第48話

「え」


 柏田の間抜けな声が、何故か俺の元まで聞こえる。こんな事は予想してなかった、といったところだろうか。


 柏田の周りには人がいない。クラスのお遊びサッカーであるため、人間がボールの周りに集中しすぎている。俺の指令をなんとなくは理解出来ても、きちんと行動出来るのは一握りだ。控えめに言って役立たずどもめ。


 俺は、瞬時に頭を回転させ好感度看破ラブラブ・ジャッジを連発させる。こういう咄嗟のタイミングでは、目に付いた見知った人物にボールをパスしがちだ。俺の好感度看破ラブラブ・ジャッジは友情ですら数値化可能だ。つまり、柏田が現実的にパス可能な人物で最も柏田の好感度が高い人物を探せば良い。


好感度看破ラブラブ・ジャッジ!!』


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 柏田一郎 → 伊藤健二

 好感度:-41


 伊藤健二 → 柏田一郎

 好感度:-11

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 柏田一郎 → 高橋雄三

 好感度:-33


 高橋雄三 → 柏田一郎

 好感度:-45

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 柏田一郎 → 渡辺公司

 好感度:-38


 渡辺公司 → 柏田一郎

 好感度:0

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 柏田一郎 → 鈴木亮吾

 好感度:-30


 鈴木亮吾 → 柏田一郎

 好感度:+3

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 柏田一郎 → 田中和真

 好感度:+18


 田中和真 → 柏田一郎

 好感度:+25

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 柏田一郎 → 舟倉あや

 好感度:+8


 舟倉あや → 柏田一郎

 好感度:+81

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「ぶっ!」


 俺は突然出てきた『好感度:+81』の文字に驚き、思わず吹き出してしまった。なんだ?舟倉あや?確か⋯⋯。


 そう考えていた間に、柏田は田中和真にボールをパスした。しまった!突然の出来事に動揺してしまい、パスカットに動くという思考が遮られてしまった。


「柏田くん!右を走って!」


「えっ!?う、うん!」


 田中は吹奏楽部に所属している優男だ。柏田と友達、と呼べるほどの好感度では無いが、普通に良いクラスメイトくらいに思われているのだろう。田中はボールをドリブルしながら、人のいないグラウンドを駆ける。より人のいない田中の右側を柏田が全力で走っていた。


 俺は田中と柏田を追うため走る。カス共がファウルスレスレの妨害をしてくるが、全てを回避してボールを追いかける。


 暫く経ち、田中が柏田にボールをパスする。今度は来ると分かっていたからか、覚束無いながらもボールを受け止めそのままドリブルを始めた。


 しかし、運動神経抜群天城くんの足は速い。一般帰宅部生徒の柏田がドリブルして進めるスピードより、俺の全力疾走の方がずっと速いのだ。


 もう少しで追いつく、といったところで柏田が田中にパスを出した。ギリギリ間に合わないパスルートだ。他のクラスメイトも急いで追いかけるが、なかなか間に合わない。


 いよいよ俺らのゴールが狙える距離まで来た。しかし、同時に俺もボールを持つ田中のところまで追いつく。田中がシュートのフォームに入ったため、俺は田中のボールをカットしようと足を蹴り出した。


「ぐっ!?」


 しかし、俺のボールカットは阻止される。渡辺カスその3が俺の足に思いっきりスライディングをかましたからだ。俺は、思わず痛みでバランスを崩して転倒してしまう。


 こいつ⋯⋯!どう考えてもファウルだろ!この俺に直接暴力を振るうとは、死にたいらしいな⋯⋯!


 俺が憤ってる間に田中がボールを蹴った。しかし、そのボールはゴールキーパーが弾き飛ばす。キャッチしようとしたが、失敗してしまった形だ。


 その弾かれたサッカーボールは、柏田の目の前に飛んでくる。何やってんだあのゴールキーパー⋯⋯。


 柏田は覚悟を決めた顔をすると、そのボールを頭で更に打ち返す。柏田のヘディングシュートは、特殊な軌道を描いてゴールネットへと吸い込まれた。

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