神楽家のメイドになりまして。

瑞稀つむぎ

第1話

うう…。眠い。

今は、お昼寝盛りの昼休みです。

なのに、花壇の花に水やり中です。

花壇の花、全てに水やりを終えて隣の花壇に移動する。

瞬間、誰かの声。

「危ないです。」

私がビクッとして振り向き様に、その子に水をかけてしまうのと、その子が転ぶのが同時だった。

その子は、ぶんぶんと軽く頭を振って、水しぶきを飛ばす。

それが、犬みたいで私はクスっと笑ってしまった。

瞬間、その子が私をチラッと見上げた。

長いまつげとくっきりとした目が綺麗で、私はドキッとした。

とたん、その子はプイッと私から顔を向けると

「じょうろは黙って花にだけ水をかけててください。それとも、お前は人間と花の違いもわからないのですか。」

と言い放ち、すたすたと歩いていった。

へ? じょうろ? 花にだけ?

私はポカンとしたのち、自分がその子に水をかけた事を思い出した。

あれ、嫌味だ。

私は、ムッした。

だって、水をかけて、笑ったり、謝らなかったり、って私もたくさん悪い事したけど…と考えてそこで止まった。

今の流れでいったら、悪いのは完全に私だ。

相手に水をかけた上、笑って、謝らないなんて最低じゃん。

その事に気付き、私はその子が歩いていった方を見るがその子はもういない。

もし、どっかであの子に会ったらちゃんと謝ろう。

私は、そう決心して花壇への水やりを再開した。

瞬間、「わあ~。」と誰かの声。

次こそは、水をかけまいと気を付けがら振り向いた。

「君、可愛いね。」

え?

きっと、聞き間違いだ。

私は、水やりを再開した。

「君の事だよ。」

ん?

もう一度、振り向いてその子の顔を見る。

とてつもなく、かっこいい。

「大丈夫? 濡れてない?」

そういって、その子は片膝を地面につき、私にハンカチを差し出した。

その格好はまるでプロポーズ!

私は、思わずドギマギした。

頬を赤く染めながら、コクンと頷く。

「そっか。よかった。」

その子は、膝についた土を払って立つと、私の目の先に視線をやった。

「花、好きなの?」

別に、好きじゃ無いけど、なぜかコクンと頷いた。

「もしかして、君の名前、花に関係するものかな。例えば、ゆりとか。」

あ、近い。

私は、さらに顔を赤くしながら顔を横に振る。

「そっか~。名前、なんて言うの?」

「ゆうりです。」と言おうとして、やめた。

だって、いつもママに知らない人に名前を言ってはいけないと言われているから。

でも……。

その子の顔をチラッと見上げる。

その子は、あま~い微笑みを顔に浮かべる。

きらめくようなその笑顔が私の心に魔法をかけた。

ママの言ったことなんて、もういいや。

その時だった。

私とその子の間に、手が伸びてきた。

「おい、廉。」

そう言ったのは、眼鏡をかけた男子。

「おまえなぁ。やたらとナンパすんのやめなよな。」

ナンパ!

私は、目がまん丸。

まさか、これってナンパだったの!

今までの魔法が粉々になって消えてゆく。

もう、あの笑顔を見ても悪魔にしか見えない。

ナンパ男子は残念そうに吐息をつき、眼鏡男子を睨むと、私の顔を見た。

そして、バチンと音がしそうなウインクを残して、眼鏡男子と共に去っていった。

私は、唖然としてその場に立ち尽くしていた。

なんなの、あいつら。

ていうか、誰なの。

ここ、中学校の敷地内だから、あいつらは、ここの生徒ってこと?

えぇぇ、でも。

あんなやつがいたら、嫌でも目につくはずだし……

いったい、誰なんだろ。

キーンコーンカーンコーン。

5時間の始めを告げるベルが鳴った。

どんなに頑張っても、ここから教室までは2分かかる。

遅刻、確定。

東雲ゆうり。十三歳。今日は、踏んだり蹴ったりです。


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