第663並行世界 クラフター令嬢のスローライフ
「さて、まずは今日の寝床作りですね!」
貴族令嬢だというのにサバイバル生活への不安が一切無い。というのもマインは〈工作の魔法〉の達人なのだ。
「石はこれくらいの大きさで、ロープ代わりになる草のつると……あとは太めの木の枝が……あ! これは良い感じですね」
どれくらいかというと、男がついチャンバラごっこをしたくなるくらい、良い感じの長さと太さだった。
「クラフター令嬢のスローライフ~婚約破棄された上に島流しされたので、無人島を開拓して自由気ままに暮らします」より
https://kakuyomu.jp/works/16817330649270337786
●アカシックの手記
第2並行世界が滅亡してから、私の主観時間で数年が経過した。
とっくに見捨てた世界の住民の生死などさほど気にはならないけど、友人である鳩美や鋼治、そして二人の息子の安否が気になる程度の人情はまだ私に残っている。
鳩美と鋼治は並行世界調査員だ、きっと第2並行世界の滅亡から脱出し、他の並行世界に避難してるだろう。
いろいろと調べている内に、この第663並行世界において他の並行世界から誰かがやってきているのに気づいた。
並行世界間の移動自体は良くある頃だから、異世界召喚の類いの可能性が極めて高い。事実、第663並行世界ではしばしば他の世界から聖女を召喚している。
ただ、第663並行世界の次元のゆがみを調べてみると、この並行世界が行う聖女召喚とは、パターンが異なる次元のゆがみがあった。
そのゆがみは第2並行世界で使われる並行世界間航行機によるものだ。
私は鳩美達が第663並行世界に避難してきたと思って現地に足を運んだ。
結論から言うと私の友人ではなかった。別の並行世界調査員で名前は市川太郎と言った。彼は第663並行世界にある孤島に拠点を作って生活していた。
太郎は生真面目な性格で、すでに第2並行世界は滅びたというのに、並行世界調査員は他の並行世界に悪影響を与えないようにするという規範を未だに守り続け、第663並行世界の住民と一切接触していなかった。
太郎は自分の死後にこの生活拠点を封印するつもりらしいが、しかし完全なものにするつもりはないらしい。
もしこの並行世界の住民がこの場所を発見したら、ここにある物を譲っても良いという。太郎にしてみれば、他の並行世界に悪影響をあたえない云々は、あくまで自分に対するケジメのようなものらしい。別に自分の死後も厳格に守られるべきとは思ってないようだ
ただし、簡単に渡してはつまらないので、多少の苦労をさせるための試練を用意するという。
試練と言っても単純で、単に扉に拠点の封印を解除するパスワードを日本語で書くだけだと言った。
第663並行世界に日本語は存在しない。つまりこの並行世界の住民が太郎の拠点を手に入れるには、完全に未知の言語を解析しなければならないのだ。
とはいえ第663並行世界には聖女召喚がある。案外、日本人が召喚されてここを見つけたらあっさり封印を解くのではと私は思った。
それを伝えると、太郎は笑いながらこういった。
「私はけっこう異世界ファンタジー小説が大好きでね。そういう小説みたいな事が本当に起きるならそれはそれでいいさ」
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