06-18 僕たちはどこへ向かっているのでしょう? (二)
スルターグナはまだブツブツと妄想を垂れ流していたが、医療班の仕事を言いつけて、追っ払った。
仕事はキチンとするんだよな。
念のために言うと、オレは大隊医療班の仕事も継続している。
この数日は、各種薬剤を大量に製造していた。
オレとタイジが作った薬を兵士に分配するのがスルターグナとダナシリである。
二人も自身で薬を作れるが、それよりも分配業務が主体だ。
作っている薬剤だが、まずは鎮痛薬。
大隊は強行軍を継続中だから、筋肉痛と関節痛の患者が急増しているのだ。
鎮痛薬はロキソプロフェン系が多いが、連用で胃腸症状を訴える者も増加しており、最近はアセトアミノフェン系も増やしている。
胃薬系、粘膜防御剤とH2ブロッカーも作る羽目に。
あー、良く分からんけど、H2の方がPPIより簡単に大量に作れるのです。
擦り傷、切り傷などの外傷も少なくないため、抗生剤軟膏も良く出る。
そして、最も生産量が多い、多くなってしまったのが、セックス関係。
先に書いたが、敵大隊を潰した時に多くの男性捕虜が得られた。
その男性捕虜を、独身女性下士官の欲求解消に宛がっていた。
この作戦は大変うまく行き、彼女たちの欲求不満は大幅に改善。
オレはギラついた目付きに囲まれる事がなくなり、大変満足。
ところが、である。
三日と経たないうちに、彼女たちから強い要望、というか不満の訴えが出た。
『薬が無い』というのである。
独身女性下士官は戦場で男性を獲得した場合に備えて、『男性用精力剤』を持っている。
『男性用精力剤』、男性を強制的に興奮させて、性交を可能にしてしまう薬剤で、主として座薬の形で売られている。
かなり高価らしいが、速効性もあり、保存も効くので、常にいくつか持っているのが、独身女性下士官の『嗜み』だという。
どーゆー嗜みなんだと、突っ込みたいが、いや、突っ込ませるための薬剤らしいが、問題は、これがあっという間に無くなってしまったこと、らしい。
そりゃ、まあ、あのがっつき具合からすればさもありなん。
そして、困ったことに薬がなくなったら、男性捕虜が『使えなく』なった。
まあね、出戻り第一夫人君でも『ヤリたくない』と言い切る『生物学的には女性』の皆さんである。
牙族捕虜でも普通の男性ならば、そうそう勃たないだろう。
この薬、ある程度の街なら、それなりに売っているらしいが、現在の大隊は放浪中。
街には立ち寄らない。
であるから、補充の目途も立たない。
聞いた当初は、へーと思っただけだった。
ところが、薬がないなら中隊長が相手をとか言われて、・・・そうなると論議の余地はない。
慌てて、『バイ〇グラ』を作製して渡した。
『バイ〇グラ』、そこそこ好評だったが、・・・残念ながら彼女たちの不満は完全には解消しなかった。
『バイ〇グラ』は男性器を固くするが、精液量を増やすわけではない。
困ったことに、独身女性たちは、『ヤル』だけでなく『中出し』を求めている。
こちらの男性の精液にはマナが含まれ、女性の魔力を回復させる力がある。
魔力が回復すると色々と体調も良くなるのがこちらの住人。
だけどさ、地球でも、『精液量増加』の薬は無かったからね。
そんな薬をと言われても無い物は無い、・・・とか、言ってる場合じゃなかった。
無いなら中隊長殿に、なのだから、仕方が無いから慌てて作ることに。
こちらの魔法は合目的に使用できるから、ひょっとして作れるんじゃね、とは思ったが、・・・必要は発明の母というか、ワイルド過ぎる生物学的女性軍団の圧力が怖かったというか、ともかくできてしまったのである。
出来上がった薬は、体内のマナを陰部に集め、睾丸からのテストステロン分泌を増加させると共に、その消費を陰部に集中させる作用が有る。
結果として精液産生量が増加する。
副作用として、マナが陰部に集中するため、魔導士の場合、魔法に使用できる魔力量が若干低下する。
オレがマナ視で見た感じでは十パーセント程度の低下で、使用した人間もそんな感じの事を言っていた。
また、テストステロン、つまり男性ホルモンが陰部に集中するので、体の他の部分の男性ホルモン濃度が低下する。
逆に陰部には増加する。
理論的には陰部以外の体が女性化し、陰部は逆に男性器が肥大する傾向になると思われる。
だが、具体的にどの程度なのかは測定しようが無いし、現実問題としては二次性徴が終了している成人男性への使用では、余程連用でもしない限り、影響はほぼゼロだろう。
ちなみに、単純にテストステロンを増加させるだけの薬にしなかったのは、副作用防止のためだ。
男性ホルモンの増加は色々と弊害があったはず。
少ないのも多いのも問題なのだ。
男性ホルモンの増加で凶暴性が増すとか増さないとかの話もあった。
また、体全体のテストステロンを増加させるとなるとマナの消費量も飛躍的に増加する。
陰部だけホルモン濃度を増加させるのなら副作用もマナ消費も限定できる。
そんなことで、出来上がった薬、『ハイアグラ』と名付けた。
バイ〇グラと同じ作用も有している上に、性的欲求が高まるため精神的にも少々ハイになる。
そんなことで『ハイアグラ』。
点々が無いだけだが、作用は随分違う。
で、新薬だから、まずは臨床実験とか思っていたら、・・・いきなり大量配備の大量使用になってしまった。
滅茶苦茶好評だったのだ。
最初の使用対象が捕虜というのもある。
変なことになっても捕虜なら構わんだろう、というのがオレ以外の意見。
この世界、捕虜に人権なんてない。
うちの中隊の独身女性下士官によると、男性捕虜の一日の射精量は大体二倍かそれ以上になるという。
効果時間は六~八時間程度だから、その間の増加量は三倍ぐらいと思われる。
出されたマナの量も中々だと。
バイ〇グラ同様に男性器を勃起させる効果もある。
女性下士官たちからは、兎に角たくさん作って欲しい、褒章の一部として分け与えてほしい、いや褒章を少なくしても薬が欲しい、との意見が殺到。
更に、うちの女性陣から一斉に作り方を教えろとの要求が。
気が付いたら、大隊幹部会議で報告する羽目に。
「この薬、ある意味、戦略物資ですね」
アシックネールが説明する所では、従来の男性用精力剤は所謂『絞りつくす』系の薬剤であり、効果時間内の精液量は増加するものの、一日、あるいは三日単位での精液量はむしろ低下するという。
体力を大幅に消耗させるためだ。
一方、ハイアグラはそれが無い。
「これ、長期戦だとかなりの効果がありますよ」
実際に内服して試してみたレニアーガーによると、長期戦時に女性魔導士にマナ補給をする助けになるという。
「自分の場合、薬を使うと、一日のファイアーボールの数が三発ぐらい低下します。
ですが相手をできる女性の数が合計五人ぐらいに、つまり二人は増えます。
二人の正魔導士が完全回復すれば、ファイアーボールが二〇発は増える。
差し引き一七発の増加です」
「薬一つで十七発はでかいな」
バフラヴィーが真剣な顔で頷く。
えーと、戦ってる最中にヤルんでしょうか?
そーいや、自護院の教科書にそんな記述があったような、・・・飛ばし読みしてたからほとんど覚えていないが、戦場での集中の仕方とか、相性の良い女性魔導士の確保とか、ヤル場所の注意とか、色々とあったような気もする。
読んだときは、マジかと思ってたんだが、・・・。
「もっと性能が上がれば、男性魔導士はマナ供給と指揮に特化できます。
自分としてはその方が効率的と思いますが」
レニアーガー君、君、何を言ってるのかな?
戦場でヤリながら指揮を出すって、つまり、中隊本部のど真ん中でヤルってこと?
隣のアシックネールに、こっそりと聞いたら当然だと言われてしまった。
長期戦になると普通の光景らしい。
オレ、・・・長期戦無理かもしんない。
オレはハイアグラの作製方法を皆に伝授することとなった。
とにかく、たくさん作れ、との命令である。
だが、いざ教えてみれば、この薬、意外と作るのが大変なことが分かった。
必要魔力総量はさして多くは無いのだが、瞬間魔力量が多いらしい。
オレ自身だと誤差の範囲だが、普通の魔導士では結構ネックだとか。
スルターグナは、作れることは作れたが、三回分作ったらヒーヒーになってしまった。
ジャニベグとアシックネールは普通に作れた。
バフラヴィーの所から派遣されたヌーファリーンも比較的スムーズ。
ゲレト・タイジはあっさり。
ダナシリもまあ、それなりに。
意外にもハトンは簡単に作ってしまい、その異母妹サムルもできてしまった。
ハトンは勿論、サムルもスルターグナより魔力量が上になっているらしい。
スルターグナが地味に落ち込んでいた。
「この不満は、創作活動で発散するしかないですね!」
いや、だから、なんで、そっちの方向に行く?
スルターグナ君、君、何でこう急速に腐ったのかね?
予想外に大きな話になったが、うちの中隊への『ハイアグラ』の供給はそのまま許可された。
効果の実測と、副作用のあぶり出し、有体に言えば人体実験のためである。
中隊独身女性下士官たちは歓喜していたから、まあ、良いのだろう。
それで、中隊が、オレのハーレム環境が平和なら、まあ、いいのだろう。
大隊が大変な時だから、内部でガタついている暇はない。
敵が騎兵一個旅団と判明してから、大隊は南に向かった。
途中、クリアワイン=ミッドストンの街道に出たが、無視して突っ切って南に進んでいる。
トゥーリッジにもクリアワインにもミッドストンにも向かえないのだから更に南に進むしかない。
取りあえずの行き先は、クテンかタルフォート。
ゴルダナ地区は帝国の中枢部だから、人口は多い。
三〇〇〇人程度の町はたくさんある。
だが、城壁を持つ町は少ない。
まともな城壁に訓練された兵士を持つ町となると、極めて少ない。
であるから、クテンかタルフォートが目標となる。
進軍は今のところは順調だ。
敵は案の定、クリアワインの手前とミッドストンの手前で待ち構えていたようで、当てが外れて一時的にはこちらを見失ったらしい。
ただ、その後は素早く態勢を立て直し、騎兵旅団全軍でこちらを追いかけている、らしい。
ミッドストンとクリアワイン自体は帝国の手に保たれている。
敵は騎兵旅団であり、城壁を持つ町を落とすのは最初から諦めているようだ。
ただ、町の守備隊は専守防衛に努めているようで、騎兵旅団と戦う気はない、らしい。
敵は、大半の町や村も無視していて、ほぼ全ての力を我が大隊に振り向けている、らしい。
ちなみに、ラト族騎兵が略奪もせずに兵站をどうやって維持しているのかは、謎である。
なんか、推定ばかりだが、ここら辺の情報は全て敵からの聞き取りである。
大隊の周囲には敵の偵察隊が随時、出没している。
これを適当に狩って、情報を引き出しているわけだ。
我が大隊の周囲には騎兵中隊が分散配置されている。
彼らが適当な敵偵察隊、半個、あるいは一個分隊規模を発見すると、狩猟部隊に出動命令が下される。
狩猟部隊は、まあ、基本オレだ。
オレとハトンの他は、呼ばれた時点で周りにいた人間を数名集め、合計五~六名で突撃・奇襲。
人数が少なめなのは、多いと敵が逃げてしまうためだ。
敵と同数かそれより少なければ向こうは簡単には逃げない。
そこを遠隔から地中爆発型ファイアーボールで奇襲する。
オレが直ぐに出られない時にはバフラヴィーが向かう。
敵が多めの時はゲレト・タイジを連れて行く。
バフラヴィーとタイジと三人で出たことも何回かあった。
魔法で敵を制圧したら隊長と馬だけ確保して引き上げる。
隊長を捕虜とするのは情報を引き出すためで、馬の確保は味方の機動力向上のためだ。
残りの兵士は両足を叩き折って放置する。
これは、正直に言えばオレがむやみに人を殺したくないためだ。
だが、正直にそれを言えば馬鹿呼ばわりされるので、『兵士として役に立たない状態にして放置するのが敵は一番困る』という論理を展開している。
まあ、あながち嘘ではない。
ラト族騎兵旅団には、大した医者はいないから、両足骨折の兵士は始末に困る筈だ。
生かして回収すれば世話をする人間が必要になるし、その場で『始末』すれば、敵軍の士気にかなりの悪影響だろう。
何日かこんな感じで『狩り』を続けていたら、敵は分隊偵察を止めてしまった。
半個分隊、あるいは一個分隊の偵察隊が来なくなり、二個分隊規模も消える。
最低でも一個小隊、五〇人程度の偵察隊になったのだ。
こうなると、五名程度の強襲では荷が重い。
なので、バフラヴィー、タイジ、その他十名程度での強襲に切り替えた。
この頃になると、こちらの強襲技術も向上していた。
より遠距離での『地中爆発型ファイアーボール』が可能となっていたのだ。
小型の大砲と言うか、内径一二・七ミリ、長さ一メートル弱の鉄の筒に予め成型した『弾丸』を込めて発射する。
弾丸の中には炸薬代わりの超小型高圧縮型ファイアーボールが入っていて、これをファイアーボールの爆発力で撃ち出す。
筒の内腔にライフルを切ったことで弾道が安定し、より長距離の狙撃が可能となった。
五〇〇メートルぐらいなら軽い。
ただ、超小型高圧縮ファイアーボールが難しく、更にそれをもう一つのファイアーボールで撃ち出す、つまり同時に二つのファイアーボールを操るので、更に技量が必要となる。
現在の所、可能なのは、オレとバフラヴィー、タイジの三人。
発射速度は遅いが、ジャニベグがかろうじて、という所。
アシックネールもスタンバトアの姉御も現状では難しい。
ちなみに、シャールフ殿下がすんごく意欲を示しているが、周囲から止められていた。
なんか、出来そうな雰囲気があるのが恐ろしい。
暇が有ればジャニベグ、アシックネールと一緒に練習している。
和気あいあいとしているのが、ビミョーに頭痛い。
オレとバフラヴィー、タイジの三人で距離五〇〇からこれを数発撃ちこむと、一個小隊は何とかなる。
勿論、大半は逃げてしまうのだが、何人かは落馬して取り残される。
男を狙ってぶっ放せば、情報の取れる捕虜が確保できるわけだ。
そんなことで、また数日頑張っていたら、敵の偵察隊は中隊規模になってしまった。
流石に強襲は無理で、捕虜が取れなくなってしまったが、・・・まあ、狙い通りと言うか、困った話ではない。
情報だが、勿論、敵からだけでなく、味方と言うか、経路上の町や村からも集めている。
ただ、情報伝達が遅い世界だから、碌な情報が無い。
それでも、ある日、聞き捨てならない情報が入って来た。
「第二軍が敗北したというのか?」
「はい、少なくとも我らはそのように聞いております」
ファラディーバーの詰問に答えたのはタルフォート系の騎士だ。
騎士爵は最下級の貴族だが、タルフォート伯爵の配下の男爵のそのまた配下として第二軍に参加していたという。
彼によると、第二軍は九月末からゴルダナ河北岸でケイマン族主力と対峙していたが十月三日に奇襲を受け、敗走したという。
「主力はゴルダナ河南岸に退避したようです。
我らは退却が遅れ、南岸に戻ることが出来ず、散り散りになり、装備の多くを失いました。
止む無く、領地に戻ろうとここまで移動してきた次第です」
決戦地点はゴルダナ河と中ゴルダナ川が合流する辺りという。
地図を見ると、・・・結構近い。
一〇〇キロ以上離れてはいるのだが、思っていたよりもずっと近い。
「待って、何が、どーなってんのよ。
ケイマン族はゴルデッジを囲んでいて、第二軍もそこに向かっていたのでしょう?」
眉間にしわを寄せてスタンバトアの姉御が叫ぶ。
残念ながら、聞かれている方も当惑していた。
彼がいう所をまとめると、・・・まとめても良く分かんない。
彼自身は諸侯軍の歩兵小隊長に過ぎないので、確かな情報は極わずかなのだ。
大半が伝聞になってしまう。
第二軍は当初、予定通りにクテンを出発し、ゴルダナ河南岸の街道をゴルデッジに向けて進軍していたという。
ところが、クテンを出発して数日、ケイマン族とレトコウ伯爵軍が交戦中との情報が入る。
更に、ゴルデッジ市は既に陥落しているとの情報も入ったという。
本当なら、極めて大きな話だ。
騎士は上官に確認したが、上官も真偽のほどは分からなかったという。
そして、第二軍はゴルダナ河北岸に渡ることになった。
ゴルダナ河は一級の大河で有り、渡河点は少ない。
渡河点の大半も船による物であり、橋は少ない。
特に馬車が通れるような橋は極わずかだ。
だが、第二軍はゴルダナ河を渡河した。
実はこれ、ナーディル師団の特徴である。
ナーディル師団は言ってみればカゲシンの海軍だ。
海軍と言っても、接舷による白兵戦が主体の海軍だから、兵員は普通にいる。
所有する『ダック船』は一〇〇〇隻を超え、師団の全兵士が船で移動可能という。
勿論、第二軍は総数五万を超える大軍。
ナーディル師団だけではないから、大半は陸上を歩いている。
だが、第二軍の進撃路は河と海に沿って設定され、陸海で共同して進撃できるようになっていた。
そんなことで、第二軍はナーディル師団の船を利用してゴルダナ河を渡河した。
ケイマン族はゴルダナ河北岸のレトコウ領を席巻し、レトコウ伯爵軍はレトコウ市に籠って、ゴルダナ河南岸への進出を防いでいたという。
そういう情報だった。
第二軍はゴルダナ河の北岸に渡り、ケイマン族の後方に進出するという作戦だったらしい。
ところが、ケイマン族の反応が早かった。
ケイマン族はレトコウ市に見切りをつけ、レトコウ市の橋を破壊して東進。
斯くして、第二軍は単独でケイマン族主力と対峙する形になってしまった。
ケイマン族は十万を超えていた。
第二軍の倍以上である。
しかし、賢明にも、第二軍はゴルダナ河と中ゴルダナ川を利用して防衛線を構築。
睨み合いに持ち込むことに成功した。
「流石は、歴戦の方々が揃っていると思いました」
中年の騎士は沈痛な面持ちで話した。
「ナーディル師団がある限り水上での我が軍の優位は揺らぎません。
敵はろくに船など持っていないのですから、こちらの防衛線を破るのは困難。
そして、持久戦に持ち込めば我が軍が圧倒的に有利です。
敵は十万人を養わねばなりません。
一方、我が軍は船でクテンから補給を受けられます」
そのうち、第一軍やレトコウ伯爵軍が敵後方に進出すれば、敵は困ったことになると。
「ですが、あの夜、突然、我が軍は崩壊しました。
奇襲を受けたのです」
「大軍が対峙して奇襲も何も無かろう。
一体何が起こったのだ?」
ファラディーバーの問いに中年の騎士は脂汗を滴らせた。
「分かりません。
何が起こったのか、何が起こらなかったのか、とにかく、気づいた時には大混乱でした」
それでも第二軍の大半はナーディル師団の船でゴルダナ河南岸に退避したという。
だが、北部に布陣していた部隊はゴルダナ河にたどり着けなかった。
バラバラに逃げるしか、手が無かったらしい。
常識的には策源地であるクテンに向かうべきだが、南に向かうのは敵の追撃が厳しいと考え、東に逃げたという。
「上がどうなったのか良く分かりませんが、自分の直属の中隊長が戦死したのは間違いありません。
それ以上は、良く分かりませんが、・・・」
中年騎士は、汗をぬぐいながら幾つかの名前を吐き出す。
予定外の場所で予定外の戦いが行われたこと自体は戦争ではよくある事だが、彼の言う戦死情報には流石にびっくりした。
「シャーヤフヤー殿下に、クテンゲカイ侯爵、ナーディル・アッバースリー師団長だと!
第二軍首脳が全滅したというのか?」
驚愕の表情でバフラヴィーが呻く。
「あくまでも噂でございます」
退却中に他の士官から聞いたという。
戦場では噂は付き物だが、いささか酷過ぎる噂である。
中年騎士は、俄かには信じられない話だが、逆にそれだから、信憑性が有るように思ったらしい。
それぐらいの事が無ければ、突然の奇襲と敗走など有り得ないと。
「噂の真偽はともかく、趣旨は分かった。
それで、敵はどうなったのだ?」
「残念ながら、分かりません」
命からがら逃げて来ただけだからな。
ただ、あまり大規模な追撃は行ってないように感じられたという。
敗走して三日目には、敵の気配が無くなったらしい。
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