アカシック
私のことが知りたいの? うん、まあいいわよ。今は不思議と自分のことを話そうって気分だから。
あなたが読んだいくつかの資料には第2並行世界について書いてあるわよね。その第2並行世界が私に故郷よ。
あれは私の主観時間でどれくらい前だったかしら? 2000年? いや3000年だったかも。流石に5000年は経っていないはず。
私が不老不死なのかって? 完全じゃないけれど、だいたいそんな感じよ。自分の能力でいろいろ集めた知識を組み合わせたり発展させたりして、私は8割くらいは不老不死になっている。
この能力が私の人生を全て決めたと言っても良いわね。
アカシックリードって言ってね、ほかの並行世界にある知識を手に入れられる超能力なの。
普通この能力は制御が効かなくて、いつなんの知識が手に入るのか分からないの。時と場合を選ばずに、役に立つかどうか分からない知識が勝手に頭の中に入ってくるわ。
でも私はアカシックリードを完全に制御できた。どうしてなのかって? 私も分からないわ。
とにかく私は望んだ知識を得られた。その知識がどこかの並行世界にあるになら、それを知りたいと念じた瞬間に私は知るの。
この能力を始めは世のため人のために使おうとしたわ。不治の病の特効薬とか、枯渇しない完全クリーンエネルギーの作り方とか、いろいろ広めたわ。
でもねえ……それが良くなかったわ。世の中にとって私はあまりに便利すぎた。
困ったことがあったらすぐに私が能力を使って知識を取り寄せるものだから、人々はだんだんつけ上がるようになったの。
アカシックリードで手に入る知識は、どこかの並行世界にいる誰かが血の滲むような努力の末に生み出されたもので、使わせてもらうからには敬意を払う必要があるわ。だから私は能力を乱用しないよう注意して、取り寄せる知識は、病や貧困などの不幸を取り除くもののみと決めていた。
でも人々の要求はどんどんエスカレートとして、利権とか軍事力とかそういうモノの欲しさから私に知識を要求し出したの。
それだけじゃない。努力しなくとも知識を得られるせいで、第2並行世界は自力で文明を発展させようとする意欲を失っていたわ。
流石にこれはまずいと思ったわ。乱用しないようにと注意していたけれど、認識が甘かったわ
今後は自力で文明を発達させようとするべきって人々を説得したけれど、一度味を占めた人間のまあ浅ましいこと。あたかもそれが正論のような感じに、もっと自分たちに贅沢させろって言ってきたわ。見ず知らずの他人どころか、私の家族や友人たちですら卑しい人間に成り下がった。
それでもう説得は無駄って分かったわ。だから私は故郷を出て行って、この空間に自分の家を建てたの。
そうそう、出て行くときは並行世界を移動できる航行機をいくつか作って置いていったわ。別世界の知識が欲しければ、それを使って探しなさいってね。
それから私は対価なしでは二度と他人のために動かないと決めたわ。これ以上、だれかを堕落させないためにもね。
第2並行世界に山田花子が襲来したときも、私は世界そのものを助けようとしなかったわ。あのとき、私がしたのは山田花子に立ち向かったトラベラーとライゼンダーに手を貸すくらい。あの二人と、その息子さえ生き残っていれば他の人間がどれだけ死のうと知ったことではなかったわ。
私はもう少し薄情であるべきだったわ。神様みたいな力を使える人間が博愛精神なんか持っていたばっかりに第2並行世界は堕落した。乱用しないようにと世のため人のために使ったけれど、それは間違いだった。むしろ全く逆で、社会のために使うことが乱用だった。
この力は自分や身内がささやかな幸せを得るためだけに使うべきだったと私は思い知った。
世界を変えられるほどの強大な力は、世界を変えるために使ってはいけない。慎ましく使うのが正しいのよ。
人がすることは何が正解か分からない。言い換えるならば、やることなすことが全部間違いともいえる。
あなたが何か大きな事をやろうとするときは、そう考えた方がいいわよ。
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