【2万PV達成】俺のアイドルはわがままだ

久瀬ゆこ

愛しているから会いに行く

【アイドルに枕営業を強要! ソロアイドル・加藤遥夏と大手芸能事務所・中村社長の息子が密会!】


「加藤さんの家に中村さんが入っていくところを撮った写真が、芸能界で出回ってニュースになったということですね。

 加藤さんに聞いたところ、“アイドルグループの売上が落ち込んでいることを理由に、自分を使って枕営業をしないかと強要された”と仰っていました。

  二人は同じ高校に通っていて、加藤さんは以前から何度か食事に誘われていたようです。この写真は、中村さんが加藤さんに預けていたハンカチを取りに家を訪れた際、撮られたものだと加藤さんは仰っています。

 中村容疑者には今後、警察から処分が下される予定です」


 どうしてこうなってしまったんだろう。

 近所の人間からは冷たい視線を送られ、高校にたくさんいた友達は俺を罵るようになった。俺が何もしていないことを信じてくれていると思っていた親からは、初めて呆れられた。

 

「あんたなんか産まなければよかったわ」


 俺のことを可愛がってくれていた母さんは、今まで見たことがないくらい俺のことを睨んだ。



「お前みたいなクズの父親だと思われたくない。金を渡すから高校を卒業したら出ていけ」


 父さんは、ゴミを見る目で俺を見下ろした。


「俺は、何も……」

「喋るな。お前の声を聞きたくない。喋るならお前の部屋で喋れ」


 俺の言い分を一切聞かずに、切り捨てた。

 制服のままベッドに寝転がって、いつもブレザーのポケットにいれている写真を取り出した。写真には、校内を背景に撮った遥夏とのツーショットが載っている。

 次にスマホをポケットから取り出して画面を開くと、遥夏からメッセージが届いていた。あんなに電話はメッセ―ジを送っても反応がなかったのに、今日、やっとメッセージが来た。

 急いでメッセージ画面を開くと、呆然と口を開けた。


「だましててごめん。でも怒らないで。これも会社のためなの」


 とりあえず、落ち着こうと思って目をつむった。

 聞きたいことがたくさんあったけど、頭の中を真っ白にしてキーボードに触れた。


「俺といた時間、どれが嘘でどれが本当なのか教えて」


 画面を閉じて、胸にスマホをあてた。強く押し当てた。


ピロン♪


 今の俺の感情には似合わない通知音が部屋に響いた。ゆっくりスマホの画面を開いてメッセージを読む。


「あなたといた時間は全部嘘。あなたなんて好きでもなんでもない」


 ゆっくり口をつぐんだ。

 胸が痛い。喉がしめつけられているようだった。

 学校で虐めに遭うよりも、両親から蔑まれるよりも辛い。


「っ」


 それでも俺は、絶対に涙を流さなかった。

 遥夏がこんなこと言うわけない。

 遥夏はそんな人じゃない。人を騙すような人間じゃない。


 この時、俺は決めた。

 やっぱり、遥夏に会いに行って確かめよう。

 今の俺では会ってもらえないと思う。事務所に行ったら追い出されたし、警察にも見張られているから。

 でも絶対、遥夏に会いに行く。


 もう一度、スマホを胸にあてて握った。



「信じてる」



 愛しているから信じてる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る