05-39 エピローグ
「ベーグム師団の後衛が出陣しました」
報告に帝国宰相エディゲ・アドッラティーフは微かに頷いた。
ハルドゥーンは恐る恐る祖父を窺う。
直系の孫とは言え、彼は次男だ。
父の急逝に伴い、急遽成人して祖父の補佐、雑用係ともいう、になったのはつい先日の事である。
温厚でやさしかった祖父の本当の顔を知って数日、少年は未だに馴染めずにいた。
「なんだ、何か言いたいことが有るのか?」
執務室にいるのは祖父と少年、そして従者である数人の少女たちだけだ。
アドッラティーフは一人の少女を自分の膝に座らせると、片手を衣服の下に滑り込ませる。
まだ、十代前半の、孫よりも若い少女の感触を楽しみながら、老宰相は孫に顔を向ける。
「良いぞ、聞きたいことが有るのなら聞くが良い」
どうやら祖父は機嫌が良いらしい。
ハルドゥーンは思い切って口を開いた。
「ナーディル師団とベーグム師団が出陣しました。
祖父上は心配されていない様ですが、本当にこれでケイマン族に勝てるのでしょうか?」
宰相の唇が歪む。
「其方、まさか、勝てると思っていたのか?」
少年の顔が驚愕に染まる。
ここ数日、少年の前で行われていた会議や交渉は何だったというのか。
「ケイマン族は古来、帝国の強敵だ。
第二帝政のころから何度も帝国に挑み、最終的には敗退しているが、大きな傷跡を残してきた。
其方が生まれたころにも戦いが有ったが、クロスハウゼンが辛うじて撃退しただけだ。
ナーディルやベーグムではまず勝てぬ。
まして、今回はフロンクハイトの魔導士が付いているという。
二つの軍が協調しても、勝ち目は五分五分であろう。
現実には、協調は有り得ぬから、勝ち目もほぼゼロだ」
「そんな、・・・それでは、帝国が終わってしまいます。
勝つ方策は無いのですか?」
狼狽する孫に老宰相はゆっくりと口を開く。
「よいか、政の世界で最も大事なのは、現実を正しく認識することだ。
世の中は己の望むようには動かぬ。
勝ち目が四割、少なくとも三割あるのならば、策を廻らせば何とかなるかもしれぬ。
だが、勝ち目が二割も無いのにあがくのは馬鹿だ」
「ベーグムにナーディルの二個師団、アナトリスにクテン、更にはゴルデッジ、そしてボルドホンの諸侯軍、これだけ、集めても勝てぬということですか?」
「勝てぬと言ったのは其方であろう」
「それは、そうですが。クロスハウゼン師団も投入すれば勝てると思うのです」
「三個師団全てを投入すれば勝ち目はある。
だが、それでも五割といったところだろう。
そして、クロスハウゼンまで投入して敗北すれば帝国に後は無い。
そんな危ない橋は渡れぬ」
「もっと良い策があるのですか?」
「当然であろう。
クロスハウゼンまで投入して敗北すれば、敗北しなくとも無傷の師団が一つもない状況になれば、ケイマン以外も敵に回る。
今この段階でもセリガーなどは漁夫の利を狙って準備を始めているだろう。
敵はケイマンやフロンクハイトだけではないのだ」
ハルドゥーンは必死に考えた。
祖父は自分を試している。
少なくとも六〇点は取らねばならない。
現状を正しく認識しろと祖父は言った。
「戦って勝てないのでしたら、交渉するしかないと思います」
アドッラティーフは歪んだ唇に笑みを浮かべる。
少年は心の中で一息ついた。
ここまでは間違ってはいない。
「その通りだ。
だが、どうやって交渉する?
ケイマンもフロンクハイトも簡単には引かぬぞ」
ハルドゥーンは再び、考え込んだ。
だが、何も思いつかない。
「分からぬか?」
「思いつきません」
素直に認めるしかない。
「ケイマン族だけであれば、金と穀物を与えることで何とかなると思います。
ですが、フロンクハイトはそれでは満足しないでしょう。
フロンクハイトを満足させる方策が思いつきません」
老宰相の膝の上の少女が甘い、媚びた吐息を漏らす。
「ふむ、では少しヒントをやろう。
もし、このまま放置した場合、ケイマンとフロンクハイトはどうすると思う?」
「それは、・・・帝国の土地を占拠して、更に多くの都市や領土を荒らすでしょう。
ケイマン族は元来、野戦は得意ですが、攻城戦は苦手でした。
投射系の魔導士が少なく、質も低いからです。
また、騎馬兵が主体で、攻城戦や陣地戦に向いた重装歩兵がいません。
ですが、今回はフロンクハイトの魔導士がいます。
報告では歩兵を増強しているとも。
ですから、より多くの都市が被害を受けるでしょう。
場合によってはカゲシンに向かってくることも有り得ます」
「本当にカゲシンに攻め寄せてくると思うか?」
「それは、・・・クロスハウゼン師団がカゲシン市内にあれば攻略は難しいでしょうから、可能性は低いと思います。
ああ、それで、クロスハウゼン師団を残しているのですね」
クロスハウゼン師団は三個師団中、最も魔導士が強力な師団だ。
攻城戦では攻防共に要となる。
アドッラティーフは目を細めて先を促す。
「カゲシン攻略が難しいのでしたら、ケイマン族はある程度、帝国内を荒らしたら戦利品を抱えて故郷に戻るでしょう。
彼らは昔からそうでした。
彼らは強力な軍隊を持ちますが、総人口は帝国の数分の一です。
彼らは人族を殺すことはできても支配することはできません」
第二帝政末期や第三帝政末期の騒乱で牙族集団はしばしば帝国内を荒らしたが、いずれの場合も最後は自国に戻って行った。
「ただ、今回はフロンクハイトが参加しています。
彼らの目標は、・・・自国を強化するための人族、特に魔導士と、彼らを養う土地、・・・」
ハルドゥーンはしばらく考え込んだ後に、顔を上げた。
「フロンクハイトの希望により、今回はケイマン族も完全には引き上げない可能性があります。
少なくともギガウォックの要塞は確保し続けるでしょう。
ゴルデッジ領を中心にある程度の土地を支配し続ける可能性が高い、・・・まさか、土地を交渉に使おうというお考えですか?」
「それしか、あるまい。
彼らが望む土地と人を与える。
他に手立てが無いのだから、そうするしかないのだ」
やっとわかったか、という顔で老宰相は孫に笑みを見せた。
「放置すればケイマンは好き勝手に土地を占拠して居座るだろう。
こちらとしては土地を与えるとしても、出来るだけ被害が少ないようにせねばならぬ。
クテンやタルフォート、クリアワインやトエナといったゴルダナ地区は帝国の中枢だ。
ギガウォックの要塞は兎も角、ゴルデッジの町は取り戻したい。
与えるとすれば西側、ゲインフルールが良いであろう」
「帝国領土を割譲するなど、カゲシンの住民は勿論、帝国内の住民は誰も納得しないでしょう。
いくら何でも不可能です」
「現状では、その通りだ。だが、軍が敗北した後ならどうだ?」
「あの、まさか、ケイマン族との交渉のために軍を出して、敗北させるというのですか?」
十代前半の少年は、耐えられないように大声を出した。
「良いか、人間は感情の動物だ。
理性だけで判断し、最善の方法を選択できる者は極少数だ。
冷静に考えれば、ギガウォックの要塞を失った時点で帝国に、カゲシンに打てる手は限られている。
だが、世の中の人間の大半は、最善と分かっても受け入れられない。
平民だけでなく、貴族の大半もそうなのだ。
故に、彼らが納得する方策を示す必要が有る」
「そのために、軍に負けて来いと言うのですか?」
「負けてこいとは言っていない。
それなりに期待はしておる。
勝てないまでも敵に損害は与えてくれるだろう。
敵の損害が大きければ大きい程、割譲する領土は少なくて済む。
であるから、可能な限り奮闘して欲しい物だ。
勝つ可能性も、限りなく低くはあるが、完全にゼロでもないからな」
祖父の放言に、孫が再び唖然とした顔になる。
「誤解するでないぞ。
此度、出陣する軍には我が一族の者も軍務官として多数参加しておる。
わし個人としては、彼らが生きて帰ってくれることを切に願っている。
理想を言えば、ほどほどに戦って、敵に損害を与えつつ、持久戦に持ち込んでくれるのが最善であろう。
だが、そのような器用な真似ができる指揮官は、強いて言えばクロスハウゼン・カラカーニーぐらいだ。
ベーグムの馬鹿などには死ぬ気でやれと言う以外にない。
死ぬ気で勝とうと思って、初めて、ある程度の勝負ができるのだ」
アドッラティーフは孫の顔を覗き込むように言葉を続ける。
「良いか、細々とした指示というのは、受ける側に能力が有って初めて成り立つ。
能力のない者に過度な指示は却って混乱のもとだ。
相手の能力を見極めて指示を出す必要が有る」
ハルドゥーンは良く分からないままに頷いた。
「今現在、直ちに領土割譲による和平を提言すれば、わしの失脚は確実であろう。
だが、ベーグムやナーディルが敗北した後であれば、皆がわしの策に乗る、乗らざるを得ぬ。
そして、帝国の領土で差し出すとすれば、ゲインフルールだ。
ケイマン族からみればゴルダナもゲインフルールも大差ない。
同程度に豊かで人口もある。
だが、こちらからみれば大違いだ。
其方も算用所の上げる報告書は見たであろう。
ゲインフルールは、帝国の、カゲシンの財政に全く寄与していない。
ゲインフルールから上がる収益よりも多くの金がゲインフルール地区に支出されているのだ。
元々、第三帝政時代にゲインフルールは帝国から外れていた。
それもあって、施設建設など以前より他の地区に比べて優遇されていた。
それが昨今の地域寺院の横暴によってさらに悪化した。
ゲインフルールを切り離すことで帝国とカゲシンの財政は一息つく」
少年は算用所の報告書を思い出す。
正直に言って彼が全てを理解したとは言い難い。
ただ、帝国の財政が深刻なのは分かっていた。
「あちらにとってもメリットは大きい。
正式な領土割譲となれば、統治の正統性が得られる。
領土奪回におびえる必要も薄くなる。
統治のために、官僚を融通してやるのも良いだろう。
彼らには人族も農耕民も分からぬだろうからな」
「確かに祖父上の言う通りかもしれません。
ですが、その前に、軍が敗北したらその責任追及が来ると思います。
エディゲ家も蚊帳の外ではいられません」
「そうだな、だが、何のために、公子を軍に同行させたと思っている?」
祖父の言葉に孫は今日、何度目か分からない驚愕に陥る。
「公子に敗北の責任を取らせる、そのために同行させたというのですか?」
「はっきり言って、現在の第四公子、第五公子、二人とも宗主の器ではない。
まあ、シャーヤフヤー殿下は魔力が高いから軍人としては使えるかもしれぬ。
だが、バャハーンギール殿下は、どうにもならん」
「バャハーンギール殿下は宗主を目指して研鑽を続けていて、国家運営や政治改革の意欲もある方とお聞きしますが、・・・」
「意欲が有れば良いという物ではない。
能力も無いのに、意欲だけで口出ししてくる馬鹿は手に負えぬ。
能力が無いのならば部下に任せればよい。
任せる度量が必要だ。
だが、あの男は自分の力量が分かっていないから、全てに口出しする。
これは、ピールハンマドにも言える事だが、地位を手に入れたからと言って、周りが盲目的に従ってくれるとは思わぬことだ。
地位に見合った能力を発揮して初めて周りが付いてくる。
わしも千日行を達成した直後は多少図に乗った物だが、幸いにも父が頭を抑え付けてくれた。
十年は、ただ見るだけで過ごせとな。
十年間、政の中枢で見学し、力量を蓄えた。
その結果、わしは力を手に入れたのだ」
「二人の公子は敗北の責任を取らせて、廃嫡にするのですね?」
「後腐れなく、死んでくれるのが最善だがな」
「では、次の宗主は?」
「シャールフ、ということになろう」
もう、何が何だか分からない。
ハルドゥーンはつい先日、デュケルアールの子供二人の素性について知ったばかりだ。
その時も驚愕だったが、・・・あれは、あの話はなんだったのだろう。
「その、シャールフ殿下に付いては、宗主の血筋ではないというお話を先日、お聞きしましたが」
「勿論、正式な即位は、現宗主の逝去後に成ろう。
宗主猊下は自分に、もはや子供が望めぬことを知らぬ。
死ぬまでは新たな公子を得るという幻想に浸って頂くのが幸せだ。
宗主逝去後にシャールフを正式に宗主に擁立する。
世間一般ではシャールフも宗主の子供となっている。
宗主自身が認知しているのだからな。
そして、シャールフの血筋について、証拠を持っているのは我らエディゲ家だけだ」
「・・・瑕疵の有る宗主の方が御しやすい、そういう事でしょうか?」
「分かっておるではないか」
老人にまさぐられていた少女が再び、喘ぎ声を上げる。
「ベーグム師団とナーディル師団が敗北し、二人の公子がその責任を取る。
時機を見計らってゲインフルールを割譲し、ケイマン族、フロンクハイトと和議を結ぶ。
その後、シャールフ殿下を宗主に擁立。
それによって、混乱した政局は安定する。
エディゲ家の治世は安泰になる」
「わしが生きている間は、な」
やはり、そこに行きつく。
ハルドゥーンは心の中で溜息をついた。
つい、先日まで順風満帆だったエディゲ家の権勢はわずか一か月で、ガタガタになった。
今回の祖父の策が当たれば、当面の権威は回復するだろう。
だが、アドッラティーフという存在が消え去った後はどうすべきなのか?
「祖父上の後、・・・やはり、ピールハンマド殿は当てにはできぬ、ということですね」
「今回の戦いに乗じて、ゴルデッジ侯爵家は潰すことが出来るだろう。
うまく行けばクテンゲカイも何とかできるかもしれぬ。
だが、それぐらいが限界だ。
わしの死後は、恐らく、ウィントップ家とトエナ家の勢力争いが加速するであろう。
帝国宰相位もそのどちらかの係累が就くことになる。
エディゲ家が政治の中枢を独占するのは無理だ。
様子を窺って、ウィントップかトエナと結び、その下僕となって生き延びるしかあるまい」
「仮に、私が千日行を達成しても帝国宰相を奪還するのは困難でしょうか?」
「千日行達成者の無謬性はクテンの息子とピールハンマドによってぶち壊された。
もはや、千日行に意味は無い。
一旦、千日行達成者以外が帝国宰相に就けば、それが先例となる。
其方が無理をして達成する意味も薄い」
やはりピールハンマドの失敗は大きかった。
ハルドゥーンは父が殺された千日行達成祝賀会には参加していないが、先日のスラウフ族長の祝福の儀には参加していた。
ピールハンマドが儀式の壇上でしつこくネディーアール殿下に付きまとったのは会場中から丸見えであった。
そして、宗主から直々の叱責を喰らったのも。
意味不明としか言い様が無い醜態であった。
千日行達成者は人格高潔にして高邁なる理想と教養の持ち主。
確かに、虚像ではあった。
だが、歴代の千日行達成者は慎重な言動と行動で、少なくとも公の席では、その虚像を維持してきたのである。
それが砕け散った。
聞く所では、ピールハンマドは既に自分とネディーアールは婚約中であり、付き添うのは当然、彼女がそれを拒否したのは恥ずかしがっているだけ、と思い込んでいたという。
何故、そう思い込んでいたのかは全く不明だ。
千日行達成祝賀会の醜態だけであれば、取り返しがついた。
だが、未婚の内公女に儀式の場で付きまとうのは醜態に過ぎる。
「ピールハンマドの思い込みが激しい性格は、修行中には有益であった。
だが、修行後にはあまりにも強く千日行達成者という地位に拘るようになってしまった。
千日行とは、あくまでも過程に過ぎぬ。
だが、あの者は、それが分からなかった。
名門の出身であり千日行達成者である自分は、至高の地位にあると思い込んだ。
自分は尊敬される立場であり、その意志は絶対であると。
今も思い込んでいるのであろう。
故に、誰にも頭を下げることが出来ず、詫びを入れる事すらできぬ。
あれでは、誰も付いては行かぬ。
政など出来るわけが無い」
ピールハンマドはムバーリズッディーンの死は自分の責任ではないと断言している。
故に、未だにハルドゥーンら、遺族に謝罪していない。
「千日行達成者である自分を守って死んだのは立派であった」と悔やみの言葉だけだ。
確かに、ムバーリズッディーンを殺したのはシャーフダグだ。
だが、もう少し言い様が有ると、ハルドゥーンも思う。
少なくとも、彼自身はピールハンマドのために働く気にはなれない。
「其方は、魔力もある。
算用所でも優秀な成績だ。
今後は、その二つの方向で努力するのが良かろう」
「自護院も続けるのですか?」
祖父はゆっくりと首を縦に振った。
「エディゲ家の強みは優秀な官僚を多数揃えている事だ。
誰が帝国を運営するとしても、エディゲ家の官僚無しでそれを行うのは困難だ。
それを強調して、新たなる支配者と提携するのだ。
官僚を統制するには、自身にもその素養が必要になる。
故に算用所での修練は必須だ」
「自護院は、・・・今後は荒事が増えるとお考えですか?」
「そうだ。
恐らく、今後、宗教貴族はその地位を失っていくであろう。
乱世では武力だけが物を言う」
宗教貴族が地位を失う。
少年は考えたことも無かった。
「宗教貴族、宗教位階が意味を無くすと言われるのですか?」
「そうだ。
わしの死後は確実にその方向に進むであろう。
カゲシン宗家の権威も低下するであろう。
徐々にか、急激にか、は分からぬが」
頭が混乱して纏まらない。
少年にとっては、カゲシンという宗教権威が失墜するなど、天変地異にも等しい。
愛撫を受けていた少女が、何度目かの絶頂に達する。
老宰相は少女を床に放り投げると、「相手をしてやれ」と孫に命じた。
ハルドゥーンは服の前をはだけると、少女に覆い被さった。
男性機能の衰えた祖父の代わりに少女の相手を行うのが彼の仕事の一つである。
選り抜きの美少女の相手をできるのは楽しい。
祖父の雑用係は過酷だが、この役得はうれしい。
「自護院を継続し、軍部との関係を強化するのだ。
特に、クロスハウゼン、中でも、・・・」
アドッラティーフ宰相が珍しく言葉を途切れさせる。
「そう、中でも、あの、カンナギ・キョウスケという男はエディゲ家に取り込んでおく必要がある。
あの男、あのような、得体のしれぬ、底知れぬ男は初めてだ。
得体は知れぬが力量に間違いはない。
うまく取り込めば、将来は、其方や、其方の兄の良き補佐となるであろう、・・・いや、逆か、・・・」
少年は、懸命に腰を振りながら祖父の言葉を耳に残した。
━━━国家のトップにとって軍事的素養は必須か否か、この問題は常に語られる所であるが、中世以前においてそれは必須であったと結論せざるを得ない。━━中略━━第四帝政は中世期には珍しく、文民トップの政体であった。帝国歴一〇七九年九月一日の衝撃が発生したのは、その文民トップの軍事素養の欠落が根本にあったのは間違いない。━━中略━━帝国内生産力の低下は周辺諸国に対する物資輸出、特に穀物の提供を低下させた。帝国と友好的であったスラウフ族ですら、穀物不足が認められたのである。敵対的なケイマン族地区でもこの年は不作で有り、より深刻な食糧不足が予測されていた。━━中略━━この情報は帝国中枢に届いていた。だが、彼らは飢饉に喘ぐケイマン族が帝国に慈悲を懇願してくるものと予測し、彼らが武力に訴える可能性を頭から排除した。情報を得た、宗主及び宰相が軍部にこれを相談した形跡は皆無である。━━中略━━帝国宗主と宰相は、ギガウォック他の要塞防備に万全の自信を持ち、それが崩壊した場合の対策を持たなかった。━━こうして、時は再び乱世に突入した。KKの台頭が始まったのである。━━━
『ゴルダナ帝国衰亡記』より抜粋
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