第58話 アント掃討作戦
バーンズと話し合った後、俺は家に帰ってジークに報告した。
「そういうことか……難しいな。俺はマルスが神聖魔法を使えるということを教えるのは反対だ。バーンズ様ももしかしたら俺と同じ考えなのかもしれない。
もしそのエリーというライオンがバーンズ様にとって最も大切な者であるのであれば、アルメリアの事よりもエリーを選ぶだろう。そのエリーのためにマルスをどう扱うかなんて想像に容易い。やはり市街戦を選択する他はないか……」
「そうですね。ただ市街戦となるとどのタイミングで迷宮から撤退をするかも重要となります。少しでも迷宮で粘れればアルメリアの街に被害を及ぼす可能性も低くなりますし……」
「そうだな。できればこの判断は父さんがしたい。特に今回の迷宮参加者のほとんどはイルグシアの人間だからな。イルグシアの住人の命を他人に任せるというのは、ちょっとな……
だが結局撤退判断はカーメル辺境伯かラルフが決めるのだろうが、少しでも口を挟めるようになんとかしてみる。1つ聞きたかったのだが、マルスはどの程度の脅威度の魔物を倒せる?」
「うーん……僕1人であれば脅威度B-の敵で相性次第で勝てるという感じですかね……僕は1人の強敵よりも大量の雑魚敵を相手にする方が得意だと思います。恐らくバーンズ様は僕の逆かと思います」
「マルスでもB-か……敵はどのくらいの強さだと思う?」
「一番弱い蟻ですら脅威度Dだと思います。ゴブリンで考えると一番弱いゴブリンが脅威度G、一番強くてC+です。そう考えると最低でもC+よりも強いのは確実かと。僕の考えでは脅威度B以上だと思っております」
「それは……やはりバーンズ様は必須か……分かった。今日はもうご飯にしよう」
ジークの言葉に倣い俺たちはみんなで夕飯を食べた。
「明日の為に少し迷宮に潜らないか?」
ジークが俺たちに言った。
「はい。別に構いませんが……今からですか?」
「ああ。今からだ。黒い三狼星の3人は明日に備えて家で待機しておいてくれ」
ジークがそう言うと俺たちは迷宮に潜った。
「お前たちの実力を正確に確かめたいと思ってな」
ジークが俺とアイクとクラリスを見てそう言った。
「どうすればいいのですか?」
アイクがそう言うとジークが
「お前たちの最大火力を見せてほしい」
「わかりました。では私からでいいでしょうか? 私は特にこの中で一番火力はないので」
そう言うとクラリスは通路にいたロックリザードに最大出力で魔法の弓を構え、ロックリザードの鱗を矢が貫通した。ロックリザードはまだ生きているが、当たり所が良ければ即死させていただろう。
「弓でこれだけの火力が出せるのか。凄いな」
「ただこれは魔力を全力で込めているので何発も射てないです」
「では次は僕がやります。まずは魔法から」
アイクがそういうとロックリザードの群れに「フレア」と叫んで赤白い炎の塊を飛ばした。
魔法が発現するのにかなり時間がかかるが、かなりの威力でロックリザードたちが2、3秒で丸焦げになった。
「僕の場合は魔力が低いからか、炎が燃え広がらないです。マルスくらい魔力が高ければフレアで蟻たちを焼き殺す事も可能だったかもしれませんが……次は槍です」
アイクは少し進んで別のロックリザードの群れを見つけると
ロックリザードの鱗の上からでも貫通する刺突を見てジークとマリアが
「攻撃力も高くなっているが、前よりも動きが鋭くなっているな」
「ええ。ここまでの槍使いは見たことないわね」
アイクが戻ってくると、俺を見ながら
「今度はマルスの本気を見せてくれ。俺はマルスの本気をまだ見たことがないからな」
と少し期待した様子で言ってきた。俺はみんなに
「僕の本気は……僕はまだみんなに見せたことが無い魔法があります。それは僕がまだ扱いきれなくとても危険なものです」
「風魔法の最上級魔法を使えるようになったのか!?」
「いえ……風ではないです。もちろん風魔法も得意ですが、それ以上に威力が高い魔法があります」
「なんだと!? 火か水か土か?」
ジークが大きな声で叫ぶように聞いてくる。マリアとアイクも驚いた顔をしてこちらを見ている。
「火でも水でも土でも風でもありません。雷魔法です」
クラリス以外の全員言葉を失っている。少しの沈黙が流れると
「か、雷魔法って……初めて聞いたぞ……本当にそんな魔法があるのか?」
「はい。バーンズ様と初めて会った時に使えるようになりました」
「そ、そうか。それでは見せてくれ」
「はい。ですが先に耐性を見せて頂いてもよろしいでしょうか?僕はまだ雷魔法を制御できません。もしもクラリスみたいに耐性があれば僕も緊急時に躊躇わず雷魔法を放てますので」
俺は最小出力の纏雷を発動させアイクの手に触れた。
『バシィィィィンンンン!!!』
俺とアイクの手が触れそうになると俺に纏っていた金色の雷がアイクを襲った。
「ぐぁっ!」
クラリスが即座にヒールをかけてアイクのダメージを回復させる。しかし感電は治らない。
「ダメージは回復したが、まだ手の感覚がないな……これで最小出力か?」
「はい。今の所これが最小出力です。といっても本当に気持ち程度しか抑えられてないかもしれませんが……」
「クラリスはこの魔法に触れても平気なのか?」
ジークがクラリスに問うと、俺は纏雷を纏った状態で、クラリスの手に触れる。すると触れられたクラリスの手の部分が金色に光る。
「耐性があるというか……これは何というのでしょうか? 弾くとかいうよりも体の中に入ってくるというか……なんとも言えませんが、少なくとも私に害はございません」
「どうしましょうか? 今の纏雷という魔法は言ってみれば防御魔法のようなものです。あとはライトニングという雷魔法があるのですが、これはあまり制御できないので、下手したらどこに飛んでいくか分からないのです。だから
「そうか、だからマルスはクラリスと2人で迷宮に潜っていたのか……俺はてっきりデートでもしているのかと思っていた……すまんなマルス」
アイクがそう言ってきた。やはりアイクにもバレていたのか……
「いえ、もう少し制御できるようになったらアイク兄にも報告しようと思っていたのですが……黙っていてこちらこそ申し訳ございませんでした」
「うん。それでマルス。この感覚が無いのはどうやったら治るのかな?」
アイクがそう言って感電している手を差し出してきた。
俺は纏雷を解いてアイクの手に触れると金色の光が俺の手に戻ってきた。
アイクは自分の手を見ながら感覚を確かめるように、グーパーしながら言った。
「……これは……凄い……雷魔法か……」
それを見ていたジークが
「問題はこれを使う場面が限られるという事か……」
「みんなもう帰りましょう。明日が本番よ。少しでも体を休めなきゃ」
マリアがそう言い俺たちは家に戻って明日に備えた。
☆☆☆
アルメリア迷宮、アント掃討作戦当日。俺はバーンズに言われたようにバーンズの元へ向かった。
ジーク、マリア、アイク、蒼の牙、赤き翼、黒い三狼星は先に迷宮に向かう事になった。
1層最深部までの敵をあらかじめ1匹残しで進んで俺が合流したらすぐにでも戦えるようにだ。
クラリスだけは俺と一緒に迷宮に潜るため、カーメル辺境伯と一緒に奴隷商の前で待機している。
ちなみにジークがカーメル辺境伯を守る余裕がないと言って、同行してもらうのを遠慮してもらった。
またギルドマスターのラルフにはこの街の冒険者を迷宮に入らせないように、また市街戦の時の為に、迷宮の外でこの街の冒険者と一緒に待機してもらうことになった。
これはジークが撤退の判断を決めるために考えた手だ。
カーメル辺境伯とラルフがいなければ必然的に撤退の判断はジークがすることとなる。
俺はバーンズの所に行くと早速バーンズが
「おい、この子を見定めてみよ」
そう言ってエリーと呼ばれているライオンを連れてきた。
俺は「分かりました」と言って鑑定すると
【名前】エリー・レオ
【称号】-
【身分】獣人族(獅子族)・奴隷
【状態】呪い
【年齢】6歳
【レベル】1
【HP】18/18
【MP】6/6
【筋力】5
【敏捷】6
【魔力】2
【器用】1
【耐久】5
【運】10
【固有能力】音魔法(Lv0/C)
【特殊能力】体術(Lv1/B)
な、なんだこいつ……
固有能力って転生者以外でも持っているのか?それともこいつも転生者か?
それにやはり状態が呪いとなっている……
目の状態も悪そうだし……これでHPはMAXなのか……
「見定めさせて頂きました」
「どうだ? エリーは。何か分かるか?」
「呪われているという事は分かりましたが、それ以外は何も……」
俺はエリーが音魔法の才能があるのを隠した。バーンズが知ったらどうなるか分からないからな。
「そうか、分かった。あと今回の迷宮の件だがな、俺はやはり潜らない」
「そう……ですか……」
「だが、積極的に街の防衛はしよう。ただしこのエリーを安全で俺の視界の届くところに置いてもらう。いいか?」
「僕には決定権がございません。近くにカーメル辺境伯がいらっしゃいますので、辺境伯に聞いてみます」
俺はそう言って外にいるカーメル辺境伯を呼んでバーンズの話をすると辺境伯はバーンズの要求を当然のように呑んだ。
バーンズが迷宮の外で確実に待機してくれるというのであれば、かなり勝算が高いと思われる。
俺はクラリスと共にジーク達の待つ迷宮へ向かった。
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