第二伝 二度目の会敵
スケバンは一人一つ特殊な能力を所持している。
二香であれば、居合の構えを取っている最中にはどんな攻撃にでもカウンターを当てることができる能力、等である。
しかし、瑠衣は能力を所持していない。
無能力者だが、無能ではない瑠衣。
が、それも兄の影響で異様に喧嘩が強い程度。
では茨の道である最強のスケバンを志したのは何故───。
少女には、振り向かせたい少年がいた。
瑠衣と二香のスケバン勝負に決着が付いてすぐの事。
「ったく、瑠衣のやつどこ行きやがった? まさかこんな離れの剣道場に居るわけじゃないだろうな」
ボタン全開の学ランを着た少年が一人、剣道場の引き戸をガラリと開けようと、戸に手をかけていた。
少年の名は、
下を見ると黒色のローファーが二足、綺麗に並べられているのが一足と恐らく脱ぎ捨てられたであろう散らかっているのが一足。
「…あー、こりゃ居るわ」
取り敢えず、散らかったローファーを綺麗に並べて、自分の白のスニーカーも並べると、中へ足を踏み入れた。
丁寧にも一礼してから道場へと上がる。
「失礼しま~す、瑠衣ー! どうせまた喧嘩でも───おっいたいた、っておいその人どうした!?」
中へと入った八雲の目に映ったのは、口から血を流しながら倒れている袴姿の女生徒とその横で座っている幼馴染の姿だった。
慌てて駆け寄り瑠衣に事情を聞こうとする。
「どういう状況だこれ、瑠衣、一応聞いておくがお前がやった訳じゃないよな? 入学初日からハメを外しすぎるなんて事は中学で卒業したよな?」
「私がやったけど」
あっけらかんとそう答える瑠衣に思わず頭を抱える八雲。
「おいおい嘘だろ…せめて初日は大人しく過ごすって朝約束したじゃん…」
「そんな約束した覚えないし、なんなら私からじゃなくて二香から仕掛けて来た勝負だぞ」
うるさいヤツが来たと溜息をつきながら瑠衣は答える。
「う…そ、そうなのか、俺が悪かった、瑠衣から仕掛けた訳じゃないなら良いんだ。いや、良いのか?」
日頃の行いから瑠衣が悪いと決めつける八雲だが、瑠衣から否定されあっさりと引き下がった。
「それでこの人は一体どこのどちら様なんだ?」
そう言われ、黙って二人のやり取りを見ていた二香がふらつきながらゆっくりと起き上がろうとすると、横から瑠衣が体を支えた。
「ほら、もう大丈夫か?」
「ええ、ありがとう瑠衣。そちらの方は瑠衣の知り合いかしら? 初めまして、ごめんなさいね、こんな姿で…私の名前は白鳥二香よ」
瑠衣の肩を借りている状態で申し訳無さそうにする二香。
「どうも、俺の名前は文月八雲です。よろしく」
八雲がスっと手を二香の前に差し出すと二香もそれに応じ空いている手で握手を交わした。
それをじーと眺めていた瑠衣だったが、「ハイやめやめ!」と間に割り込み二香を八雲から引き離す。
「もう立てるよな! ほら、肩貸してやるからさっさと保健室行くぞ!」
「い、いや私はこのままでも───」
「いいから行くぞ!!」
強引に話を終わらせ二人で歩き始める瑠衣に八雲は慌てて声をかける。
「お、おい待てよ! 俺を置いてくなって!」
「…その木刀私のだからちゃんと持ってこいよ!」
「え、これの事か?」
瑠衣からそう言われ、足元に転がっていた木刀を手に取る。
暫く眺めていると、いつの間にか二人の姿が消えている事に気付いた八雲は、何なんだよ…とボヤきながら二人の後を追った。
「だいたい瑠衣、保健室の場所なんかちゃんと分かってるのか?」
八雲は歩きながら瑠衣に問いかける。
「分からないけど、二香に聞けば分かるだろ、な?」
二香に肩を貸しながら歩いていた瑠衣が二香の顔を覗き込む。
諦めた様な顔をしていた二香が溜息をつきながら口を開いた。
「保健室は本校舎の昇降口を入ってから左に曲がった所よ」
「ほらな?」
ドヤ顔で振り返る瑠衣に若干イラッとくる八雲だが大人な対応で流す。
「ま、分かってるならいいさ、それよりも───あの人瑠衣の知り合いか?」
不意に、八雲は持て余していた木刀で前を指した。確かに瑠衣達の10m程先に、行く手を阻む様にポケットに手を突っ込みながら立っている女生徒がいた。
背が高く、男物の長ランを身にまとい、学帽を被っている。
明らかな男装だったが、それでも女と分かったのは学帽から伸びる茶色の交じった長髪のせいだろう。
口には茎ごと折った草をたばこの様に咥えている。
異様な光景に三人の歩いていた足が止まった。
「…いや、私は知らないけど、二香の知り合いか?」
「いえ、私の知り合いでもないわ、別に私たちを待っている訳じゃないのかも知れないし…横を通り過ぎましょう」
「二香さんの言う通りだ、さっさと行こうぜ」
八雲が頷き再び歩き始める。当然、歩いていくと段々と距離が縮まる。
「…どう見ても俺達の事見てないか? 俺なんかもう十回位目が合ってるぞ」
「…もしかしたら彼女は…」
そこまで二香が言いかけた所で不意にその女生徒が話しかけてきた。
「お前たちスケバンか?」
ピクッと瑠衣と二香が反応し、歩みを止めた。女生徒は続ける。
「白鳥二香を探している。勝負がしたくてな、知っているか?」
顔を見合わせる瑠衣一行。一番最初に沈黙を破ったのは八雲だった。
「…あー、白鳥二香は俺だ」
「「「えっ」」」
あっさりと親指で自分自身を指す。もちろん、瑠衣、二香、女生徒が驚いたのは言うまでもない。
「ま、まさかスケバンなのに男だとは思わなかった…」
学帽のつばを指で抑えながら露骨に驚いていく女生徒。
「…だが、出会ったからには勝負を受けてもらう。私の名は
そこまで言うと愛宕はプッと咥えていた草を飛ばした。
それが合図だったのか、愛宕は突然八雲に向かって襲いかかった。
「こちらは先手必勝でやらせてもらう!!」
「ちょ、いきなりか!」
既に愛宕の手には指だけ出ているグローブがはまっていた。そのまま右手を大きく振りかぶりパンチを放つ。
慌てて八雲は、持っていた木刀を両手に持ち変え側面でその攻撃を受けた。
「なッ───!?」
が、その時愛宕の拳が木刀に当たる直前に不自然な軌道を描いて木刀をすり抜けた。
本来有り得ない角度に腕が曲がり、そのまま拳が八雲の顔面目掛けて飛んできたが、すんでのところで右に頭を振り、避ける。
「なっ…何だ今の動き…?」
「一発目から外れたか」
初撃を外した愛宕だが、意に介さず拳で追撃を放った。
咄嗟に後ろに飛んで回避する八雲。
「危ねぇな、最近の女子ってのは皆こんなにアグレッシブなのか?」
「白鳥二香…スケバンの癖に逃げ回ることしかできないのか?」
愛宕のセリフに二香の顔がピクピク引き攣ったが、それを瑠衣がどーどーと落ち着かせた。
八雲が木刀を肩に乗せ頭を搔く。
「なぁ瑠衣、この…愛宕さんだっけか、この人は俺に任せてさっさと保健室に行ってこい」
シッシッと八雲は手を振る。
「他人の心配をするよりもまずは自分の心配をしたらどうだ?」
再び愛宕が拳を握りしめた所で瑠衣が口を開いた。
「愛宕、そいつはスケバンなんかじゃない、ただの不良だよ」
「…おい待て人聞きの悪い事を言うな」
八雲が小言を言うが気にせずに瑠衣は続ける。
「愛宕が探してる白鳥二香なら私がついさっき倒したよ、だからどうしても闘いたいって言うなら私が代わりに闘ってやるよ」
握っていた拳の力を緩め、瑠衣の方へと体を向ける。
「…ふむ、一足遅かったと言う訳か、いや待てじゃあこの男は誰だ?」
愛宕が親指で後ろの八雲を指す。
「だからただの不良だって」
「…あー俺の名前は文月八雲だ、よろしくな。騙した理由は…まあ言う必要もねえか」
八雲の自己紹介を聞いた愛宕は、成程と頷く。
「どうりで闘おうという気が見えない訳だ、それでお前が白鳥二香を倒したスケバンで良かったか?」
ピッと瑠衣に向けて指を突き出す。
「その通りだよ。それと八雲、私の代わりに二香を保健室に連れてってほしいんだけど」
愛宕の後ろにいた八雲にそう頼むと、少し悩んでから八雲は愛宕の横をすり抜け二香の体を支えた。
「俺はあんまり女子が傷付くのを見たくはないんだがな、いいか? 俺は言ってもどうせ止まらないから何も言わないだけだからな、二香さんを保健室に運んだらさっさと戻ってくるわ」
そう言ってから、木刀を瑠衣にほいと渡す。
「いや、別に私は寝てれば───」
「ヤバくなったら大声出せよ!!」
二香が何か言ったような気がするが、特に気にもとめず八雲は二香をお姫様だっこで抱え校舎へと走っていった。
「なッ!? ちょ、降ろしなさい!! やめて!! 恥ずかしいでしょ!!」
なぜか二香は顔を真っ赤にしながら八雲を突き放そうとするが、やはりうまく力が入らないのか八雲の顔をグイグイ押すだけになっている。
そのせいで八雲の顔が凄いことになっているが、特に気にする様子もなく校舎へと走る。
(瑠衣が負けるのは想像できないが…早く戻るに越したことは無いな)
「妙な仲間達だな…まあ折角邪魔者も居なくなった事だ、心置き無くやろう。それで、お前の名前は?」
八雲と二香のやりとりを見ていた愛宕が再び瑠衣に話しかける。
しかし、肝心の瑠衣はと言えば───
「…蓮水瑠衣だよ!」
なぜか怒っていた。
「…何を怒っているんだ?」
「怒ってない」
「いや確実に怒っているだろう!」
「怒ってない!!」
今、再びスケバン同士の闘いの火蓋が切られた!!
錯覚トリックアートスケバン、泉坂愛宕
VS
怒りの見習いスケバン、蓮水瑠衣
いざ尋常に、スケバン勝負!!
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