第118話 吸血鬼

2030年9月11日 午後8時30分


 俺とライナーはエリーとミーシャより一足先に東門に向かった。女子2人はお風呂に入ってから来るとの事だ。


 東門についてクラリスたちと交代すると早速魔物達を倒し始める。本当に夜中になるとこの魔物達は出現しなくなるのだろうか? 地平線の向こうから魔物が列をなして向かってきている。


 少しするとエリーとミーシャが到着したので俺は土魔法である物を東門の外に作り始めた。


 石造りの家を土魔法で作ったのだ。平屋で風呂トイレ付きでいつものようにベッドも付けた。そして今回のベッドは恐らくキングサイズ以上はあるだろう。


 なぜこんなに大きいかと言うと、事前にイリーナに布団を用意してもらっていたのだが、イリーナが用意してきた敷布団と掛け布団がどちらも貴族が使うような大きなサイズだったのだ。


 何故これを今作ったかと言うと、明日万全の状態で東に進みたかったからだ。ある程度家を造ったら、みんなの元に戻って魔物を倒し始めた。


 23時頃になると魔物の数が大分減っていき、0時になると魔物はほとんど現れなかった。


「みんな聞いてくれ。今から俺は3時間休ませてもらう。そして3時間後に今度はみんなが休んでくれ。みんなのMP次第だが8時頃に起こすと思う。詳しい作戦は明日みんなが揃った時に話す。いいかな?」


 俺がエリー、ミーシャ、ライナーの3人に聞くと3人とも頷いてくれた。


 いつものようにお風呂に入ってからMPを枯渇させて寝た。



2030年9月12日8時


 結局俺が起きて3人と見張りを交代してから魔物は10体くらいしか来なかった。そして今【暁】全員が東門にそろっている。そしてみんなスッキリした顔で体調は万全のようだ。


「よし、これより東へ進軍する。いざという時の為に【剛毅】の2人には残ってもらう。今日中にこの魔物達がどこから来ているか突き止めるつもりだ」


 事前にライナーには知らせておいたので、ライナーとブラムの2人は頷く。魔物達は今になって列をなして遠くの方からこちらに来ている。


 本当にこの魔物達は行儀がいいな……夜は来なくて朝も俺たちの生活スタイルに合わせて襲ってきてくれる。


【黎明】【創成】の2パーティで東へ進軍する。主に魔物と戦うのはミーシャ、バロン、ドミニクのレベルが低い3人だ。まぁミーシャはレベルが低いと言っても俺よりはもう高くなっているのだけどね。


 ミネルバが一番レベル低いのだが、何せ攻撃手段が魔法だけなのでここはMPを温存するために、攻撃には参加させないようにした。その代わりミネルバは一生懸命昨日俺が渡した鎖をいじっている。

 

 なんか手に本を持って色々と研究しているようだが……本のタイトルは「緊縛入門」だった……ちらっと中身を見たが女性がいろんな縛られ方をしている……ミネルバ……何を目指している……? そしてそれをカレンが興味深そうに見ている。カレンだけは覚えてはダメだと思う……鞭、縄ときたら次は蝋……いくら強くても蝋術使いという人がいたら絶対にパーティに入れるのをやめておこう。完全に仕上がってしまいそうだ。


 俺たちは順調に東に進んだ。出てくる魔物がずっと脅威度Dでバロンとドミニクはダメージを受けてはいるものの大分余裕をもって倒しているような気がする。


 2時間ほど敵を倒しながら歩くと遠くの方になにかが見える。徐々に近づいていくと他のメンバーたちもそれに気づいた。


「なんだ……? あれは……?」


 バロンが呟くと、みんなの視線の先には100m先位に大きな壁があった。


 その壁は少し宙に浮いており、どこか見たことがあるような壁で、魔物達はその壁から湧いているように見えた。


「みんな慎重に! 特にあの壁を絶対に触ってはダメだ!」


 壁から湧いてくる魔物を蹴散らしながら壁の近くに行くと、どこかの迷宮の壁のようなものが空中に浮いていた。そしてその壁の上の方に1匹の蝙蝠が飛んでいる。


 徐々に壁と俺たちの距離が近くなると蝙蝠が急に姿を変えた。顔は少し赤い感じで牙があり、影が無かった……


「もしかしてヴァンパイア……?」


 クラリスは俺と同じことを考えていた。ヴァンパイアって顔白いイメージがあるが、それ以外の身体的特徴はまさにヴァンパイアだ。間違いなくこいつらが魔物を召喚? している。


 だが、ヴァンパイアって太陽の光を浴びると灰になるんじゃないっけ? 絶対に敵という事だけは分かったので俺は躊躇わず鑑定した。


【名前】ウピアル・バートン

【称号】-

【身分】魔族(吸血鬼)・バートン伯爵家当主

【状態】良好

【年齢】174

【レベル】51

【HP】252/252

【MP】504/620

【筋力】100

【敏捷】88

【魔力】88

【器用】44

【耐久】88

【運】1


【特殊能力】魔眼(LvMAX)

【特殊能力】体術(Lv8/C)

【特殊能力】火魔法(Lv7/D)

【特殊能力】門魔法(Lv3/F)

【特殊能力】HP回復促進(Lv7/C)


 やっぱりヴァンパイアか……ヴァンパイアって圧倒的な膂力ってイメージがあるのだが、筋力は思ったよりも高くなかった。それでも3桁超えていたが……それに門魔法ってなんだ? 初めて見る魔法だ……だが門魔法次第だがステータスが高いが勝てないこともないかもしれない。


 俺は雷鳴剣と火精霊の剣サラマンダーソードを抜き構えると【黎明】メンバーも警戒心を高めた。


「ここで何をしている!?」


 俺がウピアルに対して尋ねると少しずつウピアルがこちらに向かって歩いてくる。ウピアルが壁から離れると壁が空中から消えた。


 そして俺を睨みつけると一気に距離を詰めて鋭い牙と爪で襲い掛かってきた。風纏衣シルフィードを全開にして雷鳴剣に魔力を込め、ウピアルの爪を斬った。


「魔眼が効かない……? 学生で私より魔力が高いのは考えられない……特殊体質か……?」


 ウピアルがそう言うと斬ったはずの爪がもう再生していた。


「みんな下がってくれ! こいつは俺が倒す!」


 俺がそう言うと【黎明】と【創成】のメンバーは警戒しながら後退する。


「私を倒す? 学生如きが?」


 ウピアルはそう言うと今度はフレアを唱えて俺に放ってきた。そしてウピアル自身も一緒に俺に襲い掛かってくる。


 フレアをウィンドインパルスで吹っ飛ばし、ウピアルを迎え撃つ。


 今度は未来視ビジョンも発動しながら戦った。



 ウピアルは戦闘経験がとても豊富なようで、予想外の攻撃をかなりしてきた。


 爪での攻撃を剣で弾こうとすると爪が縮んで剣を通り過ぎた時にまた伸びてきて俺の頬を爪が掠めたり、俺が確実に捉えたと思ったのにその瞬間無数の蝙蝠になって回避したり……ただし蝙蝠になるのは緊急回避らしくてそこまで多用はしてこなかった。恐らく蝙蝠になると攻撃手段が限られるのであろう。


 ただどう考えても今押されているのは俺だ。


 敏捷値がウピアルの方が高いので全開の風纏衣シルフィードでは躱しきれず何度か神威カムイを使って俺も緊急回避をしている。神威カムイは爆発的なスピードを得られるがそのたびに体にダメージが入る。神威カムイを使うたびに俺は自身にハイヒールをかけなければならなかった。


 何度もウピアルは俺に猛攻を仕掛けてくるが、戦いながら分かったことがある。それは俺のウィンドカッターが予想以上にダメージを与えられないのだ。


 何度も俺の無詠唱ウィンドカッターがウピアルを捉えるが腕を斬り飛ばしたりは出来ない。


 そしてHP回復促進によって戦闘中にHPが回復されてしまう……


「その剣術にして無詠唱風魔法……学生にしては過ぎたる力だ……だが俺の敵ではないな! 俺はお前の剣にだけ気を付けていればほぼダメージを受けることはなさそうだ。今俺の配下になるのであれば、許してやる。カミラ様へもいい報告ができるしな」


 カミラ様? こいつの上の者か……それにウピアルの言ったことは正しい。では効果的なダメージを与えることができなさそうだ。


 ウピアルの攻撃がどんどん激しく大胆になっており、もう完全に俺の風魔法は食らってもいいと思っているようだ。


 ウィンドカッターで10〜20のダメージを与えても剣戟を重ねているうちにウピアルのHPは満タンになっている……これでは埒が明かない……全力で雷魔法を使って戦わないと勝てないことを悟った俺は


「クラリス! もっと下がって結界を!」


 俺がクラリスにそう言うとクラリスは俺が何をするか分かったようだ。全員をもっと後ろに下げてクラリス自身は先頭に立ち結界魔法で結界を張る。



 俺とウピアルの戦いは佳境に入っていった。


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