農民だからと冤罪をかけられパーティを追放されましたが、働かないと死ぬし自分は冒険者の仕事が好きなのでのんびり頑張りたいと思います。
ぺぱーみんと
第1話
「あっそ、ならもういいわ。
死んで?」
目の前の少女はそう言うと、自分の頬を叩き、服の胸元をやはり自分で引き裂いた。
かと思うと、その場に尻もちをつくように座り込んだ。
そして、
「い、いやぁぁああ!!」
少女の悲鳴が森に響き渡った。
駆けつけてきたのは、俺が所属している冒険者パーティのメンバー達。
そして、目に入った光景に全てを悟りましたよと言わんばかりに、戦士職の青年がまず動いた。
俺へと殴りかかってきたのだ。
あー、もう、またこのパターンかよ。
俺はその拳を敢えて受ける。
それを皮切りに、他の少女を除いたメンバー二人も魔法やらスキルやらを使ってフルボッコしてくる。
おいおい、いくらなんでもこれは異常だろ。
殺す勢いだ。
いや、殺してもいいと心のどこかで彼らは思っているのかもしれない。
昔、母さんの本棚にあった小説に書いてあったっけ。
通りモノに当たった。
きっと、これがそれなのだろう。
そういう状況になったから、彼らは背中を押された。
そうして、俺は彼らに暴行を受けている。
まぁ、仕方ないのかなとも思う。
俺以外のパーティメンバーはみんな都会で生まれて育った者たちだ。
そして、俺は、俺だけはこのパーティの中にあって異質だった。
といっても、別に先祖のなかに魔族がいただとか、エルフやら他の種族の混血だからとか、そういった種類の異質ではない。
強いて言うなら、自分だけが農民出身だった。
それだけでしかないのだ。
俺は悲しくなった。
今度は、今度こそは身分に関係なく認めてもらえていると思っていたのに。
今度こそは、冒険者として冒険できると思っていたのに。
俺は、近くの木の影に隠れつつ幻影の俺へ暴行を加え続けるパーティメンバー達を見つめていた。
やがて彼らは、気が済んだのか、傷だらけになって倒れて動かない俺へ罵詈雑言を浴びせてきた。
耳を塞ぎたくなるような、口汚い言葉たち。
それらを聞き流す。
チクチク痛む胸を摩って、吐き気を堪える。
何度経験しても慣れないそれ。
信じてたんだけどなぁ。
やがて、暴力と口汚い言葉たちの蹂躙が終わる。
幻影の俺は、どこからどう見ても死んでいる。
そんな俺の身ぐるみを、パーティメンバー達は剥がす。
金目になりそうなものを持ち去る。
それらのほとんどが、その辺に落ちている小石や枝、葉っぱであることに誰も気づかない。
化かされたと気づいたとしても、彼らはそれを言いふらしたりなどしないだろう。
それはつまり、自分たちの恥を言いふらすことになるのだから。
俺の幻影の死体は、その場に放置される。
すぐにモンスターや野生動物が集まってきて食い散らかすだろうという、考えからだ。
「村八分も怖いけど、そもそも人がおっかない」
この世界は数多の怖いもので溢れかえっている。
もう、潮時なのかもしれない。
冒険者として活動するのを諦めるかどうか。
その時期にきているのかもしれない。
でも、まだ諦めたくない。
夢だったから。
ずっと、冒険をしたかったから。
俺は、元パーティメンバー達が立ち去るのを待って、幻術を解いた。
そこには、彼らが踏み荒らした地面だけが残っていた。
この世界で農民は底辺職として認知されている。
それも最弱の最底辺の不遇職だ。
その認知されるまでの歴史に一役買ったのは、実家の母も大好きな物語だ。
いろんな物語が世界には溢れている。
その中の英雄譚の多くで、農民は学もなければ能力もない存在として描かれている。
これが農民以外の層に浸透しているためか、現代であっても農民は読み書きも算式も出来ず、さらにスキルすら覚えられない無能ばかりと思われているのだ。
当然、農民出身で読み書きができるとあちこちで珍しがられるなんてざらだ。
それくらい、自称一般人の人達はなにも見ていない。
そして、それは、差別と偏見に繋がっていた。
迷惑な話である。
「はぁ、実家に帰って畑耕すかね。
でもなぁ、それだと早く結婚しろってつつかれるし」
帰るにしても嫁さんを連れて帰らないと、白い目で見られそうだ。
あと帰る金も工面しなくてはならない。お土産的な意味で。
転移魔法が使えるから、路銀は考えなくていいのだ。
帰る帰らないはともかく、当面の問題はやはり金だろう。
とにかく、先立つ物がなければ何も出来ない。
あ、でもそれよりもまず、死亡届け勝手に出される前に手続きしなきゃ。
今回の、理由はどうしよう?
「親切な龍神族の人に助けられた、でいいかな?」
いや、ここはエルフの方がいいか?
なにせ、森だし?
「いつも通り、かろうじて息を吹き返しました、その辺の薬草食べて回復しました、でいっか」
どうせ、受付の人も適当に処理するだろうし。
それくらい、農民に対する当たりはキツイのだ。
****
さて、どうするか。
困ったことになった。
冒険者ギルドの受付にて、一部始終を説明し終えた俺は、返ってきた言葉に途方に暮れてしまった。
「資格剥奪、ですか」
「えぇ、シンノウ・サートュルヌスさん。
シンさん、とお呼びしても?」
農民のくせに苗字持ちかよ生意気な、とばかりに顔をゆがめて初めて見る受付嬢は言ってきた。
あと言い難い名前だな、とも顔に書いてある。
ちなみに、農民が姓を持っていなかったのは今から百年くらい前までで、現代では普通に苗字を使っている。
「はい」
「資格剥奪に足る条件が、貴方には揃っています。
まず、経歴詐称、能力詐称、パーティメンバーへの暴力行為、そして、今回のようなトラブルが続いていることです」
「はぁ」
別に経歴も能力も詐称なんてしてないんだけどなぁ。
能力の鑑定だって、冒険者ギルドに設置してある専用の魔道具で鑑定したんだし。
そもそも、暴力行為やトラブルだって、俺から起こしたことなんて一度もない。
でも、世間じゃそう見てくれないようだ。
いい迷惑である。
とりあえず、否定してみるか。
「農民出身ってのは隠してないですよ?
それに、能力に関することだって、冒険者ギルドの測定器で測った結果じゃないですか。
詐称する意味も、技術も俺にはありません」
「口答えも言い訳も聞きたくありません!
とにかく、決定したことですので」
なんでこんな農民の相手なんてしなければならねーんだ、さっさと帰れ!
そんな態度だ。
しかし、ここでちょいと粘ってみる。
農民はバカしかいない、そう思い込んでいるのなら揺さぶれるかもしれない。
こっちも生活がかかっているし、俺は冒険者としてお金を稼ぎたいのだ。
だから、素直に引くなんて出来ない。
「あれ? そういう決定って資格剥奪までの期日を逆算して、早くて三ヶ月前、遅くても一ヶ月前の告知になるって聞きましたよ?
ってことは、ここで今告知されたってことは最短で一ヶ月後、最長で三ヶ月後に資格を剥奪されるってことでいいですか?」
受付嬢の表情が揺らいだ。
ふふふ、こう見えても実家の手伝いで商売の手伝いもしてたんだ。
契約書やルール確認は基本だからな。ぼったけられたりしないために。
そんな感情を表に出してたんじゃ、変な客の思いのツボだぞ。
「………っ!
いいえ!! 今すぐです!」
叫ぶように、受付嬢が言った時。
意外な助け舟が現れた。
「ふむ。話をきいていたが。
つまり、貴方のような受付嬢にその権限があるということか?
おやおや、それはおかしいな。
少なくとも資格剥奪のためにはギルドマスターを含めた複数の幹部のサインが必要だったはずでは?
こいつも言ったが、その手続きがあるからこそ月単位での時間がかかるはずだ。
ギルドマスターが交代でもしたのか?
いやいや、それにしたっておかしい。
この手続きは、ギルド連盟が決めたことだ。いち冒険者ギルドのギルドマスター程度じゃどうこう出来ない規則のはずだ」
男のような、少し固めの口調。
燃えるような赤い髪に同色の瞳。
鎧に身を包んだ、俺よりも三つ年上の女性が俺の横に立ってそう援護射撃してくれた。
彼女の登場によって、ギルド内がにわかにざわついた。
受付嬢も、彼女の登場と援護射撃は予想外だったようだ。
タジタジになる受付嬢を見てその女性は満足そうにすると、俺へ視線を寄越してきた。
「久しぶりだな、シン!
そして相変わらず、トラブルが絶えないようだ」
俺は苦笑する。
「いえ、エリィさんもお久しぶりです。お元気そうでなによりです」
エリィ・フォン・アテーナイエ。
それが彼女の名だ。
ちなみに十八歳にして、このギルド内どころかこの国内でも知らない人はいないほどの有名人である。
いわゆるSSS級冒険者の一人だ。
代々、戦争が起こる度に戦果を残してきた貴族の家の出だ。
「しかし、シン。
経歴詐称とはなんのことだ?
それに、能力詐称とは??」
俺は苦笑するしかない。
「それが、俺にもさっぱりで」
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