青い金属、騒動の元

 凪君に商店街の入口まで送ってもらって、そのまま耳島のオッサンのところに足を運ぶ。

 ガラガラと店舗入り口の引き戸を開けて、大きな声でオッサンに向けて叫ぶ。


「疲れた!」


「おう、お疲れ。なんも構えねぇけどゆっくりしていきな」


 サンキューと謝意を伝えて、耳島のオッサンの店の住居部分で横になる。緊張からか身体が凝り固まっているぜ。


「首尾はどうよ」


「鼻っ柱に一発ぶちこんで帰ってきたから俺を下に見ることはないんじゃない? もし、あれだけかましてるのに俺を下に見てきたら残念だけど関係解消だね。先を見れない奴とは付き合えない」


「羅島の息子はそこまでアホじゃないとは思うがね」


 よいしょっ、と声を出して段ボールを持ち上げるオッサンの見つつ、これからの予定を考える。

 当面の課題は全部乗り切ったし、そろそろ趣味に生きてもいいのではなかろうか。そもそもなんでこんなピンチの連続なんだ俺。Btubeで一発当てて優雅な生活を送るために仕事を辞めたんじゃないのか高橋!

 よし! 一攫千金! 狙うは億万長者! そうと決まれば企画を立てなくては、俺はやるぞ! えいえいおー!

 と、なれば市場調査だ。どんな動画が受けるか調べなくては。


「オッサンってどんなBtubeの動画見てる?」


「俺はラジオしか聞かねぇ」


 スタートダッシュでこけた。ネットどころかテレビでさえないとは。

 

「今時化石みたいな生き方してんなオッサン」


「うるせぇよ。こちとら寝るが寝るまで帳簿の管理と戦ってんだ、目を使う娯楽なんざやってる場合じゃないっての」


 なるほど、そういう視点もあるのか。それならラジオ形式もありだと思えるな。


「つーかよ、お前さんのやりたいようにやるってのがBtuberって奴じゃなかったのか? 人から聞いたことやっても満たされないんじゃねーの」


「うわ、オッサンから正論パンチ食らった。ガン萎え~」


 正論は時に人を傷つけるんだぞオッサン。

 ぶーぶー言っている俺を見て笑うオッサンが、ほらよと何かを投げ渡してきた。

 それは、真っ黒な茄子のようで、しかして匂いはピーマンのそれ。とりあえず齧ってみる。


「うわ、口の中が醤油くさい!」


「≪醤ガ実≫ってダンジョン産の根菜だ。どうだ、ネタにはなるだろ?」


 いたずら小僧のように笑うオッサンに少しイラっとしながら、確かに料理系も動画受けがいいよなと思う。


「あー、考えがまとまんねぇや。美月に相談してみっかぁ」


「そうしな。少なくとも俺なんかよりよっぽど役に立つ」


「そうだな、オッサンよりは役に立つよな」


「なんだとこのやろー。そこはそんなことないよって言うとこだろがい!」


 オッサンの返しにゲラゲラと笑い、オッサンもつられて笑いだす。そんな風に雑談しているといつの間にか時刻は夕方になっていたのだった。







 夜も更けたので集会所に顔を出す。ひょっとこ面を着けてるので実際には顔を出してはいないんだが。


「こちらのケースの中身は?」


 集会所の入口でボディチェックを受けていると、担当してくれていた男性のスタッフに持ってきたジュラルミンのケースの中身を聞かれた。

 俺は説明するのも面倒なのでケースを開けて実物を見せる。


「ま、魔法金属……」


「そゆこと。じゃあ中に入れてもらうよ」


 上ずった声でいらっしゃいませと返せた彼はプロだねぇ。

 入口を通って中に入ると、フロアの中は過去二回に比べて明らかにハイランダーの人数が増えている。何かあったのだろうか?

 眼鏡のハイランダー、荒巻といったか。彼を探して周りをキョロキョロ見回すと。


「あら、ひょっとこ」


「霧島か」


 俺に話しかけてきたのは美月だった。見たこともない肩出しのパーティドレスを着こなして、まるでどこかの御令嬢のようだ。正体がバレるわけにもいかないので美月を名字で呼ぶ。


「なんでこんなにごった返してるんだ?」


「聞いてない? 明日への栄光が青生生魂の情報を持っているハイランダーに金一封って募集かけてるの。

 それで情報を得るためにこんなアンダーグラウンドまで押しかけてきてる人が多いってわけ」


「ここの情報を外に出すのはアウトじゃなかったか?」


「知ってるって人間は外に出て、ブラックマーケットの商談用個室で話すのよ」


 いいのか、それは? 美月に尋ねると、グレーゾーンだが見逃しているとのこと。全て取り締まると逆に反感を買って逆上される可能性があるので、それらを考慮して黙認しているらしい。経営者も大変だ。


「ところで、そのケースから嫌な予感がするんだけど……」


 美月が衣装に似合わぬしかめっ面でジュラルミンケースを指さす。ハッキリと、しかし小声で俺は答えた。


「うむ、噂の青生生魂を持ってきた」


「おバカぁあああああああ!」


 思いっきりグーパンチを俺の後頭部にヒットさせた美月は、矢継ぎ早にスタッフに部屋を用意するように指示を出す。

 俺は首根っこを掴まれ、大股で歩く美月に引きずられていく。大の男運べるって凄いなぁ。酒屋の荷運びで鍛えてんだろうなぁ。


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