少年の名は……

 聖域に繋がる洞窟にアビィは招き入れた男グループを待っていた。

 しばらくして招き入れた少年と大人の男、3人がやって来た。

 すぐにアビィは3人の心を読む。 

 読み終えるとアビィは顔を少ししかめた……あぁやっぱりそうだったのかと分かったからだ。


「おい!見てないで、こいつを治す水をくれ!」

「あなた方に渡すわけにはいきません。私が導いたのはその少年を助ける為です」

「だから、こうやって連れてきて……」


 アビィはふぅと1回息を吐くと今、自分が見た光景を話す。


「あなた方はその少年を痛みつけ、私の所にやって来た。癒しの水を求めて……例え、今、癒しの水を与えてもその少年を助ける気はないでしょう」

「……なら、力付くで!」


 ジャキンっと音がしてナイフを男が出す。

 そのナイフはアビィに向けられ後少しで刺される所まで来るとアビィは驚いて避けるが少し遅く、頬を切ってしまった。

 まさかナイフまで用意してたなんてアビィは思っても見なかった。

 相手は大人の男の3人。

 水の魔法を使って追い払おうにも動けない少年が一緒に流されてしまう。

 だからと言って結界を閉じると今度は少年を助けることが出来ない。

 どうしようかと考えていたら上から声が聞こえた。


「アビィ!」


 アルテッサだった。

 アルテッサはアビィの頬の傷を見ると、大人の男の方を見て睨み付ける。

 その迫力に、ひっ、と男3人は怯えた表情をした。


「アルテッサ、お願いがあるの。あそこに横たわってる少年をこっちまで連れてきて……そしたらすぐに結界を張るから」

「え?あの少年を?……分かった」


 アルテッサは素早く男3人をすり抜けると横たわってる少年を抱えてアビィの所へと戻る。

 そして素早くアビィは結界を閉じ、男達も結界のために入れなくなり、その姿は見えなくなった。

 

「色々聞きたいけど、まずこの少年をどうするの?」

「癒しの水に入れて……そこまで痛みつけられて虫の息だと直接じゃないと助からない」

「聖域に入れるの!?大丈夫なの?」

「この少年からは一切悪事や悪意は感じない……さぁ早く!」


 アルテッサは言われた通りに素早く少年を癒しの水が流れて貯まってる所へと寝かせる。

 すると痛々しい傷は治っていき、真っ白だった顔色も赤く色づいてきて呼吸もしっかりしてきた。


「間に合ったようね」


 後、数秒遅れていたら少年は死んでいただろう……。

 アビィはほっと胸を撫で下ろした。


「さてさっそくだけど、なんで1人で行ったの!相手はナイフ持ってたし、下手したらアビィ、あなた死んでたよ!?」

「ごめんなさい……早くこの少年を助けたくて。ナイフ持ってたのは私の誤算だったわ……もう絶対1人では行かない」

「約束出来る?」


 ギラギラと本気で怒ってるアルテッサにアビィは頷く。

 すると急にアルテッサはアビィを抱き締めた。

 それはもう力強く骨が軋むじゃないかという位。


「もう本当に1人で行かないでよ。あなたの頬の傷を見て生きた心地しなかったんだから……」

「ごめんなさい……それより、アルテッサ、痛い」

「あ……ごめん」


 すぐ抱き締めていた体を離すアルテッサ。

 そんなアルテッサとアビィのやり取りの声に少年が少しだけ動く。 

 そして瞼が震えて目をあける。


「ん、あれ……俺……」

「目を覚ましたのね」


 パチパチと数回瞬きをし、少年は周りを見る。

 少年は水の音とキラキラと光まるで時が止まったかのような空間にいる感覚になった。


「ここは、どこだ?なんで、俺……ここに」

「ここは水の聖域よ」

「水の聖域ってあのなんでもある水があるところか!?」


 少年は驚いた。

 なぜなら水の聖域は、導かれても水を渡されるだけで、中には入れない。

 今、自分は中にいることはあり得ない事なのだから。


「あなた、大人の男3人に痛みつけられて虫の息だったから中にあるこの癒しの水入らないと死んじゃう所だったから連れてきたのよ」

「俺を助けるために?ありがとうな」

「本当に無垢で純粋な人ね……あなた、名前は?」

「あ、俺は……リックだ」


 リック。

 少年はそう名乗った。

 アビィは再び心を読むがやはりこの少年にはなんの邪念もなかった。

 今まで1番綺麗な心を持った人間だった。

 こんな無垢な人間は初めて見た。


「ねぇ、リック……何があったか聞かせてくれる?」

「え……?」

「いいえ、聞かせて、どうしてあなたは虫の息まで痛め付けられたのか」

「……分かった」

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