06-33 神聖決闘 (三)

「待て!今、その旗を放棄すれば引き分けにしてやる」


 何時の間にか、敵旅団長ラト・アジャイトが前に出てきていた。


「いやだと言ったら?」


「俺が貴様を叩き殺す」


「出来ますかね?」


 じっとにらみ合う。

 しばらくして、目を逸らさないままに、ラト・アジャイトが口を開いた。


「貴様、何を考えてこの決闘を引き起こした?」


「決闘を持ちかけたのはそちらですが?」


「我らは、モーランを相手に決闘を仕掛けた、そのつもりだった。

 だが、出てきたのはお前だ。

 人族が牙の民の決闘に出て来る意味は何だ?

 牙なしが牙族の決闘に勝って何を求める?

 牙の民に成る気か?」


「さあ?」


 露骨にすっ惚ける。


「先程、部下から報告があった。

 この一帯では魚の養殖が盛んだと聞いていたが、生簀の中は全て空だと」


「魚が食べたいのなら釣ればいいんじゃないですか?」


「男爵屋敷は燃え尽きた。

 周囲の建物も全て破壊されていた。

 保管されていたはずの物資は全て灰になっている」


「そちらを足止めするために燃やしただけですよ」


「我らをここまで、この湿地帯の奥まで引き込んで何を狙う」


「別に」


 両手を挙げて何もないと示す。


「この湿地帯、出入り口は四か所しかない。

 そのうち二か所は吊り橋だ。

 吊り橋を落とされれば陸側の二か所だけ。

 それを封鎖されたら袋のネズミになる」


 良く分かっていらっしゃる。

 旅団長に任命されるだけはある。


「我らは湿地帯の入り口に馬の大半を置いてきた。

 物資も置いてきた。

 だが、生簀は空で男爵屋敷も燃え尽きた。

 物資どころか食い物もない。

 七千人が釣り人に成れと言うのか?」


「みんなで頑張れば、意外と何とかなるかも知れませんよ」


「胡散臭い話に、とっとと、このくそったれな湿地から抜け出そうとすれば、この決闘騒ぎだ」


「なら、逃げればいいでしょう。

 七千人もいるんです。

 どこかは突破できるでしょう。

 損害はそれなりに出ると思いますけど。

 損害がいやなら、湿地帯を徒歩で抜ければ良い。

 どうせ馬もいないのですから同じです」


「馬も物資も失って、徒歩で逃げ帰れと言うのか?」


「そうですね。

 半分は死ぬでしょうけど、それでも全滅よりはマシでしょう。

 逃げ帰って報告する事です。

 無理に湿地帯に突入して、連隊長と大隊長を戦死させてしまいましたと。

 余計な決闘騒ぎを引き起こして連隊旗も失いましたと。

 寛大なるケイマン族長殿の御慈悲にすがるのが良いでしょうね」


 うん、ちょっと煽り過ぎた。

 あちらの顔が真っ赤だ。

 ラト・アジャイトはオレから目を逸らすと、ようやく意識を取り戻した連隊長に話しかける。


「トロ・アルス、其方は部隊を率いて湿地帯から脱出しろ。

 可能な限り早く出口に向かい、馬を確保するのだ」


「・・・族長は、どうなされるのですか?」


 憔悴した顔で連隊長が聞く。

 ラト・アジャイトは第三旅団長だが、同時にラト族の族長だ。


「俺はこの決闘にけりを付ける。

 こちらから仕掛けた決闘で敗北するなど許されぬ。

 牙なしに負けるなど認められぬ。

 戦いに負けたとしても、少なくとも、ラト族の名誉は守らねばならない」


 トロ・アルスは辺りを見回すと頭(かぶり)を振った。


「ここからでは湿地帯の入り口まで十キロ以上あります。

 部隊単位の移動では、急がせても半日。

 敵の包囲作戦が本当なら、間に合いません」


「間に合わせるのだ。

 ここに留まっていても何もない。

 馬も無ければ矢もつきかけている。

 食い物すらない。

 抑えの部隊を先行させている。

 お前の兄弟を信じろ!

 行け!」


 トロ・アルスは苦渋の顔で立ち上がると、部隊に撤退の号令をかける。

 そして先頭に立って走り出した。

 だが、彼に付き従ったのは僅かな数だった。

 一個大隊に満たないだろう。


「道は細く、多くの部隊が一度に後退するのは不可能です。

 我らは族長が勝利するのを待ちます!」


 一人の中隊長が絶叫すると賛同する声が次々と上がった。

 妙に部下から信奉されてるね、この男。


 ラト・アジャイトはしばし瞠目し、そして答えた。


「分かった、始めるぞ!」


 そして、最後の決闘が始まった。




 ケイマン族第三騎兵旅団長、ラト族族長、ラト・アジャイト。

 でかい男だ。

 身長は一八〇を超えている。

 ライデクラート隊長と同じぐらいだろう。

 体重はライデクラートよりもはるかに上。

 見た目、一〇〇キロは優に超えている。

 勿論、肥満体ではない。

 全身、筋肉の塊。

 外見的威圧感も充分だ、・・・頭の上のタヌキの丸耳以外は。


 このラト族の丸耳は見るたびに、吹き出しそうになるんだよな。

 ショッキングピンクの髪にタヌキの丸耳だよ。

 もっと、トータルコーディネートってもんを考えて欲しい。

 いや、生まれた時からこの耳なんだろうけど。

 丸耳だけど、体格は立派だから、彼ら的には問題ないのだろう、・・・多分。


 オレと比べると、身長は十センチほど高く、体重は倍近い。

 圧倒的な体格差だ。

 これじゃ無差別級だよ。

 まあ、それでも、やるんだけどね。


 横では、マンドゥールンが真っ青な顔で、懸命に『ラト・アジャイト対策』を捲くし立てている。

 彼なりに必死なのだろう。

 後ろでは、ブルグルが「アイツ、何で引き分けを受け入れなかったんだ」とボヤいている。

 多分、オレに聞かせる気は無いのだろう。

 ジャニベグも流石に不安そうで、アシックネールは諦めの顔になっている。

 ハトンはお祈り体勢だ。

 シャールフ殿下は、・・・なんか、・・・なんと言うか、・・・恍惚としている感じなのだが、・・・気にしない事にしよう。




 戦いは、探り合いのような軽いパンチの応酬から始まった。

 ラト・アジャイトは完全なインファイター体型だが、意外と足を使ってくる。

 ジャブも多様で、フリッカージャブみたいのまで使ってくる。

 拳が縦だったり横だったりもするが、どう違うのかオレには良く分からない。

 ただ、多様なのは分かる。

 構えというかファイティングポーズもころころと変える。

 右前になったり左前になったり。

 そう言えば昔ボクシング映画で、途中まで右利きで最後に左利きに変化してとかいう作戦があったような。

 オレみたいな素人にやっても意味が無いと思うのだが。


 戦う事、十五分。

 トロ・アルスよりもスタミナがあるんだなとオレが感心していたら、ラト・アジャイトが距離を取った。


「凄まじいな。

 ボラト・オチル、トロ・アルスと戦ってダメージが無いのは偶然ではないという事か。

 貴様のその反応速度は異常だ。

 この俺が技術の限りを尽くして一発も当てられんとは」


 大きく息をついて続ける。


「スタミナ勝負でも良いが、時間が無い。

 いいか、一発ずつだ。

 先に打たせてやる。

 来い!」


 ガードを下げて仁王立ちになるラト族族長。

 なんだこれ?

 まさか、一発ずつ交互に殴るとか、・・・じゃないよね?

 祈るようにセコンドを見たら、マンドゥールンが『気合と根性だ』とがなり立てている。

「交互に殴り合う」のは対等と認め合った者同士の、究極の戦いなのだとか。


 マジ?

 中学生ヤンキーの喧嘩かよ。

 やんの、コレ?

 恐る恐る、そこそこの威力で相手のボディに一発入れる。


「なかなかの威力だな。

 今度は俺の番だ。

 歯を食いしばれ!」


 顔面に一発喰らいました。

 オレ、顔は避けたのに。

 結構痛いぞ。

 取りあえず、損傷を受けた細胞を排除・分解して隣接する細胞を増殖・分裂させて補修、・・・すると拙いのかな。

 でも、損害、それなりだからな。

 考えた末、深部組織のみ補修して、皮膚表面は補修しないことにした。

 多少、ヒリヒリするが致し方ない。


「ほう、倒れんか。

 身体強化も相当だな。

 オレのを真面に喰らって立っていられた奴は少ない。

 褒めてやる」


「まだ、続けるんですか?」


「当然だ。来い!」


 続けんの、このDQNの我慢比べ?

 今度は相手の顔面に、こちらがやられたのと同程度の威力で殴り返す。

 ラト・アジャイトの顔色が変わる。

 まあ、最初の一発の倍以上の威力だからね。

 それからは、相手が殴って来たのと同じ場所を同じ威力で殴り返すことにした。

 で、延々と続く。

 何時まで続くんだよ!

 ああ、もう、おうちに帰りたい。

 帰ってシリアルバー齧りながらエロゲー、じゃなくて、ロープレでもなくて、・・・そういや、リメイクのエ〇リスってあれじゃ売春婦だよな、付け加えるとテ〇ファも・・・そーゆー設定なのかもしれんけど。


 そんな、どーでもいい事を考えながら殴り合いを続ける。

 現実逃避しないと馬鹿らしくてやってらんない。

 深部組織はその都度修復してるから体全体のダメージは僅かなのだが、修復できない皮膚表面は酷い。

『マナ視』で外から見れば、変色したり、切れたり、爛れたり、結構無残。

 感覚的にもヒリヒリして痒い。

 コレ、何の意味が有るのかね?

 あー、いや、そー言えば、時間稼ぎだった。

 しかし、もうちょっと、生産的というか、紳士的にできないのかな?

 あちらさんは目付きが陶酔している。

 自分に酔ってるよね、この人。

 こんなことしてたら、オレまで同類項。

 殴り合いが好きな戦闘狂に誤解されそうだ。

 本当に、何時まで続くんだろう?




 ゲームが動いたのは、十三発目だった。

 オレの一撃で、ラト・アジャイトがふらついた。

 ふらついたが、何とか踏み留まる。

 続いて、ラト・アジャイトの十三発目。

 今度は、オレがふらついた。

 まあ、観客サービスって奴だ。

 接戦を演じるオレの努力を誰か認めて欲しい。

 それからは、一発殴ってふらついて、を繰り返した。

 見世物としては良いと思う。

 観客は大興奮だから。

 一撃はいる度に、観客がどよめくんだよね。

 だが、時間がかかるのが難点だ。

 やり始めたオレが言うのも何だが。


 そして、二一発目。

 オレが右ストレートを顔面に放つと、顔が沈み込んだ。

 そのまま、カウンター気味に左ストレートが伸びて来る。

 体を捻ってそれを避け、そのまま左アッパーを相手の顎に撃ち抜いた。

 ラト・アジャイトが後方にのけぞり、尻もちをつく。


「そう言えば、今回に限って、『来い』とは言いませんでしたね」


 ラト族の族長を見下ろしながら言葉を繋げる。


「それにしても、セコイ手です。

 これが、ラト族のテクニックという奴ですか?」


 ラト・アジャイトは、唸り声をあげ、両手で何度も地面を叩いてから立ち上がった。


「認めよう!

 貴様は俺が戦った中で最強の男だ。

 だが、我がラト族は牙の民諸部族の中でも名門と言われる一族。

 当家初代はかの黒き皇帝がラト族女に産ませた息子だ!

 黒き皇帝の血を継ぐこの俺が負けるはずがなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」


 何で、絶叫するのかな?

 しかし、黒き皇帝って、ひょっとして最終皇帝の事かな?

 月の民の男性が人族や牙族の女性に子供を産ませることは可能と聞くし。

 しかし、・・・婚外子だよね?

 その出自を誇りにしてるって、・・・ローマ帝国後期のガリアでユリウス・カエサルの子孫を称する奴がたくさんいたって話に近いのかな。


「我が宿敵よ!

 偉大なる戦士よ!

 死ぬ前に覚えておくがいい。

 最後に勝つのは、この俺だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 戦士として最高の栄誉を以て、リング上で貴様を殺してやるうううううううううう!」


 語尾にビブラートが入っている。

 どこかの声優みたいだ。

 族長の雄叫びに配下が同調して絶叫する。

 これまた、ビブラート。

 なんで、一々、芝居がかってるんだろう?

 そもそも、オレ、何時、『宿敵』になったんだろう?

 確か、初対面だよね?

 いろいろと、付き合ってらんない・・・。


 その時、天空に大きな火の玉が輝いた。

 続いて、轟音が響き渡る。

 バフラヴィーの放った合図だ。

 どうやら、終わりにしても良いらしい。

 最後は、・・・派手に行こうか。




 ラト・アジャイトは、絶叫して、滅茶苦茶にラッシュしてきた。

 その動きを左フック一発で止める。

 続いて、体ごとぶつかるようにボディに一発。

 そのまま、ロープに敵を追い詰める。

 その後は、左右からフックを連打した。

 頭で八の字というか無限の文字を書きながら、撃ち続ける。

 確か、デンプシーロールという奴だ。

 マンガとアニメの知識だけど。

 相手の背後にはロープがあり、左右から撃たれ続けるから、後ろにも左右にも倒れることはできない。


 連打しながら考えた。

 これ、どうやって終わらせるべきか?

 オレ、人を殴り殺す趣味は無い。

 だが、この人、生き残らせていいんだろうか?

 生き残らせて捕虜にしても、自殺しちゃうんじゃなかろうか?

 負けるのなら、このまま死にたいと思ってるんじゃなかろうか?

 故郷に帰っても、責任問題で自死と聞くし。

 オレを殺してやるとか言ってたけど、多分、あれ、自分を殺してくれってことだよね?

 流石の脳筋でも自分が劣勢だって事は分かってたはずだし。

 まあ、・・・・・・・・・・・・・・・・仕方が無いか。


 最後に大きくアッパーを放つ。

 ラト・アジャイトの体は大きく浮かび上がり、ロープを越えて、その向こう側に落ちた。

 周囲が静寂に染まり、凍り付く。

 敵のセコンドが、そして、モーラン・マンドゥールンが駆け寄る。

 首筋に手を当てたセコンドが悲しげな顔で首を振る。


「勝った。勝っちまった。ラト・アジャイトに勝ったんだ!」


 マンドゥールンが呆然とした声で呟く。

 周囲が完全に無音になった。


 背後の湿地で魚が跳ねる音がする。

 なまず、だろうか?

 なまずって跳ねるのか?

 まあ、どーでもいいけど。

 オレは敵陣営に向き直ると、拡声魔法を起動した。


「ラト族の兵士に告ぐ。

 お前たちの族長、ラト・アジャイトは死んだ。

 とっとと国へ帰れ。

 さもなくば降伏しろ、命だけは助けてやる!」




 オレの言葉に敵陣営は大混乱になった。

 大混乱のまま、兵士が逃げていく。

 退却と言うよりは敗走という感じ。

 ラト・アジャイトの死体はマンドゥールンたちが確保したようだ。


 そして、変な格好をした兵士が残された。

 全員、仰向けになって、M字開脚をしている。

 何故か、服を破いて陰部を露出させた者までいる。

 良く分からないが、半分は女性のようだ。


「兄貴、兄貴と呼ばせてくれぇぇぇぇぇぇぇ!」


 マンドゥールンが抱き付いてきた。

 続いて、ハトン、そして、ジャニベグ、その他、と続く。


「いきなり、兄貴ってなんだよ」


「いいじゃないか、もう、兄貴は俺の師匠なんだから」


 誰が誰の師匠だって?


「それより、あれは何だ?」


 M字開脚の集団を指さすと、マンドゥールンは惚れ惚れとした顔になった。


「あれは、牙族女性の降伏の作法だ。

 男性に降伏して、その者の所有物になるという宣言だよ」


「いや、ちょっと待て。あれ、全員か?男もいるが?」


「いや、明らかに全員、女性だろう。

 見るからに女だ。

 そもそも女でなければあんなことはしない」


「ちょっと待て、あの、ボブ・〇ップも女だって言うのか!」


「そのボブ・〇ップというのは分からんが、見るからに女ばかりだと思うが」


 ポンポコタヌキ耳でショッキングピンクの髪をしたボブ・〇ップが女だと!

 いや、・・・確かに、陰部に男性器は付いていない、・・・ように見えるが、・・・。

 ショッキングピンクのヒャッハーなボブ・〇ップがM字開脚しながら、ねっとりとした視線でオレを見つめている。

 その、周りも、似たり寄ったりの、ボブ・〇ップ。

 ボブ・〇ップが集団M字開脚、集団陰部露出。

 冗談とか入る余地は欠片も無い。

 全身の毛穴から汗が噴き出してくる。

 ラト・アジャイトの百万倍恐ろしい。


「いや、・・・しかし、・・・百人以上いるぞ。おかしいだろう」


「うん、二百人は堅いな。

 こんな話、聞いた事も無ければ見たことも無い。

 兄貴はそれだけのことをやったんだよ。

 あの、ラト・アジャイトを公式の決闘で殴り殺したんだ」


 マンドゥールンは何故か涙ぐんでいる。


「なんて、感動的な光景なんだ!

 俺は今日、この目で『歴史』を見たんだな。

 この幸運をマリセアの精霊に感謝する!」


 何言い出してんだ、コイツ。

 ヒャッハーなボブ・〇ップの集団M字開脚が感動的?


「ふむ、二百人、いや、三百人以上かもしれぬな。

 凄まじい戦果だ。

 キョウスケ、やりたい放題だぞ!」


 反対側では、ジャニベグが面白そうな顔で好き勝手な事を言っている。


「いや、捕虜というだけで、自由にしていいという話ではないだろ」


「いや、あれは、軍の捕虜になった訳ではなく、明らかに兄貴個人に対しての降伏の意志表示だ。

 自由にしていい、というよりも、自由にして欲しいという事だ」


「自由にして欲しいって、・・・」


「見たところ、かなり上位の貴族と思わしき女性も多いですね」


 ニヤニヤしながら近づいてきたのはアシックネールである。


「キョウスケ、良かったじゃないですか。一財産ですよ」


「一財産って、人身売買する気かよ!」


「まあ、これだけ多いと、最終的には売るしかないだろうな」


 マンドゥールンまで、・・・地球だったら、進歩系文化人に袋叩きにされるぞ。


「でも、売る前に一回はヤんなきゃいけないのよね?」


 アシックネールがとんでもない事を言い出す。

 一回、ヤルって、・・・二〇〇、・・・いや、三〇〇人以上と?

 牙族に求婚されるかも、とは思っていたが、普通は『味方の牙族』だろう。

 ラト族の仇敵に認定されるかも、とは思ってたけど、・・・おかしくね?

 オレ、今、君たちの族長を殺したんだよ?


「このような場合、普通は、降伏された側が自分の女にする。

 正夫人か側夫人にするのだな。

 何らかの事情でそうできない場合や、気に入らない場合でも、妊娠はさせてやるのが礼儀だ。

 何回かして、それでも妊娠しない場合は致し方ないが」


 マンドゥールン君、君、何を言ってるのかな?

 妊娠、・・・って、なに?

 誰が、誰を妊娠させるの?


「ただ、この数だからな。

 どうすれば良いのかわからん。

 時間の問題もある。

 女も、何時までも待たせておくわけにも行かないだろうし」


「これ程、堂々と行われた神聖決闘など聞いたことがありません。

 それの勝者となれば、勇者の中の勇者。

 私が捕虜の立場でしたら、二年でも三年でも妊娠させてくれるのを待つと思います」


 マンドゥールンの女性側近、琴〇〇似が、何故か頬を赤らめてうっとりとした目付きで意見する。


「既に欲情している者が多いですね。準備を始めている人もいますし」


 見れば、頬を赤らめて、陰部丸出しで、自分で慰め始めている奴がいる。

 それも一人や二人ではない。

 ボブ・〇ップ集団の公開M字開脚自慰。

 アシックネールの横ではスルターグナが無言でスケッチブックに何かを必死に描き込んでいる。

 何を描いているのか怖くて見られない。


「みんな、今すぐにでも妊娠させてほしいのだろう」


 マンドゥールンの言葉に、彼の取り巻きの牙族が一斉に頷く。

 なんで、妊娠?

 どーして、妊娠に拘るの?


「いや、妊娠させるって、この人数、物理的に無理だから。

 仮に待ってくれるとしても、その間の待遇とか食費とかもあるんだぞ」


「確かに現実問題として二年三年は有り得ないか。

 最終的には売るしかないとは思うが、・・・そもそも、前例が、・・・」


 オレの言葉にマンドゥールンが唸る。


「一個中隊以上の衣食住となると半端な額ではありませんしね」


 アシックネールも赤毛を捻りながら唸っている。


「だが、上位貴族の女性もいる。

 敵の精鋭一個中隊をまるまる部下にできるという話でもある。

 その意味では、兄貴には是非とも頑張って欲しい。

 一人でも多く妊娠させて貰えると有難い」


 えーと、すいません。

 全く理解できていないのですが、オレが妊娠させれば部下にできるって話でしょうか?


「つまり、モーラン家としては、あの集団が欲しいという事ですね?」


「まあ、それは、そうだ。

 戦士としても、軍人としても、女としても、一流の女が多数いる」


 アシックネールの問いにマンドゥールンが答える。

 一流って、そりゃ確かにみんな格闘技リングに上がれそうな体型だけど。


「えーと、マンドゥールンが半分ぐらい引き受けて妊娠させてくれてもいいんだが、・・・」


「いや、そんな事はできん。人倫に反する」


 何が人倫?

 人倫ってなあに?

 婚外子を量産することが人倫?


「うーむ、私では判断がつかん。取りあえず父に相談しよう」


 ラト族女捕虜集団は、モーラン軍閥が預かってくれることになった。

 それで、話は終わった、終わらせた、・・・とりあえず。




 えーと、・・・・・・やっちゃった?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る