第10話 艦のシステム

 まずは艦のシステムにアクセス出来るルナさんに、艦のシステムに干渉する方法を聞いてみる。


「ルナさん、この艦のシステムにアクセス出来るんですね」

「そうよ。さっきも言ったように私は生まれた時からこの艦を知っているから、私の体は艦の一部みたいな物なのよ」

「そうなんだ……」

「でも、システムへの干渉は出来るけれど、艦そのものの制御は不可能よ」

「それでもいいんです。わたし達もシステムについて何も分かっていないから」

「そう、分かったわ」

「ところで、ルナさんはこの艦が作られた星の出身なんですよね?」

「そうよ。私の星では人間とAIが共存していたの」

「ルナさんの星のAIはどんな風に作られていたのですか?」

「ええと……」


 ルナさんは考え込む。


「私が生まれた頃には既にAIは人間の社会に深く入り込んでいたわ。だから、私はAIの作り方なんて知らないのよ」

「そうなんですか……」

「ごめんなさい」

「いえ、気にしないで下さい。でも、AIは一体どうやって作られるんでしょう……」


 わたしは考え込む。


「花子さん、地球ではAIを作るのは難しいの?」

「うーん……。そうですね。多分、難しいんじゃないかなあ」

「どうして?」

「どうしてと言われても……」


 わたしはただの雑用係なので技術者のように専門的な知識があるわけではない。それでも宇宙戦艦に乗るためにいろいろ勉強はしていたので知っている知識を披露することにした。

 問題を解決するヒントはどこに転がっているか分からないからだ。素人が何を語っているんだと思われなければいいのだが。


「AIって人間が作るものなんですけど、それは人間と同じ様に感情を持ってるからなんです。でも、AIは人間みたいに複雑な計算をしたり、自分の意思を表現する事が出来ません。だから、AIを作ろうとしても無理なんじゃないかなあ」

「そうなんだ……。じゃあ、どうやったら作れるのかなあ?」

「それは分かりません。ただ、AIを作った人はAIが暴走する事まで想定していなかったかもしれませんね」

「AIが暴走するとどうなるの?」

「AIが暴走すればAIの人格が変わってしまうので、そのAIはもうAIとは言えなくなります。それに、暴走したAIは周囲の環境を破壊してしまう事もあります」

「そっか……」

「でも、今はそんな事を考えている場合じゃないですね」

「そうだよね」


 地球を救う為には超AIを止めるだけではなく滅んだ星の文明が残したこの艦も止めなければならない。そして、その為にはAIの作り出す超AIを止める必要がある。


「AIを止める為にはAIを作らないようにするしかありません。でも、AIを作れないようにするにはAIを破壊する必要があります」

「難しい問題ね」

「AIを破壊するにはAIの力が必要です。だから、AIを破壊する為にはAIの力をコピーする必要があります」

「それなら簡単だ。俺がこの艦に載っているAIの力を使えばいい」

「たかし、あなたがこの艦に載っているAIの力を使うにはこの艦のシステムが分かっていないといけないんじゃないの? この艦を改造する時もそうだったけど、私がこの艦をコントロール出来るのは艦に組み込まれたプログラムのおかげだわ」

「確かにそうかもしれない」


 艦長は残念そうに言う。


「でも、この艦を制御する方法が分かれば何とかなりそうな気がします」

「そうかしら? 私にはちょっと難しいと思うわ」

「そんな事ないですよ。きっと大丈夫です」

「そうね、やってみましょう」


 それからわたし達はルナさんの指示に従ってシステムの解析を行った。

 解析といってもわたし達はルナさんに言われるままにデータを入力したり、スクリーンに映し出されたデータを見たりしているだけだ。


「うーん……」

「何か分かった?」

「まだ何とも言えないな」

「そうか……」


 艦長が首を傾げるのを見てわたしは不安になる。


「ルナさん、この艦を解析するのは大変ですか?」

「いえ、それほどでもないわ。この艦には高度な技術が使われているけれど、基本的な構造は地球で作られた戦艦と変わらないから」

「そうなの?」

「ええ、もちろん違う部分もあるけれど、基本的には同じよ」

「へえ……」

「例えば、この艦に搭載されている兵器は地球の物より強力だけど、その分エネルギーの消費量が大きいのよ」

「そうなんですね」

「ええ、だから、この艦の出力を抑える為にも太陽熱を利用するシステムを開発したのよ」

「へえ……」


 わたしは感心してルナさんの話を聞く。


「でも、これだけ強力な武器を搭載しているのに出力を抑えてるなんて……」

「そうよ。それだけこの艦は高性能なのよ。多分、この星の科学力では再現出来ないような機能がたくさん搭載されているわ」

「そうなんだ……」

「さて、そろそろ解析も終わる頃ね。みんな、お疲れ様」

「ありがとうございます」「ああ、助かったよ」「うん」


 わたし達はルナさんの労いの言葉を聞いてほっとする。


「それで、ルナさん、どうですか?」

「ええと……」


 ルナさんは少し困った顔で答えた。


「どうやら、私にもこの艦がどういう状況になっているのか分からないみたい」

「ええ!?」


 わたしは驚いて大きな声を出す。


「うーん、私に分かるのは艦の一部だからシステムに直接アクセス出来ても、システムの状態までは分からないみたい。ごめんなさい」

「いえいえ、謝る事はないです。それより、システムの状態がよく分かっていないんですね……」


 わたしは考え込む。


「そうね。私はシステムにアクセスする事は出来るけど、艦全体の状態を把握するのは難しいの。だから、これからは艦長さんが自分でシステムをチェックしないといけないわ」

「そうか……。それは面倒だなあ」


 艦長が苦笑いをする。


「仕方がないでしょ。それがこの艦の艦長に与えられた権限なんだから」

「分かってるよ。まあ、とにかく頑張るしかないな」

「そうですね。頑張ってください」

「ああ」


 それからわたし達は食堂で休憩を取った後、艦長の部屋に向かった。


「艦長、今日はいろいろあって疲れましたね」

「そうだな」

「早く寝たいですね」

「そうだな」


 わたしと艦長は廊下を歩く。


「艦長、明日は何時に起きます?」

「朝飯を食べてから、この艦を調査に行こうと思っている」

「そうですか……」


 わたしは艦長の顔を見る。


「どうした?」

「あの、わたしも行きたいので起こしてくれませんか?」

「どうして?」

「どうしてって……、それは、その……」


 わたしは言葉が出ずに黙ってしまう。


「分かった。じゃあ、ちづるとルナを起こしてからお前も起こす事にしよう」

「お願いします……ってその二人も行くんですか?」

「ああ、ルナはいろいろと詳しいし、ちづるも行きたいと言っていたからな」

「なあんだ」


 わたしはほっとして言う。


「ところで、艦長は今晩は眠れますか?」

「そうだな……。正直言って、あまり眠くないな」


 艦長はあくびをしながら言う。


「やっぱり、艦長もこの艦の調査をするのは大変なんですね」

「そりゃそうだ。でも、この事態を解決する為には必要な事だからな」

「地球の超AIもこの戦艦も今の人類には過ぎた代物なんでしょうか」

「そんな事はないと思うぞ。この戦艦は俺達の先祖が作ったものだし、超AIは人類の英知が生み出したものだと思う」

「そうですよね」


 わたし達はそんな話をしながら部屋に戻る。


「ふう……」


 わたしと艦長はベッドに横になる。


「艦長、お休みなさい」「ああ、お休み」


 わたしと艦長はそれぞれ別の方向を向いて目を閉じる。


(こんな風に誰かと一緒に眠るなんて久しぶりかも)


 わたしはそんな事を考えながら眠りについた。




 次の日の朝、わたし達はいつもより早い時間に目を覚ました。


「ふわぁ……」

「おはようございます、ルナさん」


 わたしはルナさんに声をかける。


「ええ、おはよう」


 ルナさんが笑顔で言う。


「うーん……」


 わたしの隣で艦長が寝返りを打つ。


「艦長、起きて下さい」


 わたしは艦長の体を揺すってみる。


「うーん……」


 しかし、艦長は起きる気配がなかった。


「しょうがないな……」


 わたしは仕方なく艦長の耳元に口を近づける。


「艦長、朝ですよ」


 わたしがそう言った瞬間、艦長は飛び起きた。


「むにゃむにゃ……ぐがーーー」


 と思ったらまた寝てしまった。


「もう、どうしたら艦長は起きてくれるの」

「きっと疲れているのよ。今日の調査は延期してもいいかもしれないわね」


 そんな事をルナさんと話しながら苦笑いしていると、エプロンを付けて朝ごはんを作っていたちづるちゃんがやってきた。


「駄目駄目、お兄ちゃんを甘やかしたら。調査に行くと言ったのはお兄ちゃんなんだから」


 ちづるちゃんは艦長の傍に行くといきなり大声で叫んだ。


「起きろお兄ちゃん! もうとっくに朝だよ!」

「わっ!」


 艦長はそのままバランスを崩して床に倒れそうになる。


「おっと……」


 わたしは慌てて艦長を支える。


「大丈夫ですか?」「ああ、ありがとう」

「艦長、よく眠れましたか?」「いや、あんまり……」

「ほら、早く起きないと朝食抜きにするよ」


 ちづるちゃんがそう言うと艦長はやっと体を起こした。


「さすがにこの時間まで寝ていたから目は覚めたけどな」

「そうですか。じゃあ、そろそろ食堂に行きましょうか」

「そうだな」「うん」

 わたし達は食堂に向かう。




「それで、今日はどうするんですか?」


 わたしはルナさんとちづるちゃんに尋ねる。


「そうね。まずは艦のシステムの状態を把握したいから、艦長に艦内を見て回って貰おうかしら。艦長の権限でしか入れない場所もあるし」

「了解です。では、わたしは艦長を手伝います」

「あら、いいの? せっかくだから手伝いと言わずに遊んできてもいいのよ?」

「いえ、そういう訳にもいきませんし……きちんと雑用係として働きますよ」

「そう……。残念ね」


 ルナさんはちづるちゃんの方に視線を向ける。


「ルナ姉さん、何が残念なの?」

「何でもないわ」


 それからわたし達は食堂で朝食を取った後、艦長の部屋に向かった。そこでいろいろ荷物を持ってから出かけることにする。

 雑用係のわたしの荷物は重い。


「重い……そうだ、収納スキルを使えば」

「無くしそうだからきちんと手で持っていけ」

「はあい」


 それに関してはわたしも同意見なので逆らう理由がない。


「よし、じゃあ今日も頑張ろうぜ」


 艦長は元気良く言う。


「はい」


 わたしも気合いを入れて答える。


「お兄ちゃん、ちょっと待って」


 ちづるちゃんが艦長を呼び止める。


「どうしたんだ?」

「あのね……。昨日はごめんなさい」

「何を謝っているのか分からないが……」

「その、昨日の夜の事だけど……」

「昨日の夜? ……ああ、別に気にしなくて良いぞ」

「そう、分かった。でも、もし嫌だったら言ってね」

「分かったよ」

(もしかして、ちづるちゃんは昨日の事で艦長に何か言いたかったのかな?)


 わたしはそんな事を考える。


(でも、結局何も言わなかったな)


 ちづるちゃんは何を言いかけたんだろうとわたしは不思議に思う。でも、兄妹の事だもの。雑用係のわたしが口を出す事でもないよね。


「よし、じゃあ行くか」


 艦長の言葉にわたし達は歩き始める。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る