【07】

 人形の怪異の依頼があった次の日、俺と高木は事務所に戻っていた。

 事務所に着くと、高木は一目散に自室のベッドに向かった。

 よほど疲れていたのだろう。


 公園での一件の後、高木は夜通しで和也さんと真冬ちゃんの通訳をしていた。

 和也さんは、楓さんの犯行に気が付かなかったことを真冬ちゃんに何度も謝っていた。

 他には、昔話、これから1週間どこへ遊びに行きたいか、など色々なことを話していた。


「東雲さんに今回の事件を電話で報告しておけ。あと、警察に連れていかれた楓さんには記憶処理が必要って言っておいてくれ」

 自室に戻る前、高木が俺にそんなことを話してきた。


「記憶処理……?なんだそれ?」

「東雲さんに聞けばわかるよ」

 高木はそう言って眠りについた。


 東雲さんの電話番号は知っていたので、すぐに電話を掛けた。

 4コールほどで繋がった。


「あ、お疲れ様です。神崎です」

「お疲れ様です。お久しぶりですね、神崎さん。何かありましたか?」


「えぇ、昨日高木が報告した人形の怪異についてですが、人形自体は無害なものでした。人形には依頼主の娘の真冬ちゃんという女の子が憑りついていて、人形が向かった先の公園で、真冬ちゃんが生前残したメッセージが残っていました。そこでちょっと揉め事があって、依頼主だった斎藤楓という女性が僕たちを果物ナイフで刺そうとして、高木が妖怪?を使って取り押さえました」


「揉め事?高木君が何か失礼なことでも言いましたか?」


「いえ……、まだ確定ではないのですが、どうも楓さんが娘の真冬ちゃんを毒殺した疑いが、公園に隠してあったビデオテープで判明しまして。そのビデオを見て楓さんが取り乱してナイフを取り出したんです」


「その楓さんという方は警察へ?」


「はい、事情聴取のために連行されました。それと、高木が、楓さんには記憶処理が必要だ、と東雲さんに伝えてくれと」


「そうですか。わかりました。その件は私が処理しておきます」


「あの、記憶処理というのは何なんですか?」


「高木君の妖狐を見たのなら言えますが、我々霊能力者が保有している妖怪の中に、『人の記憶を操作する』能力を持っているものがいるのです。こういった怪異に関連した事件の後処理によく使われています」


「記憶を操作する能力って、そんなすごいことができるんですか」


「その程度ならかわいいものですよ、妖怪の中では」


 他にもいるのか、妖怪とかいうの。

 俺の中での妖怪のイメージは、面白おかしいもので、怖いという印象はあまりない。


「ところで、どうですか?高木君とはうまくやれていますか?」


 東雲さんが俺に聞いてきた。


「まぁ、ぼちぼちです。探偵の業務はほとんどやることがなくて暇ですけど」


「ふふっ、そうですか。うまく馴染めているようでよかったです」


「あ、そうだ。もう一つ東雲さんに聞いておきたいことがあったんですけど」


「なんでしょうか?」


「事務所の銀行口座に出所のよくわからないお金が毎月送金されているんですが、あれは一体どこから出ているお金なんですか?」


「……神崎さんは私と同じ疑問をお持ちのようですね。私も昔、そのお金のことを知り合いに聞いたのですが」


「はい」


「税金で賄われているとは教えてもらえたのですが、詳しいことは聞けませんでした」




 依頼があった日から1週間後、テレビのニュースで楓さんのことが報道されていた。


「本日、埼玉県○○市に在住している女性、高橋楓容疑者(28)が殺人未遂の罪で逮捕されました。高橋容疑者は再婚相手の夫の娘である、高橋真冬ちゃん(9)を2019年の8月に毒殺した疑いがもたれていて、容疑者が使用した毒物を警察が調べたところ、遅効性の毒物であることがわかりました。警察の取り調べに対し、高橋容疑者は『夫の愛情を受ける娘に嫉妬して殺した』と容疑を認めています。埼玉県警は、使用された毒物の入手経路などを詳しく捜査する必要があると発表しており、近く高橋容疑者を殺人の容疑で再逮捕する予定です」

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