりか」


 当時、自分が進んだ方向を記録するために木の幹に刻んだ印を辿ってたどり着いた森の奥。

 木の幹にアンリ画伯渾身の茸の絵を発見した俺は一本一本近くにある木の根元を確認し始めた。

 この近くにサンテアを助けるための死の茸デスマッシュルームがいくつも生えているはずだ。


「おっ、あったあった」


 五本目の木の根元。

 そこには見慣れたまん丸く真っ白な死の茸デスマッシュルームが落ち葉の隙間から頭を覗かせていた。


「爆発させない様に注意しないとな」


 俺はまず死の茸デスマッシュルームに触らない様に気を付けながら周りの落ち葉と腐葉土を手で退けていく。

 衝撃を与えなければ死の茸デスマッシュルームの時限装置は作動しないし、たとえ発動してもその毒は俺には効かないわけだが、そうなれば体から毒を洗い流さないといけなくなる。

 もちろん川に飛び込んで――なんてことをすれば川の生物に甚大な被害を及ぼすことは例の泉で経験済みだ。

 なのでいちいち川で水を汲んでは離れた場所で浴びて洗い流すという作業を強いられることになる。


「慎重に、慎重にっと……抜けた!」


 あの頃は雑に引っこ抜いていたが、今日の俺は竹の子の新芽を掘り出すかの様に優しい手つきで茸を見事抜くことに成功した。


「さて、ここからもっと集中してやんないとな」


 抜き出した死の茸デスマッシュルームをひっくり返す。

 そしてそこからちょこんと突き出た茎を指先で摘まむ。


「街で一番切れ味の鋭いナイフって触れ込みは伊達じゃ無いってところを魅せてくれよ」


 左手につまんだ茸の茎。

 その根元に形ばかりのナイフの刃をそえる。

 そしてゆっくりと死の茸デスマッシュルームの頭を間違っても傷つけない様に注意しながら茎を切り外した。


「ふうっ……町一番は伊達じゃ無かったな。もしかしてこのナイフなら俺の指も切れたりして」


 そんなことを呟きながら俺は残った死の茸デスマッシュルームの頭を元の場所に出来た穴に埋めた。

 茸の生態は詳しくないが、こうしておけばまた同じ所から生えてくる気がしたからだ。


「医者は一個あれば十分とか言ってたけど、もしかすると他の子供たちも発病するかも知れないし、もう少し取っていくか」


 このナイフがあれば爆発させずに切り取れる。

 コツを掴んだ俺に怖いものは無い。


 もしかするとこの時俺の心の無敵が発動していたのかも知れないが。

 気がつくと俺の手には20個もの死の茸デスマッシュルームの茎が乗せられていた。


「はっ……こんなことしてる場合じゃ無い」


 茸狩りが楽しくなって時間を忘れていた俺は、我に返ると慌てて脱ぎ捨てた服の元へ向かった。

 取ってきた死の茸デスマッシュルームの茎を袋に詰め込んで服を着ると、木の幹に着けた印を辿って街道へ急いだ。


「あんまり遅くなるとマーシュにも迷惑が掛かるってのに」


 今日俺が街の外に出られたのはマーシュのおかげだ。

 なんせ俺自身は現在冒険者カードももたない無職で身分不詳の男である。

 普通に街の外に出るのも難しいが、戻るとなると更に難しい。

 なのでマーシュという『保証人』に保証して貰うことでなんとか街を出ることが出来たのだ。


 ただし今回の外出は日の入りまでという時間制限がついている。

 というのも外出理由が『マーシュが野盗に襲われた現場に落としてきたものを取りに行く』というもので、その作業に日をまたぐ許可を貰うのは難しかったからだ。


「さて、あとは街まで走って行けば十分間に合うな」


 森を出て空を見上げると少し赤くなっている。

 だが疲れ知らずの俺が本気で走れば十分日の入りまでに間に合うはずだ。


「おい。そこの君」


 しかし走り出そうとした俺に、背後から呼びかける声があった。

 街の方しか見てなかったが、どうやら反対側から誰か来ていたらしい。


 振り返ると少し離れた所から数人の男女がこちらに向かって歩いてくるのが目に入った。

 身につけているものからすると冒険者だろう。


 もしかして俺が魔瘴の森から出て来たのを見られていたのかもしれない。

 このあたりの人なら魔瘴の森の怖さをよく知っているはずで、そこから出て来た俺は不審者すぎる。


「な、なんでしょうか?」


 さて、どう言い訳をしようか。

 いきなりトイレに行きたくなって慌てて森の中で済ましてきたとかでいいかもしれない。

 たぶんこの世界ならたちションで逮捕されないだろうし。


「僕たち、ジモティの冒険者なんだけど」


 追いついてきた冒険者の中で剣士らしき少年がそう言った。


 冒険者は全部で五人。

 男女の剣士に大きな盾を持ったのが一人。

 魔法使いらしき女の子に神官服っぽい男。

 全員が今の俺より少し年下の少年少女だった。


 この若さで冒険者になれるんだと思っていると、少年は俺の顔を見てパッと顔を明るくさせ。


「たしかあなたって冒険者ギルドに登録に来てた人だよね?」


 笑顔を浮かべてそう言ったのだった。





◆◆すぐに消すかもしれないあとがき◆◆


毒茸「何者だっ!」

アンリ「キノコ狩りの男! アンリバルト!」

  ちゃーちゃちゃーん ちゃららんっ


キノコをタケノコの新芽を扱うかの様に採取する。

やっぱりキノコタケノコ戦争は避けられなかったよ……。


そしてアンリが成れなかった冒険者との出会いに胸ときめくアンリヴァルト。

しかし長話してる暇は無いぞ。

街には君の帰りを待っている人たちがいるんだ。

走れアンリ!


というわけで数多くの応援ありがとうございます。


サポーター登録をしてくれた読者様も増えてモチベーションがあがりまくりでございますですぞ。


つい筆が乗って毎日2000文字を軽く超える話を書き続けることが出来ております。


それもこれも読者の皆様のおかげでございます。

これからも頑張って書いていきますので引き続き応援よろしくお願いいたします。


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いつでもウエルコメ!!


それでは次回『お、お前……*だったのかよ!!』を乞うご期待。


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