第11話 あこがれの冒険者ギルドへ
※前話最後の「貴族街」を「安全な場所」に修正いたしました。
マーシュに寄ればこのジモティの街は
確かに街の中を歩く人たちの中には結構な数それらしき人たちが見受けられる。
メインストリートらしき大通りの左右には剣や盾が描かれた看板を掲げた店が幾つもあり。
酒場のオープンテラスらしいところでは真っ昼間だというのに厳つい男たちが木製のジョッキをかち合わせている姿もあった。
「もしかしてその冒険者たちって魔瘴の森の魔物を狩りにきてるんですか?」
俺は腰の魔石袋とピョン吉の入った籠に視線を落としながら聞いた。
なにせこのピョン吉一匹でもかなり高額で売れるらしいのだ。
それを求めて冒険者が集まってきていると言われても不思議では無い。
だが――
「たしかにそういう人たちもいますけど、大抵の冒険者はこの街を挟んだ反対側にある『
静の森というのは魔瘴の森から街道を挟んだ対面側に広がる森の名前らしい。
魔瘴の森ほど魔素濃度が高くないため、ある程度の腕を持った冒険者ならそれほど危険をおかさずに倒せる魔物が多く、彼らにとっては絶好の狩り場なのだとか。
「まぁ『静か』と言っても魔瘴の森と比べて……ですけどね。もちろん危険は危険なので命を落とす人もいますし、ごく希に高ランクの魔物が現れてそれなりの被害が出ることもありますが」
それでも魔物の素材というものはかなり高価で取引されるため、危険を冒して冒険者になる者は後を絶たないという。
特に農家の三男や将来家を継げない立場の者が多く。
冒険者ギルドが無かった頃は経験も知識も無いまま森や洞窟に向かい、そのまま文字通り帰らぬ人となる者がほとんどだった。
「あっ、見えてきました。あそこがこの街の冒険者ギルドですよ」
「えっ、どこですか!?」
異世界のお約束冒険者ギルド。
転生したからには『新人冒険者への洗礼イベント』に期待するなという方が無理ってもんだ。
馬車の進行方向。
武器屋や鍛冶屋、道具屋らしきものが立ち並ぶ一角に、一際大きな二階建ての建物が鎮座していた。
大きく開け放たれた扉からは何人もの冒険者らしき人々が出入りしているのが見える。
「おおっ!! あれが憧れの冒険者ギルドッ!」
「はい。あそこが――って、立っちゃ危ないですよアンリ様っ」
俺はつい興奮して立ち上がり馬車から落ちかけ、慌てて屋根をつかんで事なきを得る。
「走ってる馬車の上で立つのは危険ですよ」
「そうですね。気を付けます」
この世界の馬車はゴム製タイヤを葉居ているわけでも無ければサスペンションが機能しているわけでも無い。
なのでかなりガタゴト揺れる。
街中に入って道が石畳になってからずいぶん落ち着いたとはいえ、時々思い出したかの様に石畳に出来た凹凸で大きく跳ねたりもした。
正直乗り心地は最悪だが、無敵のおかげなのか別に尻が痛くなることもなくいつの間にか揺れにも慣れてしまっていた。
おかげでつい立ち上がってその洗礼を受けかけてしまったわけだが。
「その様子からするとアンリ様は冒険者登録は済されていないようですね」
「ええ、まぁ」
俺の返事に「そうなるとまずは冒険者登録からなんですけど」と難しい表情を浮かべる。
そしてそのままなにか考え事をするように黙ると、ギルド併設の馬車置き場に着くまでその沈黙は続き。
「何か問題でも?」
俺は耐えきれずにマーシュへそう問い掛けた。
「そうですね。アンリ様は冒険者登録の仕方はご存じ……ではなさそうですね」
「もしかして入会試験がかなり難しいとか?」
この世界に来て日が浅い……わけではないが、大半の月日を森の奥で原始生活をしていた俺にこの世界の知識は無い。
もしこの世界の常識とか答えなきゃいけないような試験だったら落第間違いなしだ。
無敵の落第生の誕生である。
「いえ、そんなことはありません。元々冒険者というのはさっき話したとおり喰いっぷちに困った人々がなることが多いので間口はかなり広くなってますので」
「じゃあ何が問題なんですか?」
学科試験じゃなくて戦闘試験とかなら自信はある。
「冒険者登録のためには、まず冒険者カードという者を作る必要がありまして」
「ほうほう」
「そのカードには冒険者の名前ちランク、そして管理用のコードナンバーが血を染みこませることで自動的に記される仕組みになっているのですが」
来たか異世界ギルドの謎技術。
おれは内心ワクワクしながらマーシュの話の続きを聞く。
「自動的というのが問題なのです」
「楽でいいじゃないですか」
俺は「何が問題なのかわからない」という風に首を傾げた。
それに対しマーシュは難しい表情を崩さず「いいですか?」と口を開き。
「自動的にということはアンリ様……貴方の本名が記載されてしまうんですよ!!」
と、いかにも重大な問題だとばかりに悲痛な声を上げた。
しかし俺は彼の言葉になんら困る部分を見つけられず、逆に困惑してしまう。
なぜなら俺は別に自分の本名を知られても困らないからだ。
それどころか記憶の彼方に失われてしまった名前を知ることが出来るのなら万々歳である。
「その程度なら別に問題ないね。じゃあ登録しに行きましょうか」
「ええっ。でもお忍びがバレてしまいますよ!」
馬車から飛び降りた俺をマーシュが慌てて追いかけてくる。
彼の中で俺はお忍びの騎士。
だから本名を知られることは不味いことだと思い込んでいるのだ。
俺は足を止めマーシュに振り返ると彼の不安を払拭しておいた方が良いなと思い直し。
「大丈夫。良い考えがあるんだ」
と、前世では失敗フラグになってしまうような言葉を口にしたのだった。
*******ひとことあとがき************
某指令「私に良い考えがある」
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