05-35 祝福の儀式
スラウフ族長の歓迎会は盛大に行われた。
オレも末席ながら参加したが、確かに盛大だったと思う。
以前、フロンクハイトの歓迎会に出た。
あの時は豚の丸焼きがメインだったが、今回は牛だ。
そう言えば千日行達成祝賀会も牛の丸焼きだった。
最上級の歓迎が牛の丸焼きらしい。
ただ、スラウフ族長の顔は微妙に不機嫌だった。
クロスハウゼンや牙族のモーランから聞くところでは、カゲシンとの交渉はうまく行っていないらしい。
国防上問題と思うのだが、エディゲ宰相は強気だという。
権力基盤に綻びが見える宰相としては、政敵に付け込まれない完璧な合意が必要なのだとか。
交渉は宰相の管轄で極秘裏に行われているため、詳細は分からない。
歓迎会には第四公子、第五公子共に参加していたが、共に『次期宗主』と自己紹介していた。
同席していたエディゲ宰相も咎めない。
スラウフ族長は呆れた顔をしていたが何も言わなかった。
翌日、九月一日は『スラウフ族長祝福の儀』の当日である。
九月一日だが、この日は宗主の誕生日でもある。
今回初めて知ったが、ハキム・ニフナニクスが九月一日生まれで、歴代宗主も九月一日生まれらしい。
第四公子も第五公子も、ついでに第七公子シャールフも九月一日生まれ、・・・という事になっている。
オレ、シャールフは既に十三歳って聞いていたんだが、・・・非公式だそうで、正式には本日十三歳になるのだそうだ。
変な風習だよな。
外国のトップがカゲシン本山で祝福を受けるのは史上初らしく、役人・関係者は緊張で顔が引きつっている。
オレは控室で宗主が来るのを待っている。
控室にいるのはオレを含めて四人。
ネディーアール殿下にピールハンマド、そしてタージョッにオレ。
従者もいない。
緊張マックスだが、ピールハンマドだけが無意味にハイテンションだ。
「我ら二人の最初の共同作業ですね」
良く分からんのだが、部屋に入って以来、彼はネディーアール殿下に話しかけている。
口説いているのではない。
結婚を前提とした話ばかりだ。
ピールハンマドの中では結婚は決定事項、既に婚約中らしい。
しかし、結婚式の招待客とか言われてもね。
ナディア姫は完全に持て余している。
かなり邪険に扱っているのだが、ピールハンマドはまるで気にしていない。
流石の我儘姫も将来の宰相、・・・一応候補、と完全に切れるのは避けたいらしく、彼女としては最大限の配慮で、懸命に応対している。
生返事だけだが。
姫の機嫌が分かっているオレとタージョッはヒヤヒヤだ。
結局、ピールハンマドの独演会は宗主本人が到着するまで続いた。
荘厳な音楽と合唱の中、宗主を先頭に控室を出て、大広間に作られた祭壇に上る。
五人が所定の位置に着き、ネディーアール殿下が儀式魔法をド派手に開始。
広間を見渡すと、リハーサルには不参加だった第四公子、第五公子も所定の場所に立っている。
ゴルデッジ侯爵やクテンゲカイ侯爵も本人が参列。
センフルール勢も並んでいる。
カゲシンの主だった貴族は全員いるだろう。
全員が厳粛な表情の中で、宗主弟フサイミールだけが普段と変わらない。
良くも悪くも変人で大物だ。
「果てしなく広き草原の覇者、日出る海原より日沈む雪山までを統べる者、マリセアの正しき教えの守護者、スラウフ族、族長、エルテグス殿、来朝!」
司会進行に回ったエディゲ宰相のしわがれた、しかし、淀みのない発声に、大広間の入り口が開け放たれた。
先ぶれの牙族の少年が二人、松明を手に入場してくる。
続いて、盛大に着飾ったスラウフ族長が、多くの夫人と部下を引き連れて入場する。
部下は、一〇〇人はいるようだ。
大広間の中ほどまで進んだ所で、部下たちは立ち止まり、片膝をつく。
そこからは族長がただ一人進み出た。
「マリセアの正しき教えの徒、エルテグス、マリセア宗主猊下の求めに応じ、今日のこの目出度い日、猊下の栄光をたたえるためにはせ参じました。
猊下に約束を守っていただけた事に感謝いたします」
なにか、微妙な物言いだ。
エディゲ宰相の顔が歪んだ気がしたが、儀式は続行された。
ナディア姫が盛大に宗主背後の壁画に精霊の姿を現出する。
会場全体から、感嘆の声が沸きあがる。
どうやら大層感動的、らしい。
オレの目からは新宿かブロードウェイのネオンにしか見えないが。
宗主が説教を開始する。
息切れは改善し、淀みない。
内容は、・・・まあ、坊主の説教なんて、古今東西似たような物だ。
お決まりの美辞麗句と対象者、今回の場合はスラウフ族長を上から目線で褒め称える言葉。
今後もマリセア正教とカゲシンに忠節を尽くすように釘を刺して終わりだ。
音楽も演出も中途半端だが、説教自体は無事終了した。
あとは、宗主が族長の頭の上に手をあてて、聖なる言葉を唱えるだけである。
幸いにも、スラウフ族長は感動したらしい。
「これまで、様々な儀式に参加しましたが、これ程、華麗で崇高な宗教魔法は見たことが有りません。
宗家の姫とお聞きしますが、ご挨拶させて頂いて宜しいでしょうか?」
族長の言葉に、宗主も、そして離れて見守る宰相も顔を綻ばせる。
「魔法が得意な娘でありましてな。
先日、百日行を達成し、この大役を任せたのです」
宗主が手招きするが、ネディーアール殿下は戸惑った顔だ。
恐らく、自分の役目は終わったと気を抜いていたのだろう。
と、横にいたピールハンマドが素早く寄り添い、前に出るように促す。
完全にエスコートの態勢だ。
いきなり腰に手を副えてきたピールハンマドを、ナディア姫が反射的に振り払う。
「恥ずかしがる必要は有りません。ささ、一緒に前に」
「いや、良い。一人で充分だ」
しつこく寄り添おうとするピールハンマドにネディーアール殿下が抵抗する。
壇上で何をやってるんだ?
小声とはいえ、大広間の壇上。
揉めているのは丸見えだ。
しかし、ピールハンマド、断られたら諦めろよ。
なんで、こんな所でそんなにしつこいんだ?
もう、五回目だぞ。
止めに入るべきなのか?
ここにいるのはオレたち五人だけだ。
タージョッは呆然と立ち尽くしている。
その時だった。
「ネディーアールから手を放せ、この痴れ者が!」
大広間全体に響き渡る大声だった。
宗主自身の怒声に会場が、そしてピールハンマドが凍り付く。
「許可なくネディーアールに手を出すとは何事だ!
下がれ、下がって謹慎しろ!」
なんだかわからんが、宗主お気に入りの娘に手を出した罪は大きいようだ。
だが、今ここで、ここまでやる必要があるのだろうか?
唐突だが、応じない訳にもいかない。
タージョッに目配せして、ピールハンマドの両手をネディーアール殿下から引きはがす。
近寄ってきた衛兵が引き継いで、ピールハンマドを引きずって行く。
ピールハンマドは、引きずられながら、何か叫び出して、衛兵に口を塞がれていた。
意味が分からなさすぎだろう。
視界の隅では、司会役のエディゲ宰相が呆然とした顔をしていた。
流石にこれは宰相も予定外だろう、・・・・・・いや、何か、おかしい。
宰相は狼狽しているが、その視線はこちらではない。
横にいる貧相な役人だ。
儀式の礼服ではない、普通のお仕着せの官僚服を身にまとった役人、・・・なんでここにいるんだ?
「失礼しましたな。それでは、祝福の儀を行いましょう」
宗主がスラウフ族長に声をかける。
戸惑った顔の族長は、周りを見渡して、そして、取りあえず儀式を継続しようと考えたのだろう。
宗主に向かって鷹揚に頷く。
だが、再びの絶叫が、それを止めた。
「なに、ギガウォックが落ちただと!」
エディゲ宰相の横に宗主補のフサイミール閣下が立っている。
「どういうことだ?
何時、どうして、陥落したというのだ?
何故、今まで報告が無かったのだ?
何故、今、この場での報告なのだ?」
変人宗主補が矢継ぎ早に質問を繰り出す。
宰相がフサイミールを止めようとするが、既に、ギガウォック陥落という言葉は大広間中に響き渡っている。
会場内が、静まり返り、そして、声を押し殺した驚愕が伝播した。
ギガウォックはゴルデッジ北方にある要塞の名だ。
騎士団の一つが駐屯していた筈。
難攻不落の要塞で、帝国と敵対するケイマン族に対する備えである。
大広間の驚愕が喧騒に変化する。
「それが、狼煙での伝達や早馬での報告は数日前にあったのですが、あまりにも信じがたい内容でしたので、確かな情報を求めて調査の者を派遣していた次第で、・・・」
オレの強化された聴力が役人の言葉を拾う。
「私は聞いていない。何故、報告しなかったのだ?」
フサイミール殿下は容赦しない。
儀式の場、ということも全く関係ないね、この人。
「ギガウォック要塞はこの二百年突破されたことは有りません。
祝福の儀で忙しい状況でしたので不確かな情報を上げるわけには行かないと考え、・・・」
「それが、何故、今なのだ?
儀式の最中に報告する必要があったのか?」
儀式を停止させたのはあんただと思うけど、・・・いや、この場合の優先順位はどちらだろう。
フサイミールって、良く分からん。
「それは、・・・、その、・・・」
言い淀む、役人。
その時、大広間の入り口が開け放たれた。
入って来たのは、薄汚れた完全武装の一団だ。
止めようとする衛兵を振り切り、驚くスラウフ族重鎮を突っ切って、代表の男は宗主の前に進み出る。
追いすがる衛兵に取り押さえられるが、取り押さえられながら大声で叫んだ。
「失礼は承知しております。
猊下、どうか、ゴルデッジをお救い下さい!
ゴルデッジを救えるのは猊下だけです!」
身長の高い、整った体型の男だ。
良く鍛えられた体に質の良い鎧を身に付けており、中々のイケメンでもある。
どこかで見たような気がするが、思い出せない。
だが、その頬はこけ、眼窩は落ち窪み、鎧は歪み汚れている。
相当無理をしてきたのだろう。
「グルバダンではないか、どうしてここに?」
声を発したのはゴルデッジ侯爵だ。
「侯爵様、・・・・・・・」
グルバダンと呼ばれた男は衛兵に取り押さえられたまま、侯爵を見て涙を溢れさせる。
「其方の知り合いか?」
宗主がゴルデッジ侯爵に声をかける。
「我が息子の第二正夫人です」
え゛、・・・女、なの?
なんか、デジャビューが、・・・。
宗主はグルバダンを見ると衛兵に下がるように指示する。
「何が有った?」
宗主、直々の問いに、グルバダンは居住まいを調えて跪いた。
「さる、八月二五日、東大瀧渓谷高原において、我がゴルデッジ家精鋭とギガウォック騎士団の混成軍三万は、ケイマン族十万と激突。
我が方は奮闘する物の、衆寡敵せず、敗北致しました」
続いて、報告された内容に、カゲシン首脳が、大広間の群衆が、震撼した。
ゴルデッジ侯爵継嗣、戦死。
侯爵継嗣の弟二人も戦死。
侯爵の弟まで戦死。
ギガウォック騎士団長も勿論、戦死。
近隣の伯爵や子爵、男爵など戦死者は無数だ。
「三万の兵が一万に減り、残兵はゴルデッジ市内に籠城しております。
自分は救援を求めるため早船を使い、昼夜兼行でたどり着いた次第。
何卒、何卒、ゴルデッジをお救い頂けるよう伏してお願いいたします」
屈強な男、じゃなくて女が涙ながらに、訴える。
「待て、大渓谷にケイマン族が入ったと言ったな。
まさか、ギガウォックが落ちたと申すのか?
ギガウォックはニフナニクス様以来、二百年間不落の要塞ぞ!」
「それが、・・・」
グルバダンは少し躊躇った後に、絞り出すように答えた。
「フロンクハイトの魔導士が加担した物と推測されます」
「真か?」
「当初、ギガウォック騎士団長は、要塞の陥落は不意を突かれたとしておりました。
しかしながら、一部の者からは『強力な魔法攻撃を受けた』との報告が有ったのです。
我らはこれを無視しておりました。
ケイマン族、牙族にその様な部隊がある筈がないからです。
ですが、決戦において、敵方は我らを圧倒する魔法攻撃を仕掛けてきました。
数の不利を魔法で埋め合わせるのが我らの計画でしたが、現実には魔法でも敗北したのです。
偵察の者の報告では、フロンクハイトの枢機卿と思われる衣服を確認したとの事でありました」
儀式は完全に吹っ飛んだ。
担当役人が宗主の前に引き出され、糾弾される。
ギガウォック要塞の陥落は、何日も前に報告されていた。
最初の報告は狼煙による伝達だった。
だが、担当役人は、報告を『誤報』と判断する。
ギガウォック要塞はニフナニクス以来の堅塞であるから、陥落は有り得ないと考えたらしい。
続いて、早馬による報告書が届けられたが、これまた、要塞の陥落を知らせるだけの簡単な物であった。
担当者数人で話し合ったが、信じがたい情報であるため、確認の者を派遣するに留め、上への報告はしなかった。
狼煙による連絡を無視したところから始まる負の連鎖だ。
これが三日前の話。
それからも多方面から断片的な報告はあったが、担当者は、確認の者を派遣しているのを理由に、無視し続ける。
だが、本日、グルバダン一行が到着するに及んで、隠し通すことは不可能となった。
それが国際儀式中に宰相へ報告するという異常事態に繋がる。
彼女たちを押し留めて自分たちの失策を糊塗しようとしたが、業を煮やしたグルバダンが式場に乱入したことにより、全てが明るみに出たのである。
まあ、無能、としか論じ様が無い。
スラウフ族族長の顔も蒼い。
ケイマン族とスラウフ族は大陸北方を二分するライバルである。
ギガウォック要塞が攻撃を受けたのは、スラウフ族族長がウィントップから帝国内に入った翌々日。
ケイマン族がスラウフ族長の帝国内入朝を確認してから軍を出したのは明らかだ。
スラウフ族は族長独裁体制と聞く。
族長が居なければスラウフ軍は動けない。
ケイマン族はスラウフ族長の入朝に軍事行動を重ねてきたのだろう。
しかし、この期に及んで、連絡を怠った担当者の責任を声高に論じ始めたエディゲ宰相は何なのだろう?
自分の責任を回避したいのは分かるが。
「そんな事よりも、軍を派遣しなければならん」
喧騒の中でフサイミール宗主補が絶叫した。
「猊下、早急に軍の手配を。
ゴルデッジを見捨てる訳には参りません。
何よりケイマン族などというマリセアの正しき教えにもとる輩を帝国内でのさばらせて置くことは出来ません!」
狼狽していた宗主がその言葉に我に返る。
宰相、そして、三人の師団長に対して早急にゴルデッジ救援計画を立案するようその場で命令が出される。
「グルバダン、良くやった。
昼夜兼行での報告、忠義であった。
後程、褒美も取らせよう」
何故か、フサイミール殿下がまともな指示を出し続ける。
「ゴルデッジ侯爵、其方の息子は残念ながら討ち死にしたと聞く。
そこの、グルバダンは其方が引き受けるのが穏当であろう。
見れば、中々の美形。
其方が褒美として、この場で、注いでやるのが良いと思うが、どうだ?」
えーと、何を言い出しているのでしょうか?
注ぐって、なに?
「あ、え、今、この場で、ありますか?」
宗主補の問いに視線をさまよわせる侯爵。
つつーっと宗主補に近づくと、その耳元に囁く。
「あれは、息子の嫁でしたから、・・・私はダメでして、」
オレの強化された聴力が、どうにも理解できない話を拾ってくる。
「息子の嫁だった、であろう。
息子が死んだら親族の然るべき者が引き受ける責が有る。
見た所、まだ二〇代の前半、中々の美形。
勿体ないではないか!」
侯爵が小声で抗弁しているのに対して男一人愛同盟の精神的指導者は大広間全体に響き渡る声量だ。
「エルテグス殿、スラウフ族ではこのような場合、褒めて、直ちに精を注いでやるのが通例と聞き及びますが、如何ですかな?」
なんで、そこで、族長に振るんだ?
つーか、ヤルの?
今、ここで?
マジっすか?
「その通りです。
貴重な情報を命がけで運んできた使者には相応の褒美があってしかるべきでしょう」
族長が熱烈に賛同し、それに大きく頷く宗主補殿下。
褒美なの?
公開セックスが褒美なの?
「ゴルデッジ侯、其方が褒美としてこの場で行うのが、突然の出陣を盛り上げるためにも有効であろう!」
侯爵の顔に焦りの表情が浮かぶ。
そりゃね、儀式をやっていた大広間で、千人以上の参列者の前で公開セックスを強要されたら、ビビルよね。
侯爵が再度、宗主補の耳元に口を寄せる。
「あー、その、実は、息子は年上が好みでしたが、私は、若い女性が好みでして。
私は、その、二〇以上の女には勃たないのです」
・・・何、言っとんだ、このおっさん。
わざわざ、指向性聴音魔法なんか使ってるオレが馬鹿みたいじゃないか。
しっかし、戸惑ってた理由が、ソレ?
そー言えば、こいつもロリコン、・・・ニクスズ派だった。
ロリコンだからニクスズ派に入るのか?
それとも、ニクスズ派に入ったらロリコンに感化されるのか?
・・・・・・今、考える事じゃないな。
「何と不甲斐ない!
もう、良い!
ならば、私が相手をしよう!」
フサイミール殿下が声高らかに宣言する。
ちょっと、待て、・・・スラウフ族長の祝福の儀式という重大行事が、外敵の侵入という国家非常事態で中断されてんのに、何で、公開セックス・ショーになるんだ?
「よし、ヤルぞ!
出陣前夜祭の儀式だ!」
異様に興奮した表情で服を脱ぎだす宗主補殿下。
出陣前夜祭って、アンタがヤリたいだけにしか見えんのだが。
「待て、フサイミール、その役目は宗主である余が行うべきであろう!」
何で、こっちも絶叫してんの?
宗主猊下、・・・ギラつき過ぎでしょう。
「猊下、猊下の健康状態で過度の興奮を伴う儀式は危険です」
シャイフが宗主に駆け寄って止める。
必死の形相だ。
宗主が衆人環視の中でコトに及んで、それで腹上死なんて、目も当てられない。
「待ってください、シャイフ殿。
これは滅多にない状況です。
猊下はとてもみなぎっておられます。
猊下の男性機能回復には、またとない機会。
このまま猊下に行わせて頂けませんか?」
これまた駆け寄って来た、宗主乳母のエディゲ宰相妹がシャイフに取り縋る。
「ですから、そのような過度の興奮状態に猊下の心臓は耐えられないのです。
命の問題になってもよろしいのですか!」
小声で、しかし、衆人環視の壇上で争いを続ける宗主乳母と施薬院主席医療魔導士。
議題は公開セックスの是非って。
「出陣前夜祭などという機会はそうは有りません。
見てください、あの猊下の高まりを!
久方ぶりの大きさです!」
「そもそも、出陣前夜祭で女性と交わるのは牙族の風習であって、帝国にもマリセア正教にもそのような風習はございません!」
二人とも興奮して段々声が大きくなってきている。
大広間に集まるお偉方は何とも論評のしようのない表情だ。
「猊下、やはり、ここは私が!」
「待て、フサイミール、其方、あの者とヤリたいだけであろう!」
こちらでは、やんごとなき兄弟が、本音丸出しで言い争っている。
「グルバダンは筋肉系の美人として有名だからな。
二人ともそのまま自分の女にしたいのであろう」
横にいたネディーアール殿下がボソっと呟いた。
「彼女の事をご存じなのですか?」
「うむ、あれは、ガイランの現当主が接待で孕ませて産ませた娘だ。
ガイラン家の者には数えられぬが、遺伝的にはライデクラートの異母妹になる」
あー、何か見たことあると思ったが、それか。
しかし、争われているグルバダン本人はいいのだろうか?
本人の意思を無視して、所有権を争われているのだが、・・・満更でもなさそうな、・・・もう、いいか。
ちなみに、シャイフは辛くも勝利をもぎ取った。
こうして、国際親善行事であるスラウフ族長の『祝福の儀』は、隣国の侵攻という重大事件の報告会へと変化し、六日前に寡婦になった女性と宗主補の公開セックスで幕を閉じた。
何でこうなったのか、オレ自身、全く理解できない。
ちなみに、完全に忘れていたが、ピールハンマドは謹慎処分になった。
宗主直々の謹慎宣告。
対象者は三年間昇進が停止され、その後の出世も不利という。
彼の帝国宰相就任は極めて困難になった。
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