第126話 アリキング
エリーが俺に抱き着いているところにクラリスとカレンが戻ってくると、2人の後にイザーク辺境伯とミネルバも一緒についてきた。
俺はイザーク辺境伯にバレないようにドミニクにヒールをかけ、イザーク辺境伯がいる間はキラーアントに突っ込まないようにと告げた。ドミニクは俺の方を向いて頷いたが、エリーが抱き着いている事に驚いていた。
「目を離すとすぐに発情するんだから……2人とも離れなさい」
クラリスが俺とエリーに向かって言うとエリーが俺から離れた。
「イザーク辺境伯にクイーンアント討伐の許可を貰ったわ。朝と同じように魔石は回収するという事が条件ね」
カレンが言うとミネルバが興奮しながら
「マルス君聞いて! 鎖術って縛って攻撃するんじゃないんだって……イザーク辺境伯の鎖の使い方見たら感動しちゃった。改めて鎖術を頑張ろうって思ったよ!」
それは本当に良かった……これでもうミネルバの被害者は居なくなる……するとイザーク辺境伯が
「まさか鎖術の才能がある者に出会うなんて思わなかった。鎖術は才能があっても器用さが無いと使いこなせないから、全然後進が育たないんだ。そしてMPも多い方がいい。ミネルバ嬢はやる気も才能も器用さもMPも兼ね備えているから今後が楽しみだよ。私がいる間はしっかり教えるからそのつもりで。マルス君もいいかね? ミネルバ嬢をお借りしても?」
イザーク辺境伯が嬉しそうに聞いてきたので
「はい。あとでパーティリーダーのバロンに伝えておきます。ミネルバをよろしくお願いします。ミネルバ。ミネルバがしっかり鎖術を使えるようになったら俺にも教えてくれよな。だから頑張ってくれ」
俺の言葉にミネルバは嬉しそうに「うん」と返事をした。イザーク辺境伯とミネルバが砦に戻っていくと再度ドミニクにキラーアントの群れに向かって突撃してもらった。
「エリー、ミーシャと一緒にこの蟻たちがどこら辺から湧いているか調べてくれないか?」
2人は頷き、早速アントたちの巣穴を探しに行った。しばらく経つとドミニクがだいぶへばってきた。ヒールで回復してもすぐに息切れを起こすようになってきた。
「ドミニク、辛くなってきたか? 一回休むか?」
俺が聞くとドミニクは
「いや、まだやる。俺は【暁】で一番弱いはずだから、人一倍特訓しないとみんなに追いつけない。俺は絶対にマルスに恩を返したいんだ! 新入生闘技大会の時の右腕の恩は一生忘れない!」
そう言うとさらにキラーアントの群れの中心に突っ込んでいく。ドミニクいい奴だ……だがさすがにそこまで突っ込むとヤバい……俺がそう思っているとバロンが参戦してきて
「ドミニク! 俺も一緒に戦うぞ!【創成】も強いってところを見せなきゃな!」
うん。青春って感じとても良い。バロンが起きて参加してきたことにより、ミネルバ以外の【暁】全員がそろったことになる。あとはエリーとミーシャが巣穴を見つけてきてくれればと思っていたらいいタイミングで2人とも帰ってきた。
「マルス見つけたよ。ここから1kmくらい西の方角。巣穴がだいぶ大きいよ。行くの?」
巣穴まで見つけてくるとはさすがエリーとミーシャだ。
「ああ! 早くアントたちを倒して死の森付近まで行こう!」
2人が見つけてくれた巣穴の近くまで行くと異常を察知したのかマザーアントたちが群れを成して襲ってきた。巣穴の前にはキラーアントたちがびっしりいて巣穴に火魔法を投入されないようにしている……無駄なことなのに……
カレンとバロンがキラーアントの群れにファイアを放つと俺が風魔法で燃え盛るキラーアントを巣穴に放り込む。こいつらは自分自身が着火剤という事が分かってないらしい。
マザーアントはクラリスとエリー、ミーシャ、ライナーに任せて俺は巣穴の火が途絶えないようにひたすら巣穴に風魔法で空気を送る。すると地面を突き破って蟻たちが燃えながら勢いよく飛び出してきたが、もう出てきた時点で瀕死なのでひたすらドミニクとバロンが止めを刺す。
どうやら地中は地獄らしい。我先にと地中から地面に飛び出してくる。それは上位個体も例外ではないらしい。
まとめてクイーンアントが7体も出てきた。しかも全個体レベルが40! これはめっちゃ美味しい。
さすがにこのクイーンアントを倒せるのは俺とクラリスとエリー、そしてギリギリカレンくらいだ。
カレンもクイーンアントのHPがMAXだったら倒せないだろうが、クイーンアントは体が大きい分地上に来るのに時間がかかっている。その分燃えている時間が長いのでなんとか倒せるレベルだ。
クラリスもクイーンアントのHPがMAXだと倒すのに時間がかかりそうだ。だがクラリスの装備は一級品の為、負けることはないだろう。俺が4体倒している間にほかの3人が1体ずつ倒せたようだ。
あらかた倒し終わったと思ったら最後にクイーンアントよりも一際でかい個体が出てきた。外見も違って蟻なのに立派な大きな角がある。その立派な角の長さは体長とほぼ同寸の長さだった。
【名前】-
【称号】-
【種族】ヘラクレスアント
【脅威】B
【状態】良好
【年齢】38歳
【レベル】50
【HP】288/312
【MP】6/6
【筋力】78
【敏捷】67
【魔力】1
【器用】38
【耐久】95
【運】1
な、なんだこの蟻は……まずステータスがキマイラよりHP、筋力、器用、耐久が高い。MPと魔力が低いのだがこれで脅威度はキマイラよりも低いのだ……やはり特殊能力が全くないから脅威度Bで止まってしまうのだろう……
だがそれ以上に俺の心を打つものがあった。
この名前、風格、そしてフォルム……芸術だ! これは是非剥製にでもしておきたい! それにしてもこれは蟻か? 蟻の定義って……なんだっけ? まぁそんなことはどうでもいい。
「こ、こいつは俺が倒す!みんな傷をつけない……手を出さないでくれ。出来るだけこのままの状態で倒したいから!」
俺が興奮しながら言うと【黎明】女性陣はみんな白い目で見てくる……こんな気持ち悪い生き物に何興奮しているんだという感情がヒシヒシと伝わってくる。だけどここで負けるわけにはいかない!
「よし! こいつを剥製にして我が家の家宝に……」
俺がここまで言うとクラリスが
「しません!」
俺の言葉をシャットアウトする。ま、負けてたまるか!
「この美しいフォルムのヘラクレスアントの剥製を……」
ここまで言うと今度はエリーが
「……燃やす……」
ぼそりと言う……まだ2人に反対されただけだ……勝ち目はまだある!
「このムシキングならぬアリキングを……」
ここまで言うとカレンとミーシャが俺の肩に手をかけて
「マルス。諦めなさい。クラリスとエリーよりも大事なの?」
カレンが言うとミーシャも
「こんな気持ち悪いもの家にあったら誰も入ってこないよ? マルスはずっと1人で生きていくの?」
……男のロマンを2度までも諦めるのか……だが確かに婚約者たちより大事なわけが無い……
「わ、分かった……」
力なく返事をするとカレンが
「このタイミングで言うのもあれなんだけど……出来るだけ外殻に傷をつけないように倒して。今思い出したのだけれどもフレスバルド家の本邸のどこかにこういうのが飾ってあった気がするから、もしかしたらお父様が喜ぶかもしれない。マルスにこれを譲る気があるのであればだけど……」
おお! 理解者がいるのか!
「分かった! なるべく傷つけないよう倒す!」
俺が意気込んでいるとミーシャが
「それにしてもこの大きい雄? の蟻は酷いよね。メスばかり働かせてみんなが倒されてから出てくるなんて」
ミーシャの言葉に頷きながらクラリスも
「本当よね。ハーレムの主が働かないなんてありえないわ」
と同意した。あれ? この流れなんかやばい感じか? なぜかヘラクレスアントが縮こまっている気がする。ヤバい……この蟻とは何か通じるものがある……だがここは戦場だ。お前に恨みは無いが倒させてもらうぞ。
俺は雷鳴剣を天に掲げるとゆっくりとヘラクレスアントが角を雷鳴剣に触れてきた。なんだこの蟻……グローブタッチでもしたつもりなのか。転生したら人間になってくれ……その際は一緒に酒でも飲みながら語り合おう。
グローブタッチをした後、雷鳴剣を構えるとヘラクレスアントも自慢の角を振り回してきた。
か、かっこいい……だがずっと見惚れているわけにはいかない。
下から角を振り上げてきた時にウィンドインパルスで下から角を弾くとヘラクレスアントがひっくり返った。ヘラクレスアントはひっくり返ったまま暴れている。
このままだと外殻に傷がついてしまうので俺はヘラクレスアントの腹に
最後は蜘蛛が死んでいくかのようにヘラクレスアントがしぼんでいったが、外殻と立派な角はそのままの大きさだった。
ヘラクレスアントを倒した後は巣穴の蟻を焼き殺してから魔石を回収し、ヘラクレスアントの死骸を風魔法で砦まで持ち帰った。当然のように俺はレベルアップしていた。
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