玖
「
「俺は一般人のフリが上手いって事にならないか?」
「なる訳無いでしょ」
「まあ、そうだよな」
「今回の事で見ていた先生
「ふぅ」
図書館で合流した2人は
麻琴に帰宅部なのに
「下手したら同級生3人が更生プログラム受診の為に退学か」
「問題児を抱えた学園だ」
「最大の問題児が何を言っているのよ」
「心外だ。被害者だぞ」
「殴ってくるように誘ったでしょ?」
「……」
「
「教師たちから形式的に質問するかもって言われてんだけど、バレるかな?」
「バレるでしょうね。先生方だって質疑にはメンタル専門の人を用意するだろうし」
「更生プログラムを受けなくて済む程度に答えてくるか」
現在の教育機関、企業はどこも所属する人員にメンタル診断を受けさせる。その結果、一定以上の心理的不調を
各国が導入するこのプログラムは受診した人間に『社会的不適合者』『妖魔になる可能性の高い人間』というレッテルを貼ってしまう。その
ただ更生プログラムによって妖魔化の
「
「俺だって面倒なプログラムは受けたくない」
「ま、誰だって嫌よね」
「あと、今回は麻琴お嬢様がオモテになるのが悪いのでは?」
「止めて」
本気で嫌なのだろう、麻琴は完全に無表情だが少しだけ見開かれた目の
学生が2人で半個室に入った体裁を整える為の物、内容は頭に入っていない。
「それより、ステルス妖魔ね」
「あん?」
「
「陰謀論?」
「妖魔の発生は多少はコントロールが出来るでしょ?」
「ああ。各国のリーダーが
「そうよ。そして、妖魔の発生をコントロール出来るなら妖魔を人工的に兵器化する事も可能と考える人だって居る」
「そりゃ居るだろうな」
現在の学生は義務教育のカリキュラムで妖魔
その中には妖魔化の原因、リスク、歴史が含まれる。
過去、独裁政権にて妖魔化を兵器転用する人体実験が行われた事、国家間戦争を引き金に複数の小国が
その為、日本の子供は皆、常識的な知識として妖魔の事を危険な存在として知っている。
「ステルス妖魔は政府が密かに研究開発した人工妖魔ってか?」
「国や企業のスキャンダルなら研究所を潰して公表して第3者の監視を入れ動けなくする、なんて手段も有るのだけどね」
「何だよ、
「半グレ集団が遊び感覚で
「は?」
「もし本当なら、
「麻薬みたいな話だな」
「ああ、言われて見ればその通りね」
裂の言い様が非常に麻琴の感覚に合った為につい納得してしまった。
「で、陰謀論って言うからには
「ええ、ハッキリ言えば確かな情報が無いわ。ネットの掲示板でそんな妖魔が居たら怖いな、なんて情報なら笑い話で済むんだけどね」
「そういや情報源は何だ?」
「
「影鬼に潰された半グレ?」
「潰したのは影鬼じゃなくて
「四鬼が半グレを?」
「30年位前に
「妙に時間が掛かったな」
「当時の警察とヤクザの
「それこそ陰謀論みたいだな」
「そうね。最終的に四鬼が保有する独自の捜査権を行使して強引にヤクザと半グレの拠点に踏み込んだみたい。警察と四鬼の間で行われた
「ああ、センセーショナル過ぎて陰謀論にしか聞こえないな」
「ええ。念の為に30年前の警察組織のニュースを検索してみても関係の有りそうなものは無かったわ」
「そんな組織の恥じ、隠せるなら隠すだろうな」
「それに30年も前の事、映像や音声も今ほどの物は無いでしょうから今になって当時の関係者を名乗る人が出てきても
この情報の真偽は誰にも分からない。
30年前の事実など今更公開されたところで過去の話でしかない。
それよりも問題は現状のステルス妖魔だ。
今の麻琴の話ではステルス妖魔についての情報が
「研究されていた妖魔の情報は無いのか?」
「データベースには殆ど何の情報も無かったわ。ヤクザが用意した研究施設を四鬼が強襲し施設に居た人間を
「研究内容も生き残りも不明か」
「四鬼はどこまで行っても妖魔を討滅する為の組織、妖魔の研究内容に興味を示したのは激流鬼だけだし、激流鬼がどんな情報を持っているかは
「敵対している組織の内部情報があるだけ凄い、か」
麻琴が言う通り陰謀論の類でありステルス妖魔の有力情報かと言われれば怪しいものだ。しかし情報収集とは今回の様に何の関係も無さそうな情報も含めて始めるもの。
麻琴もその
「他に未確認妖魔に繋がる情報も無いし、まずはその線で情報を集めてみるか?」
「ええ。当時の研究員やヤクザの生き残りが居ないか探してみましょう」
「ちなみに半グレとかヤクザの本拠地ってどこなんだ?」
「蒲田よ」
「微妙に面倒な場所だな」
「八王子からだと通い辛いのよね」
2人の活動は主に八王子や新宿だ。
神奈川県との
「現地協力者を確保するなんて話でもないし、まあ蒲田に行くのは状況の整理が済んでからにしましょう。流石に学校が終わって直ぐに向かっても5時くらいからの
「了解」
「それよりも新宿なら激流鬼の研究施設が有ったわね」
「……」
「大丈夫、
「出来るか」
「若者がやる前から
「映画のスパイじゃねえんだ、マジの国家権力施設に
「ま、
「頼むぜ本当に」
麻琴のような生真面目そうな見た目だと冗談と本気の
冗談だと言われても疑いを隠しもしない裂に麻琴は真剣には向き合わず天井を
「私たちにステルス妖魔を
「俺にステルス妖魔駆逐の仕事が来たりしないよな?」
「予想も出来ないわね。今までは私の
「……面倒は嫌いだ」
「私もよ。下手をしたら私に
「ああ、それも有り得るのか」
「専属鬼を
「俺もステルス妖魔駆逐する義務無いな」
「ま、今日はここまでね。一応、
「……冗談だと言ってくれ」
「分からない、て言ってあげる」
自分の教科書とノートを鞄に入れていく麻琴に合わせて裂も片付けを始めた。
このスペースは打合せ用なので1人で使うスペースではない。麻琴が帰って1人になると図書館職員から怪しまれる可能性も有る。
勉強しているフリだったので広げていた物も少なく直ぐに片付け終わった2人は
「そういえば、龍牙が居るんじゃなかったか?」
「さっき帰るのを見たし、仮に見られてても特に問題は無いでしょう?」
「俺は似たような事を言われて数日で先輩3人に囲まれたんだけどな」
「……さっさと帰りましょう」
裂の被害を考えると笑えないが自分がどうにか出来る事でもないで麻琴は
「ここを出たら分かれよう。俺は適当にゲーセンにでも
「優等生の私を前に
「んじゃ駅ビル」
「なら
駅ビルならば本屋、スーパー、服屋と選択肢が多い。帰り際に寄っているところを見られてもいくらでも言い訳が出来る。
図書館を出て直ぐに2人は分かれて裂は駅ビルへ、麻琴はバス停に向けて歩き始めた。
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