貴族




「まぁ!では、そちらの男爵令嬢と婚約されたのですね」

 オリヴィアの言葉にウィッキーが目を丸くする。

「何、を言って、る?」

「婚約者を名前で呼ぶのが当たり前なのでしょう?そちらの男爵令嬢を、ずっと名前で呼ばれてましたわよね」

 単なる嫌味なのだが、ウィッキーは一瞬言葉に詰まる。

 ウィッキーの『許可を出せ』に対して、オリヴィアが頓珍漢な返答をしているのは、勿論わざとだ。


「それにうちの公爵家とそちらの侯爵家の婚約は、正式に破棄されておりますわよ。集めるまでもなく証拠だらけでしたので、そちらの有責ですわ」

 更に笑顔で「ありがとうございます」と告げられて、ウィッキーの顔から血の気が引いた。


「で、でも、そうするとお前……オリヴィの婿がいなくなるだろ!?」

 長年のクセは直らないらしく、ウィッキーは間違った名前を呼ぶ。

「名前を呼・ぶ・な・と言っておりますでしょう。しかも間違って呼ぶなど、二重に不愉快ですわ。次に同じ事をしたら、鞭で打ちます」


「名前を呼んだくらいで鞭打ちなんて、酷いです!横暴です!!」

 ミリアムが涙を溜めながら叫ぶと、オリヴィアはその顔に向かい閉じた扇を向ける。

「そこの男爵令嬢。私は貴女に話す許可をしておりません。不敬罪ですわ」

 部屋の外から衛兵が二人入って来て、ミリアムの腕を掴むと無理矢理立たせた。

 


「が、学園内は平等だろ!貴族の階級は問わないはずだ!」

 ウィッキーが衛兵の手を掴んでミリアムを助けようとしたが、普段から一切鍛えてなどいないウィッキーが衛兵にかなうわけもない。

 軽く振り払われ、コロンと床に転がった。

「私が学園の生徒なら、また違ったかもしれません。ですが部外者なので、単なる公爵家令嬢と男爵家令嬢という立場でしかありませんの」

 転がったウィッキーの横に、オリヴィアがしゃがみ込む。


「ほら、私ってば筆頭公爵家の令嬢で、次期公爵って立場でとても偉いので。それしか取り柄がないでしょう?有効に使いませんとね」

 オリヴィアがとても綺麗に笑った。



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