第17話

 漫研のメンバーと面会も済んだため、とりあえず漫研の活動に参加させてもらった。まだあまり漫研に入った実感がないものの、書類上では俺も漫研の一員なので、少しは同じ活動をしてみたい。


 今日は、まず現在放送中のアニメ⋯⋯今期のアニメ?とやらについて、語り合うようだ。


「やっぱ、今期のアニメで一番と言ったら『ヤリラフィー呂布』だよね!」


「『ヤリラフィー呂布』面白いですよね〜!全然注目してなかったのに、始まったら面白くて毎週の楽しみになっちゃって!」


「わ、私はやっぱり『忍者家族』かな⋯⋯。原作の頃から大ファンだから」


「あ、忍者家族なら知ってるよ木崎さん。面白いよねあれ、特に娘のキャラが可愛い」


「あ、天城くんも⋯⋯見てるの?⋯⋯そ、そうなの。面白いよね⋯⋯」


 良かった、ヤリラフィー呂布は知らないアニメだったが、忍者家族なら知ってるアニメだ。兄が見る時に一緒に見る程度だから、あまり多くのアニメは分からないのが玉に瑕である。万能たる俺も、詳しくないジャンルは存在するのだ。


「私は悩むけど⋯⋯やっぱり『おりひめ様はキュンさせたい』三期です!」


「おりひめ様は外せないよね〜!」


「わ、わかる⋯⋯。私、岩下会計が好き⋯⋯」


 また知らないアニメの話で盛り上がってんなぁ⋯⋯。さんき?ってのは何だろう⋯⋯。ゲームの3機とは違うだろうし、普通にシーズン3みたいな話かな?たしか、魔殺の弦の続編を『にき』と兄が呼んでいた⋯⋯と思う。こんきが今期なら、にきとさんきは二期と三期ってことか?知らんけど。


「みんな好きなアニメ別々なんですね」


「今期は豊作だからね〜!」

「豊作って言うのは、今放送してるアニメに面白い作品が沢山あるって意味だよ」

「解説ありがとう鶫!っていう事だから、好きなアニメが渋滞して一番を中々決められないの!だから我々オタクは嬉しい悲鳴をあげてる、っていう訳なのさ!」


「なるほど」


 どうやら今期は豊作、らしい。もしかすると面白い作品が全然無い、不作の時期もあるのかもしれない。そんな時期と比べれば、面白いアニメが多いというのは、確かに嬉しい悲鳴もあげたくなるだろう。

 今までの依頼者にオタクの人間は居たが、好きな相手がオタクである事は無かったため、この辺の知識はてんで薄い。今後オタクの事が好きなやつが相談に来た時、漫研の彼女達の話は参考になる。

 俺は思わぬ協力者の登場に、内心ほくそ笑んだ。


 するとここまで話を聞いていた木崎が、ゆっくり口を開く。


「あの⋯⋯天城くんは漫画とか、アニメとか⋯⋯何を見ますか?」


「俺?そうだなぁ、ステップの漫画アニメは良く見るよ。ワイバーンキューブとか、スリーパーツとか、MENMAとか。後は魔殺の弦みたいにめちゃくちゃ流行ったやつ⋯⋯まぁ、魔殺の弦もステップなんだけどさ」


「わぁ、男の子っぽいですね⋯⋯。こ、ここは漫研ですけど、ライトノベルとかも読まないんですか?」


「あ〜、なんかアニメの小説だっけ?見た事ないかなぁ⋯⋯」


「ここ、漫画とか⋯⋯ライトノベルとか、私たちの私物がいっぱい、あ、あるので⋯⋯。気になったら、借りていってください⋯⋯」


「え?本当?ありがとう!ちょっと見せてもらおっかな」


 木崎の提案は実にありがたい。ありがたいのだが、俺は自分で言うのもどうかと思うほど高校生らしからぬ忙しさをしている。自分磨きのため(見た目、運動、勉学)の時間をそこそこ必要とし、恋愛相談する者がいれば必要なものを準備する時間も必要になる。

 アニメなら他のことをしながら見ることも出来るが、漫画や小説だとそう簡単には行かないため、あまり多くを見ることは出来ないだろう。

 だから、そんなキラキラした目で俺を見ないで欲しい。可愛いから期待に応えたくなっちゃうから、やめてほしい。


 木崎の輝く瞳を一身に受けながら、俺は白澤に連れられて漫画ライトノベルが置いてある本棚へと連れられて行った。


「この辺がステップ作品!ちゃんとワイバーンキューブとか、スリーパーツとかも全巻あるの」


「うわぁ、すげぇな。圧巻のボリューム⋯⋯」


「歴代の漫研員が、ちょっとずつ長い時をかけて集めたんだって。だから、ここが無くなるのは困ったの」


「歴史ある本棚なんだな」


「そういう事。こっちの辺りは青年誌とか。わ、私はあんまりその⋯⋯え、エッチな奴とかは⋯⋯好きじゃないから、そういうのはよく分かんない⋯⋯」


「え?ごめんなんだって?もっかい言ってくれる?」


「絶対聞こえて癖に嘘つかないで!」


「へへ、さーせん」


 ああ、落ち着く〜〜〜〜〜!気心の知れた相手を弄る瞬間⋯⋯生きてるなぁ、って気持ちになるわ!でもなんか俺、成長したらセクハラジジイになりそうだよな。怒られないうちにいっぱいやっとこ⋯⋯(最低)。

 恥ずかしさか、怒りか。顔を赤くしてぷりぷりしている白澤を見ていると、俺の中の癒しエネルギーが高まる。これが『整う』ってやつなのか⋯⋯?


「おほん。それで、こっちがライトノベルね。こっちの本棚は健全な絵ばっかりの本で、もうひとつの本棚に纏めたのは⋯⋯まぁ、そういう事」


「ふーん。⋯⋯この背表紙に書いてるのって、あらすじ?」


「あぁ、それはタイトルだよ。タイトルにあらすじみたいな長い文章を書く、っていう伝統文化みたいな?そういう物なの」


「普段触れない文化だから新鮮さが凄い⋯⋯。なんか『異世界』って付いてるの多いけど、流行りなのか?」


「そうそう、最近は私たちが住んでる普通の世界の人間が、剣と魔法のファンタジー世界に記憶を持ったまま行く、っていうジャンルが流行ってるんだ。私のオススメはこれ『ニート転生〜異世界行ったら覚醒した〜』だよ!」


 白澤がオススメするライトノベルを本棚から取り出し、手に取る。あらすじはタイトルに書いている通りらしい。何もわからんし、とりあえずオススメされたやつでも見てみるか。


「それじゃ、このニート転生ってやつ何冊か借りてって良いか?次の同好会までに読んで返すわ」


「ほんと!?やった!絶対に感想聞かせてね!」


「おう」


 手で小さくガッツポーズをとる白澤。可愛い。こいつの愛嬌を黒崎にも分けてあげたいものだ。

 俺はニート転生の1から3巻を手に取ると、同好会備え付けの紙袋に詰めた。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





「ちゃんとエロいシーンあるじゃん!てか結構あるじゃん!白澤のむっつりスケベ!」


 早速ニート転生を読んだ俺は、部屋の中で一人白澤への文句を叫んだのであった。

 でも、堅物なのにムッツリ⋯⋯良いね!

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