06-04 ピンポン、ピンポン、ピンポーン! (二)

「うーん、キョウちゃんはぁ、どーして私にたくさん魔力があると思ったのかなぁ?」


「漏れ出ているマナは極少量ですが、その質が高いのですよ。

 一般の魔導士のマナがアルコール五パーセントのエールだとしたら、あなたは、四〇パーセントの蒸留酒だ。

 体外に出て一瞬で希釈されるから、注意深く見ないと分からない。

 だが、良く見れば違いは明白です。

 もう一つ、さっき、体に触れた時に感じたのですが、あなたの体は極めてマナの反応性が良い。

 魔力量が多い人ほどマナの反応性も良い傾向にありますからね」


 この人も恐らく同じ手段でオレの魔力量を推しはかった筈だ。

 彼女がオレのほっぺたを引っ張ったのはタマタマではない。


「それはー、正しいんだけどー、・・・うん、やっぱりそうなのねー」


 一人でウンウンと頷く、ピンクのおねーさん。


「キョウちゃんさあ、クロスハウゼンのカラカーニーちゃんとシノちゃん、どっちの魔力が多いと思う?」


 カラカーニーちゃんって、・・・ああ、考えてみれば肛門メイス閣下の母親が彼女の異母姉妹になるわけか。

 年齢的に考えて、このピンクの自称十七歳は肛門メイス閣下の母親の姉、伯母になるのだろう。


「多分、キョウちゃんは、カラカーニーちゃんよりもシノちゃんの魔力が多く見えてるんじゃないのかなぁ?

 でも、それ、間違いだからねー。

 シノちゃんの方が多かったら、カゲシンに入る許可なんて下りないよー。

 シノちゃんが暴れてもー、カラカーニーちゃんが何とかできるって前提だからねー」


 う、滅茶苦茶、当たっている。

 オレはシノさんの方が多いと感じていたのだ。


「キョウちゃんはねー、魔力探知が凄いんだけどぉ、マナの質に敏感過ぎるんだよー。

 シノちゃんやシマちゃんのマナの質が高いから、全体魔力量も高いと勘違いしちゃってるんだと思う」


「マナの質を過大評価する傾向にあるってことですか?」


「対象者の魔導士としての素質、将来性、つまり潜在魔力量を類推できるって話だから、すんごい能力なんだけどねー。

 潜在魔力量が高いからって、現在の魔力量が高い訳じゃないのー。

 キョウちゃん、結構、これで、失敗してるんじゃないかなぁ?」


「失敗って、・・・」


「魔力量が多い人をスルーしちゃったりー、逆に現在はあんまし強くない人を強いと見做しちゃったりー」


「そんなことは、・・・」


 実は、思い当たる節がある。

 ベーグム・レザーワーリである。

 この、ベーグム家の次男坊、オレには将来有望な逸材と見えた。

 ところが、周囲はそうではなかった。

 レザーワーリはかろうじて上級魔導士に合格した十五歳。

 同時に試験を受けたクロイトノット・アシックネールはギリギリで守護魔導士に不合格で、上級に留まった十五歳。

 比較すればアシックネールが断然上、というのが平均的な評価らしい。

 ところが、オレにはレザーワーリの方が将来有望に見えた。

 であるから、個人的に指導しても良いかと考えたのだ。

 ジャニベグやアシックネールからは、単なる物好きと言われている。


「それ、改善の方法はありますか?」


「あー、やっぱり、自覚があるんだねぇ」


 ピンクのお姉さんがとっても嬉しそうな顔で、ニコニコうんうんしている。

 もう一度デコピンしてやろうかと思ったが、何とか耐えた。


「ねえねえ、教えて欲しいの?

 教えて欲しいの?」


「・・・できれば、・・・」


「じゃあ、リョウコお姉さん、よろしくお願いしますって言って」


「・・・・・・よろしく、お願いいたします」


「可愛さが足りない。

 年下なんだから、もっとあどけない表情で言ってくれないと」


 デコピン二発目を喰らわせてしまった。


「ひどーい、ひどーい。おーぼーよー」


 両手を口元に当てて、ウルウルした瞳で訴える自称十七歳。


「時間の無駄だと思うのですが」


 努めて冷静に話しかける。


「もうちょっと、付き合ってくれてもいいのにー。ぷんぷん」


 ふてくされる姿が、更にウザい。


「あー、でも、大した方法は無いんだけどね。

 マナの質だけでなくて総量を見るように自覚していれば、そのうち見分けられると思うよー。

 キョウちゃんはそれだけの素質があるんだからー」


 あー、聞いて損した、・・・訳でもないか。

 自覚してって言うのは結構大事かもしれない。




「それでー、キョウちゃんの結婚話に戻るんだけどー」


「引っ張りますね」


「そりゃ、引っ張るわよ。かわいい、妹の結婚相手だもん」


「漏れ聞く所では、シノさんには自薦他薦の結婚相手が多数いると聞きますが」


「うん、滅茶苦茶たくさん。

 一族内でもたくさんだしぃー、フロンクハイトの教皇から直接打診までされてるしぃー、セリガーからも付け狙われてるのぉー。

 なんせ、素質は私以上だもん。

 大人気の売れっ子だよー」


「シノさんは強制的に結婚させられそうになってカゲシンに逃げて来たって言ってましたが」


「実はぁ、今のセンフルールの族長は、(仮)かっこかり、なんだよねぇ。

 シノちゃんと結婚した男が正式なセンフルールの族長って話になっちゃってるのー。

 でもぉ、一族内の候補者は、みんなぁシノちゃんより魔力量が低いんだよねー。

 高位の血族の結婚だとー、男性が女性を自分のマナで染めるのが必要なんだけどぉー、魔力差が大きいからねー。

 それでー、シノちゃんが若ぁぁぁぁいうちからゆっくぅぅぅぅり気長に染めないと子供が望めないって話なのー。

 だからー、候補者みんなが結婚を焦ってるわけ」


「その、一族内の求婚者は何人ぐらいいるんですか?」


「ざっと、五人ぐらい?」


 だから、半疑問形はやめろと。


「五人ってことは、突出した人はいないってことですね。

 なんか、とっても泥沼の気がするんですが」


「うん、ぐっちゃぐちゃの、どろっどろ」


 ベーっと舌を出すピンクのお姉さん。

 だから、それが許されるのは十代までだと、・・・自称十代か。


「シノちゃんがセンフルールにいた頃は、まだ成人前だっていうのにー、毎日毎日、変なアピールに実力行使未遂ばっかりだったんだよー。

 成人したら、どーなるか分かんないからー、成人して直ぐに留学に逃げた訳」


「そんな、泥沼に入れっていうんですか?

 その五人に正面から喧嘩を売ることになりますよ」


「大丈夫、あの人達、正面からの喧嘩は買わないから。

 搦め手から姑息にネチネチと毒殺とか暗殺とか絡んでくるだけだよー。

 あー、ごめん。

 全然、ダメだった。テヘ」


 テヘペロが許されるのは、・・・以下略。


「真面目な話ぃ、シノちゃんは美人だと思うよー。

 魔力量はトビキリだし、うちは、代々、女性としての性能も高いんだよー。

『ミミズ千匹』の家系なんだから。

 キョウちゃんも満足できると思うけどー」


『ミミズ千匹』ってこの人、なに言い出してんだ?

 そんな、下世話な事、・・・まあ、うん、そうね、・・・悪くは無い、・・・かな。


「それで、キョウちゃんとしては、どーなの?

 シノちゃんは好みから外れるの?」


「いや、それはー」


 正直、外見はドストライクではある。

 黒髪スレンダー巨乳は最強です。

 客観的に見て能力もある。

 性格に難があり過ぎる気がしないでもないが。


「あ、ひょっとして、そっち系?

 オトコの子が好みなの?

 えー、あー、でも、キョウちゃんなら許してもいいわ。

 でもぉ、お相手はお姉さんの許可を取ってからにしないとダメよー。

 絡んだ時に、芸術的に絵になる相手じゃないと許可できないわ」


 そー言えば、この人、そっちの趣味だった。


「それで、キョウちゃんは、『受け』かしら、それとも『攻め』かしら?」


「いや、そんなこと聞かれても、・・・。

 あの、一応確かめておきますが、リョウコお姉さんは、その、男性同士の恋愛の絵本を趣味としているんですね?」


「ひどーい、失礼よ!」


 ピンクのお姉さんが結構大きな胸を張って、両手を上に上げ、無意味にクルクル回りだす。


「男×男、だけじゃなく、男×女、女×女、オトコの娘にフタナリもイケルわ。

 ただし、ガチムチは却下。

 美しければ、許します。

 ううん、美しくなければ許しません!

 あと、ネトラレは没」


「あー、腐敗度マックスの純愛系オールマイティー腐女子ですね」


 お姉さんの動きがピタっと止まる。


「あ、あ、あ、あの、キョウちゃん、腐敗度って、・・・まさか、腐女子って、言葉を知ってるの?」


「まあ、一応」


「そう、・・・それは、むしろ好都合ね」


 ピンクのお姉さんの目付きがギラギラしたものに変わる。


「いいわ、いいわ、義理の弟が、『芸術』に理解があるなんてサイコー!」


 いや、理解はしても、受け入れはしないから。

 そもそも『ゲイ術』だろうし。


「そう、私は、腐女子。

 でもただの腐女子ではないわ。

 帝国内外に広がる腐女子ギルドの重鎮と呼ばれる娘よ。

 そう、むしろ、貴腐人と呼んで!」


 だから、娘、じゃないだろ。

 だいたい、貴腐人って、勝手に名乗っていいんかね?




 腐りきった先輩女医が語ったところによると、古代、そのギョーカイは、アウシタンとローディストという二大派閥に分かれ、痴で痴を洗う抗争が日々繰り広げられていたという。

 二大派閥は、それぞれ聖典を擁していたが、このうち、アウシタンの聖典はしばしば『発禁』処分を科され、活動に支障をきたしていたのだそうだ。

 だが、ローディスト側の聖典は一度も発禁処分にならなかった。

 何故、内容に大差ない、ローディストの聖典が発禁処分にならないのか?

 これは、当時、千代田区一丁目一番地に居住していたやんごとなきお方が、ローディスト聖典を定期購読していたためだと言われた。

 ローディスト聖典は彼女の権威により守られていた訳である。

 ローディストたちは彼女に感謝して、『貴腐人』の称号を捧げたのだそうだ。

 であるからして、『貴腐人』は彼女以外が使用してはならないのだと、腐女医は力説していた。

 そーゆーことで、・・・考えてみれば、どーでもいい話だな。




「いいわ、シノちゃんだけでなく、シマちゃんも許可するわ。

 キョウちゃんを中心に新しい一族を立ち上げましょう!」


 また、何を、・・・何回目だろう、コレ。


「シマちゃんもって、リョウコお姉さんはシノさんの保護者だそうですけど、シマの保護者でもあるんですか?」


「違うけど、似たような物だから、ダイジョビー」


 この人って、・・・深く考えたら負けだな、コレ。


「だって、シノちゃんほどでは無いけどシマちゃんも大変なんだよー。

 求婚者の数だけならシノちゃんよりも多いぐらいだもん。

 キョウちゃんが責任取って子供を作ってあげるのがシマちゃんの幸せのためだよー。

 キョウちゃんなら魔力有り余ってるから、シマちゃんも余裕だよー」


 シノ、シマ二人ともって、・・・凄そうというか涎もんかもしれんが、現実にあの二人を抱え込んだら日々大変なことになりそうだ。

 そう、ジャニベグとアシックネールコンビと、・・・アレ、面倒という意味では大して変わらん?

 いやいや、政治的な厄介ごとは比較不能だろう。

 センフルールの族長後継問題とリンクしてるからな。

 ナディア姫も背景ドロドロだが、政治的なしがらみではシノさんが最悪かもしれない。


「私には夢があるの。

 始祖様の御代で花開いていた芸術文化、それの復興。

 それこそが、私の夢!

 現在の帝国はマリセア正教なんていう変な規制ばかりの宗教がはびこっているわ。

 帝国内だけでなく、周辺にもその悪影響は及んでいる。

 著しい言論弾圧、そして出版規制。

 これは、抹消されねばならない!」


「御大層な事を言っているように聞こえますが、リョウコお姉さんが出版したい本って、エロ本じゃないですか」


「違うわ、芸術よ、芸術!

 様々な恋愛行為を具体的に表現したからと言って、それで出版禁止なんておかしいじゃない!

 カゲシンのお坊さんなんて、好き放題各種プレイに首まで浸りきってんのに、本として出すのはダメって、お前が言うなの世界じゃない!

 センフルールの今のおじいちゃんたちも変に堅いというか、帝国に阿るというか、お父様が生きていた時代は個人的に使う分は印刷してもいいって話だったのに、今じゃそれもダメなのよ!」


 確かに考えてみれば、自らに鞭打たせている宗主や、yesロリータ fullタッチの宰相が、市井のエロ本を規制してるのも変な話だよな。

 まあ、自分たちは例外と思ってんだろうけど。


「キョウちゃん、私にはキョウちゃんのような文化と芸術に理解のあるトップが必要なの。

 協力してくれるわよね?

 キョウちゃんが私に協力してくれるなら、私もキョウちゃんを助けるわ」


「あのー、それ、リョウコお姉さん自身がトップになるべきだと思うんですが」


「だって、国のトップは男性じゃないと締まらないじゃない。

 一族を繁栄させるには魔力量の高い男性がバンバン子供を作る必要が有るでしょ。

 勿論、実権は握ってあげるから心配しなくても大丈夫よー」


 最初から傀儡宣言されてもね。


「そーゆーことで、センフルールから離れて適当な土地を征服して国を立ち上げて、恋愛芸術本の自由出版自由販売に邁進しましょう!オー!」


 恋愛芸術エロ本だよね。


「あの、征服って、やっぱり戦争ですか?」


「まあ、それは仕方がないわねえ」


「センフルール国内もダメだと?」


「能力も無ければ、見た目もしょぼい、芸術に理解も無いのに、プライドだけは高い、そんな変なのがいっぱいいっぱい、おっぱいはにっぱいで、・・・私、何、言ってたっけ?」


 もう、帰ってもいいかな?


「あー、そうそう。

 戦争って話は仕方ないよー」


 ピンクのお姉さんが妙に冷めた顔になる。


「このご時世、キョウちゃんの立場ならどこに行っても戦争とは離れられないと思うわ。

 帝国内ならどこに行っても戦争に参加することになるわね。

 帝国外に出ても似たり寄ったり」


「まあ、それは、そーなんですけど」


 帝国内、例えばレトコウ伯爵の所に行っても、レトコウ軍として戦争に参加することになるだろう。

 帝国外でも事情はさして変わらない。

 例えば、先日、牙族の有力部族であるスラウフ族がカゲシンに入朝した。

 スラウフ族は帝国と友好関係にあるが、牙族のライバルであるケイマン族とは常に緊張状態にあるし、セリガー共和国とは慢性的な戦いが継続している。

 そして、今現在は、ケイマン族とフロンクハイトが帝国内に侵攻している。

 どこに行っても戦争ばっか。

 戦国時代って言えばいいのかね。


「考えてみれば、センフルールって比較的戦争から離れてるんですかね?」


「あー、うん、見かけはねー」


「ひょっとして、オレが行ったら、それがきっかけで、とか、・・・自意識過剰ですか?」


「現時点で内乱が起きてないのが不思議なぐらいだからねー。

 シノちゃんがよそ者に取られたー、とかってなったら、どーなるかなー。

 内乱ー、うーん、それより、みんなで一致団結してキョウちゃん潰しに来るかなー」


「全然、ダメじゃないですか」


「そだねー、テヘ」


 だから、テヘペロは、・・・以下略。


「だーかーらー、もうちょっとぉー、様子見?」


 どーしても半疑問形を使いたいらしい。


「結局、オレに、どーしろと?」


「そだねー、やっぱり、キョウちゃんを中心にセンフルールから脱出した方がマシかなって。

 その方が、言論・出版活動も自由にできるしー。

 うん、やっぱり、それがいい!

 私って天才?テヘ」


 だから、テヘペロは、・・・もう、無視しろよ、オレ。


「で、なんでオレがそんなエロ本発行計画に加担せねばならんのかと?」


「えー、キョウちゃん、協力してくれないのー?

 王様になりたくないのー?」


「オレ、全然、王様に興味ないですから」


 正直、国家指導者なんて御免被る。

 十年以上医者をやっていて、患者数人の命を預かるだけでも大変だったのに、国家単位の人間の運命なんて背負い込みたくはない。

 日本の総理大臣とか、アメリカの大統領とか、マゾというか、自意識過剰というか、思い込みが強くないとやれない職業だと思う。


「えー、キョウちゃんより馬鹿な王様なんてタクサンいるよー」


 それはそうかもしれんけど、だからオレがやるってーのとは別だよね。

 あと、知能指数の高低と、指導者としての資質は別だと思う。


「えー、やってくれないのー?

 協力してくれないんなら、キョウちゃんは『総受け』だって噂を流しちゃうよー」


 ・・・意味不明だ。


「それ、脅しになってるんですか?

 だいたい、『総受け』ではありませんし」


「じゃあ、『総受けではないって主張してる』って言っちゃうよー」


 もう、精神的スタミナが限界だ。


「だいたい、『総受け』って言葉を知ってる時点で同類だよね」


 ニマニマと勝ち誇る年齢不詳ピンク。

 首絞めていいかな?


「まあ、とにかく、考えといてねー。

 気長に待ってるから。

 三〇年ぐらいならシノちゃんも何とか貞操を守れるようにしとくから」


 自称お姉さんはひらひらと手を振ってご満悦だ。


「さっきしてた、二~三〇年すればオレは帝国内にいられなくなるって話ですか」


「うん、そんなとこ。

 シノちゃんのお姉ちゃんとしてはねー、女の子にしか興味を示さなかったシノちゃんがー、初めて関心を持った男性だからねー、初恋は大事にしてあげたいかなーって。

 その頃には情勢も変わってるかなー、変わってたらいいなぁーって」


 オレ、一応、シノさんに好かれてるんだろうか。


「あと、文化芸術活動に理解がある男性は大事にしたいってーのもあるし」


 こっちの方が重要そうだな、この人。


「それでねー、忠告だけどー、キョウちゃんは戦いに出ざるを得ないし、出れば誰かを助けちゃうし、そしたら目立っちゃうし、注目浴びちゃうし、出世しちゃうし、そんで色々と大変になっちゃうと思うのよ。

 お・わ・か・り?」


 何時の間にか外していた黒縁眼鏡を再び装着したお姉さんが偉そうにふんぞり返ってお言葉を発する。


「帝国内外が戦乱に包まれている現状では戦いから逃れることはできないってことですか?」


「うん、だって、キョウちゃんが戦えるってことは、もうバレちゃってるからね。

 どこに行っても戦争に駆り出されるよ。

 それがいやなら、どっかに引き籠もりんしかないけど、掘っ立て小屋で、ノミとシラミとダンゴムシをお友達に黒パン齧るのは嫌でしょ?」


「それは、確かに」


「じゃあ、ほどほどに頑張るしかないね。

 あるいは、メーイッパイ頑張って、国のど真ん中に居座るか」


 国の中枢って、・・・オレ、マリセア正教なんて欠片も信じてないしな。


「何にしても注意するのは、血族関係ね。

 キョウちゃんが血族である事、異世界人である事は、そうそうバレないと思うけど、バレたら、全力で囲い込みに来るよ。

 セリガーもフロンクハイトも全力で来るよー」


「囲い込めなかったら、抹殺とかですか?」


「うん、そんなとこ。

 下っ端となら会っても大したことないけど、フロンクハイトの枢機卿とか、セリガーの一桁とかは、気を付けた方が良いわねー」


 既に、セリガーの第七位とフロンクハイトの教皇の娘とは会ってるんだが、・・・今更仕方がないか。




 リョウコお姉さんとの密談は三時間以上にわたり、夜が明けるころに時間切れでお開きになった。

 甚だ不本意ではあるが、得る物が少なくなかった事実は認めざるを得ない、・・・のかも知れない。


「うちの姉と長時間話を続けられる者は稀です。

 キョウスケはリョウコ姉さまと波長が合うのですね」


 シノさんの言葉に頭を抱えながらオレは宿舎に戻った。

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