第15話 こうして一人と一匹は調子に乗った
額に可愛い小さな角が生えたウサ助。
その様を見た剛士はすぐに冒険者カードを取り出した。
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木島剛士
年齢 21
ジョブ テイマー
スキル習得 初級テイム(アクティブスキル) テイムモンスター強化(パッシブスキル)
テイム 角突きウサギ(ウサ助)
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「なるほど」
まず変わった点が一つ。
ウサ助の種族が変化した。
確か角突きウサギは、ダンジョンモンスターの一種だったはず。
十センチの長く鋭い角が特徴で、攻撃手段は三つ。
素早い体当たりと噛み付き、そして角で突くだ。
冒険者協会では、初心者冒険者の中でもあと少しで中級に上げると言われる者達が討伐を推奨されているため、お世辞にも強いとは言えない。
そもそも角が短い。
「ぷぅ?」
どうしたの?
と首を傾げるウサ助。
剛士は満面の笑みを浮かべ、撫で撫でを再開した。
「やったぜウサ助!たぶん進化したんだ!」
「ぷっぷ??」
「ああ。お前はまた一つ、強くなった」
「ぷっぷっぷっ!!!」
強くなったのか聞くウサ助に、剛士は力強く頷き返した。
やったー!やったー!
無邪気なウサ助が、再び喜びの尻ダンスを披露し、場が和む。
「さてと」
「ぷぅ?」
一通り撫でた後、剛士は前を見据えて立ち上がった。この後はきっと、ウサ助の進化した力を見極めるために使われるはずだ。
「ウサ助。強くなったお前を俺に見せてくれ」
「ぷっぷッ!!!」
一先ず、一人と一匹はこの二階層でウサ助の進化した力量を試すようだ。広場を通り抜け、地図に記されている『一本道:グレイラット単体出現地帯』を目指す。
「ギュッ」
「いや、マジであの人優秀過ぎんか?」
広場を抜け、一本道を進むと本当にグレイラットが一匹で居た。
その正確性に政府専属冒険者の優秀さを垣間見た気がする。さすが公務員。隙が無い。恐らくあの人が隙のない真面目な人物だっただけな気がするが、そこはまぁいい。
「パターン1。俺が受け止めて、お前が攻撃だ。新しい力を見せてくれよな、ウサ助」
「ぷぅ!」
「任せるぞ」
分かった!と元気よく返事を返したウサ助の様子に、剛士は親指を立てて応えた。
「……ふぅー」
深く息を吐き、盾を構えた剛士はゆっくりとグレイラットへと近づく。めんどくさがり屋でお調子者の剛士は、ここまで一切油断なくモンスターと対峙していた。
当然だ。
一つのミスが、命を失う結果に繋がりかねない。
そんな場所に剛士は立っているのだから、自分の悪いところを封印するくらい誰だってする。
「ギュギュギュッ」
グレイラットが、近づく剛士に気付いた。
「よしっ、来い!!」
剛士は自分を鼓舞する様に一際大きな声を上げ、しっかりと盾を握り直す。
さぁここからが、戦闘開始だ。
「ギュッ!!」
グレイラットの攻撃はどの個体も酷く単調だ。
そう、まるでプログラムでもされているみたいに前歯を剥き出しに突っ込んでくるのだ。
だからこそ、比較的運動が苦手な剛士でも、まるでリズムゲームでもやっているみたいに、タイミングを合わせるだけで相手を料理することができるのだが。
「せぇぇぇぇいッ!」
「ギュギュギュ????」
浮いたらお終い。好きにしていいよの合図です。
とは、どこかの漫画のセリフだった気がする。確かにその通りだと、剛士は思った。
飛び掛かって来たグレイラットをお馴染みの動作で、カチ挙げ、二転三転と宙を舞わせる。
後は、ウサ助に任せるのみだ。
「ウサ助!ゴー!!」
剛士の気合の入った指令が下った。
「っぷっぷっぷ!!!」
瞬間。
ウサ助は地面を疾駆し、ホップ、ステップ、ジャンプの要領で飛び上がると、額を突き出しながら宙を舞うグレイラットへと突撃する。
「ぷぅーーーッ!」
いっけー!
と言うウサ助の気合に呼応したように、額に在った角が輝き出す。その輝きは段々と光量を増して行き、ついには、先端を尖らせるようにして数十センチの見事な角を作り出した。
「プッ」
貫く。
「ギュェっ」
腹部に大きな穴が開いたグレイラットは、力なき鳴き声を上げ、その姿を黒い霧へと変えた。
ウサ助の額の輝きが徐々に治まり、元の小さくて可愛い角が姿を現す。
剛士の見間違いでなければ、完全に腹部は貫通していた。
なんと言う、恐るべき貫通力。
そして攻撃性能。
これが角突きウサギに進化したウサ助の力なのか。
「ゴクリッ」
剛士は自覚なく生唾を飲み込んでいた。
この力があれば、これからのダンジョン探索は非常に楽になる。そんな予感をひしひしと感させるのだ。
「ぷっぷっぷっぷっ♪」
剛士の傍らには、すでに喜びのダンス踊るウサ助の姿がある。うまうまうま、と思念が伝わり、その口からガリガリっとした音が聞こえて来た。どうやら魔石を摘まみ食いしているらしい。
だが剛士は止めもせず、叱りもしなかった。
「へっへっへっへっへ」
剛士はただ不気味に笑う。
それは、自分の思い描く野望が達成されるであろう目途が立ったからに他ならない。
___このままウサ助を強化し、ドロップアイテムを持ってこさせるように仕込めば……
「俺は働かずして、ザックザックと金を稼げるぞ」
剛士のニヤニヤする笑みは止まらず、傍から見ればどう見ても気持ち悪い人の完成だ。どう言い繕っても剛士の暗黒面がにょきっと顔を出し始めている。
「ぷっぷ?」
「いや、何でもないぞ~」
どうしたの?
っと首を傾げて見上げてくるウサ助に剛士は気持ち悪い笑みを浮かべたまま「ひっひっひ」と声を漏らす。
果たして、本当にこのまま素直に剛士の野望は成就されるのだろうか。
それとも___。
「よーっし!このままガンガンダンジョンを進んで、力の限りウサ助を強化してやる!」
「ぷっぷー!!」
そう言った剛士の呼びかけに、ウサ助は元気よく「任せんしゃい!」と思念で応えた。
もはや連携を深めた彼らに敵はなく、一人と一匹は第二階層を無双しながら、より深くダンジョンへと足を踏み入れて行くのであった。
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