第116話 レッカ

2030年9月10日 正午


 俺が目を覚ますとすでにイザーク騎士団の姿はなく、烈火騎士団と思われる騎士団がいた。


 どうやら烈火騎士団とイザーク騎士団は水槽を中心にして左右に分かれているらしい。


 俺たちが寝ていた方には誰もいなく、水槽の反対側に烈火騎士団の団員と思われる者たちが腰を下ろしていた。


 イザーク騎士団とは違いかなり軽装だ。騎士団と言うよりかは魔術師団という感じだ。



 カレンはまだMP欠乏症で寝ている。俺はいい加減お風呂に……いや水浴びでもいいからしたかったので、イザーク騎士団側のほうで軽くシャワーみたいに魔法を使い、身を清めた。


 少し水の出力が強くなっている……もしかしてと自分のステータスを確認すると……



【名前】マルス・ブライアント

【称号】雷神/風王/聖者/ゴブリン虐殺者

【身分】人族・ブライアント伯爵家次男

【状態】良好

【年齢】10歳

【レベル】27

【HP】70/70

【MP】7240/7881

【筋力】67

【敏捷】67

【魔力】86

【器用】66

【耐久】59

【運】30


【固有能力】天賦(LvMAX)

【固有能力】天眼(Lv9)

【固有能力】雷魔法(Lv8/S)

【特殊能力】剣術(Lv9/A)

【特殊能力】火魔法(Lv3/E)

【特殊能力】水魔法(Lv3/E)

【特殊能力】土魔法(Lv4/D)

【特殊能力】風魔法(Lv9/A)

【特殊能力】神聖魔法(Lv7/B)


【装備】雷鳴剣

【装備】火精霊の剣サラマンダーソード

【装備】偽装の腕輪



 水魔法の才能が上がりレベルが3になっていた。これだけ水魔法ばかり使っていれば上がるよな……そしてなぜこんなにMPが減っているのかと言うと、俺が自分で水浴びしたのもあるが、カレンに安心してお風呂に入ってもらうために迷宮で作ったようなお風呂とパーテーションを作ったからだ。


 体をある程度さっぱりさせると俺は急いで烈火騎士団が休んでいるところに向かうと、すでにブラムが烈火騎士団の所でお酒を振舞っていた。


「すまないブラム。今起きた。烈火騎士団の騎士団長に挨拶したいのだが案内してもらえないか?」


 正直、もうそろそろブラムに対しては敬語で話そうと思っている。もうそろそろいいだろう。まぁ俺が15歳になったらまた口調が変わると思うのだが……


「おはようございます。マルス様。分かりました。早速案内いたします」


 ブラムはお酒を振舞っていた騎士団員たちに事情を話し少し離席すると伝えると一番大きい赤い天幕が張ってある所まで案内してくれた。


 ちなみにイザーク騎士団の天幕の色は黒で烈火騎士団の天幕の色は赤だ。


「ここに烈火騎士団長のレッカ様がいらっしゃいます。私は先ほどの所に戻ります。また何かありましたらお呼びつけください」


 俺は天幕の外から大きな声で挨拶をした。


「失礼します。レッカ騎士団長。リスター帝国学校から補給物資を届けに来たものです。中に入ってもよろしいでしょうか?」


 俺がそう言うと天幕の中から「入れ」と言われたので天幕に入ると、1人の小柄な男が座っていた。この人がA級冒険者に最も近いと呼ばれるレッカか……


「初めまして。僕はリスター帝国学校Sクラス序列1位のマルス・ブライアントと申します。先ほども申し上げましたが、物資の補給をしに参りました。何か必要なものはございませんか?」


 俺が腰を折りながらそう言うと小柄な男は


「ご苦労。俺は烈火騎士団騎士団長レッカ・リングだ。お前の事はイザーク辺境伯から聞いている。とても優秀な水魔法使いなんだってな。まずは飲み水の確保が最優先だったが、兵士たちも休ませてやりたい。イザーク辺境伯が温水を降らせたと言っていたが、まだ出来るか? 火魔法使いは沢山いるから温度調整の事は心配しなくていい」


 あ、俺は水魔法使いと認識されているのか……まぁあれだけ水ばっかり出してればそう思うよな……


「分かりました。それでは火魔法で調節の方をお願いします。いまから大浴場に行きますが、イザーク騎士団がやったように皆さんにも協力をして頂きたいのですがよろしいでしょうか?」


 俺はイザーク騎士団が自発的に行ってくれた事をレッカに言うと快く受け入れてくれた。


 俺は大浴場でイザーク騎士団にやった事と同じことをすると烈火騎士団のメンバーはとても喜んでくれた。


 水魔法のレベルと才能が上がったせいか消費MP5に対して水が出る量が若干増えたような気がする……


「お前は凄いMPの持ち主だな……いくら水魔法が得意だからと言ってもこれだけの量の水は……」


「いえ……もうMP枯渇しそうでクラクラしております。飲み水を補給したらまた寝てしまってもよろしいでしょうか?」


「ああ。ご苦労だった。話したい事はまだ山ほどあるが、また6時間後によろしく頼む」


 俺は3時間後でも大丈夫と言おうと思ったのだが、そう言えばこの人たちも寝るんだなと思って俺はそのまま下がった。


 底が見えかけていた飲み水用の水槽に全てのMPを注ぎ込んで俺はカレンがいるベッドの所まで行って床で寝ることにした。流石に俺からは一緒のベッドで寝ることは出来ないからね。


 夕方ごろ起きるとカレンはすでに起きていた。


「おはよう? カレン。お風呂に入らないか?」


 携帯食を食べているカレンに話しかけるとカレンが


「おはようマルス。さすがにお風呂に入りたいわ。お願いできる?」


 嬉しそうに俺の言葉に応える。


「ゆっくりしていてくれ。こっちのイザーク騎士団がいる方には誰もいないと思うから覗きの心配はないと思う。俺は水の補給をしてくる」


 俺がカレンにそう言うとカレンが


「イザーク騎士団と烈火騎士団にそんな輩はいないわよ」


 笑いながら答えた。俺はまた飲み水用の水槽の前にきて飲み水用の水槽を満タンにした。


 装備洗浄用の水槽はあまり減っていなかったので俺はようやく予備の水槽に水を溜める事が出来た。これを4つ満タンにすればとりあえずクエスト完了だ。


 俺はMPを500ほど残して寝床に戻った。取り敢えず俺も風呂に入りたいのだ。


 天幕の外からカレンに対して声をかけとカレンはもう風呂から出ていて服も着替えたというので、俺も天幕の中に入ってお風呂に入った。


 やっぱりお風呂は最高だ。久しぶりのお風呂を堪能するとある事に気が付いた。ブラムは水浴びもお風呂にも入っていない。


 急いで俺はブラムを呼びに行ってお風呂に入ってもらう。ちなみに俺が入った後に風呂水は新しくした。


 俺は最後のMPをふり絞ってカレンの髪の毛を乾かして本日何度目かのMP欠乏症になった。



 起きると今までにない心地よい感触で目が覚めた。なんだろう……この枕は……すべすべしていて気持ちいいし、匂いもとてもいい匂い……ローズのような匂いがする。


 俺はMP欠乏症を繰り返し過ぎて疲れていたのか頭があまり回っていなかったらしい。


 カレンの膝枕で寝ているという事に気づいたのは5分くらい経ってからであった。や、やべ……肌触りが気持ちよかったので何度も頬を擦り付けてしまった。それにいい匂いだったので何度も嗅いでしまったし……


 俺は今起きましたよというようなふりをしてカレンに「おはよう」と言うとカレンが「本当にずっと寝ていた?」という顔で俺におはようと言ってくれた。本当にごめんなさい……もうしませ……


 今がだいたい17時くらいで烈火騎士団の人達が起きるのにあと2時間といったところか……俺は軽食を軽く食べあまり減っていなかった飲み水用の水槽と、装備洗浄の水槽、予備用の水槽の計3つを満タンにした。


 まだ烈火騎士団員たちが起きる時間ではないのでカレンの所に戻り、しばらくカレンと雑談をしていると南の方から早馬がやってきた。


 その手紙は城塞都市イザークにいるイリーナからのもので受け取るとカレンが封を開けた。


 補給の水の目途がたったから明日10台の馬車でこっちに送るというものだった。


 これで俺たちの最初のクエストは終わったな……リーガン公爵には死の森の間引きの手伝いと言われていたが、現場では全く違うことを求めてくるのは仕方のないことだろう。本当はレッカと手合わせをしたかったのだがそれも仕方ない。



 19時を過ぎたのでカレンと一緒にレッカの所に向かった。ちなみにまだブラムは寝ている。


 レッカの天幕に声をかけるとまた「入れ」と言われたので入ると、レッカは優雅に飲み物をすすっていたがカレンの姿を見るとすぐに片膝をつき


「大変申し訳ございません。カレンお嬢様。まさかカレンお嬢様がこのような場所に来ているとは思わず失礼な態度とってしまいました」


「いいわ。レッカ。椅子に座りなさい。こんなところで疲れを残すわけにはいかないわ」


 カレンがそう言うとレッカは素直に従って椅子に座ると、俺たちも用意されていた椅子に腰を掛けた。


「カレンお嬢様はどうしてここに?」


「パーティリーダーでクランマスターのマルスの指示よ。でもここに来られてよかったわ。少しだけど過酷さが分かったわ。本当はお酌をしたいのだけれどもこれから死の森の警備だから、今度機会があったらお酌をさせてもらうわ」


 カレンが俺を立ててくれたようだ。そして騎士団を労っている。するとレッカが


「カレンお嬢様がお酌をして頂けるのであれば、多少であれば飲んでも構いません。出立前にお願いできますでしょうか?」


 うん。分かっている騎士団長だな。


「分かったわ。あとはマルスから伝達事項をお願い」


 カレンが俺の方を見て言うと早馬の伝令から渡された手紙をレッカに渡した。


「それは私が独断で開封したものだから気にしないで」


 カレンが言うとレッカは頷き手紙を読むと


「正直マルスが昨日来ていなければ我々は今日引き返すつもりだった。こちらでも遠征する際は水魔法使いと土魔法使いを10名ずつは連れてくるのだが、どうしても補給が途切れると前線を維持できないからな。本当に水の補給は助かった。我々に何かできる事は無いか? まぁ前線にいるから今何かをしてくれと言われても無理だがそのうち恩を返すことが出来るかもしれないしな」


「いえいえ、僕たちはクエストで来ただけですから……あっ1つだけお願いしてよろしいでしょうか? レッカ様を鑑定させて頂いてもよろしいでしょうか?」


 俺のお願いにレッカは「問題ない」と言ってくれたので鑑定した。



【名前】レッカ・ビスタム

【称号】-

【身分】人族・ビスタム男爵家当主

【状態】良好

【年齢】26

【レベル】52

【HP】122/122

【MP】284/284

【筋力】48

【敏捷】49

【魔力】98

【器用】60

【耐久】45

【運】1


【特殊能力】棒術(Lv6/D)

【特殊能力】火魔法(Lv7/C)

【特殊能力】土魔法(Lv5/D)


【装備】火精霊サラマンダー三節昆

【装備】烈火の法衣

【装備】火の腕輪



 これがA級に近いと呼ばれる男のステータスか……確かに強いがガスターと比べると見劣りする。もしかして俺でもA級になれるのか?


 あと初めて棒術というものをみた。三節棍? たしかバンダナを捲いている人がくるくる回してるやつだっけ……まぁ火と相性はよさそうだな……


「どうだ俺のステータスは?」


 レッカが尋ねてきたので


「リーガン公爵から聞いていた通りでした。A級冒険者に近いと呼ばれる理由が分かりました」


 俺が答えるとレッカは笑いながら


「そうだな。A級冒険者には近いかもしれない。だけど近いだけでA級冒険者になれる実力はない。それは俺が一番よく知っているつもりだ」


 ん? どういう意味だ? 俺の表情を読んだのかレッカは続けた。


「もしA級冒険者を目指すのであればA級冒険者の誰かを倒さなければならない。A級冒険者は100名までと決まっているからな。今A級冒険者の下位の序列の者でも化物みたいな強さだ。だから俺は誰かが死ぬまではA級冒険者にはなれないし、なれた所でB級冒険者と指名試合をされてB級に落ちる可能性が高い。俺がA級冒険者に近いと呼ばれているうちは誰もA級冒険者にはなれないだろう」


 A級の下位とそれだけの差があるのか……では俺もまだA級にはなれないか……


「教えてくださってありがとうございます。これから僕たちは城塞都市イザークに戻って現在東から襲来している魔物の事を調べに行きます。もしもそれが終わり、時間的に猶予がありましたら、僕たちも一度死の森へ行ってみたいのですがよろしいでしょうか?」


 もう1つお願いしてみるとレッカは厳しい顔をして


「水の件は本当に感謝をしている。だが死の森へ行くのは実力があるものだけだ。マルスはその実力があるか?」


 ここで引いたら死の森へは行けない。別に行かなくてもいいのだが、レッカとイザークの戦い方を見てみたい。


「では1つ魔法を見ていただけますか?」


 俺がそう言うとレッカは頷いた。するとカレンが


「レッカ、マルスは本当に強いわ。試す必要なんて……」


「カレン、いいんだ。俺はレッカ様に見てもらいたい」


 カレンの言葉を俺が遮るとカレンはしぶしぶ頷いた。俺たち3人は天幕から出るとレッカの後を追って開けた場所に移動した。

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