第五十三話 兄弟姉妹
次の日、
先に、太皇太后から聞かされていたようで、
「
「おそらくは。本物の玉印も文章も、そして菊宸殿下も、
「そうか……」
実の父親が判明したのに、もう二度と会えない場所にいる。
竜胆はわたしに目配せし、頷くと、話し始めた。
「幸い、烏羽玉に加勢する
「竜胆が疎まれている、とは……?」
烏羽玉と戦うにあたり、竜胆の正体も明かすことにした。
これは、竜胆がそうしたいと言ったのだ。
「……そうか。まさか、竜胆が私の兄弟……、姉妹か? まぁ、どちらでも、家族に変わりはないということか」
「私がいれば、必ず烏羽玉を倒せます」
竜胆は自分に聖女の血が流れており、いざという時は
「いや、自死だけは許さん。竜胆の身体がどんな爆弾を抱えているとしても、それは使うべきではない。生きて戻ってきてほしい。そして、家族として、私を支えてくれ。
「……身に余る光栄にございます」
竜胆は目に涙を浮かべながら、微笑んだ。
「
「腕の立つ者に何人か覚えがあります。ただ……」
「わかる。家族は巻き込みたくないのだな。でも、それはもう手遅れだと思うぞ」
「え、それは……」
すると、廊下から二人分の足音が聞こえてきた。
「
「兄さん、姉さん!」
そこには、今にも泣きだしそうな姉と、困ったように笑う兄が立っていた。
「ど、どうして……」
動揺が止まらない。なぜここに、巻き込みたくないと願っていた兄弟姉妹がいるのだ。
「
「一番自由に育ったかと思えば、どうしてこうも巻き込まれ体質なんだお前は」
兄と姉の言葉が、頭の中をぐるぐると巡る。
「だめ、絶対に、絶対に関わらせないから!」
「お前が頑固なのはこっちも十分承知だ。だから、提案させてくれ」
兄は姉と視線を合わせると、頷き合った。
「私と兄さん、それに、父さんと母さんで、弟とこの
「で、でも!」
「日奈子様が烏天狗たちと一緒に守りを固めてくれるし、そもそも、妹に守られるほど落ちぶれてないんでね」
「
「女王陛下にも援軍を頼んでおいた。仲間の
「
まだ朝なのに。なんだったら起きたばかりなのに。涙が止まらない。
顔を洗ったことが無駄になるんじゃないかってくらい、涙が流れてくる。
やめてよ、抱きしめたりしないでよ。
泣かないでよ。兄さんも姉さんも、お願いだから、笑っていて。
わたしは負けたりしないから。
必ず、家族のもとに、帰るから。
「と、いうことだ、
「陛下がしゃべらなければ、こんなことにはならなかったんですよ」
「お前の姉上怖いんだもん」
「何かおっしゃいましたか、陛下」
「いや、何も」
久しぶりに見た。
竜胆はニヤニヤしながらこちらを見ている。
「兄さん、姉さん……。戦日が決まり次第、すぐに言うから」
「わかった」
「充分、準備するのよ」
「うん」
二人はわたしからそっと離れ、
「陛下、恨みますからね」
「うんうん。何年でも、何十年でも、受けて立つ」
「はぁ……」
人生がうまくいったためしなんてないけど、結構幸せに生きてきた。
わたしにとっては常に家族がすべてで、他は二の次。
自分のことはもっと後ろの方でもよかった。
それが、たった数ヶ月でこんなことになって、いきなり人生が大幅に進みだした。
「作戦立てて来ましょうか、竜胆」
「そうね。何事も早い方がいいわ。もうすぐお盆で大変だし」
「そうですね。祖霊の皆様まで巻き込むわけにはいきませんから」
「なんだなんだ、百鬼夜行でもあるのか?」
「陛下は大人しくしていてください。くれぐれも、陰陽術師たちの言うことを聞き、安全に日々を過ごしてくださいね」
「わかっているさ。もちろん」
わたしと竜胆は
夏の陽射しが庇に差し込み、手で触ると火傷しそうなほど欄干を温めている。
少し遠くでは
「今日のお昼はおそばにしましょうよ」
「いいですよ」
他愛のない話が出来るのも、平和だからこそ。
この日常を守るのだと、わたしは心に強く誓った。
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